34 雨の後
週末にかけて複数のギャング団の抗争があった。そして、小雨がつねにぱらついていた。
街からは人が消え、すべての店もシャッターを下ろし、食料品が買えないので、多くの人々が困りあるいは餓死した。
断片的に、表を歩く構成員の話を聞いてレオナルドが推測するところによると、この都市の裏社会をどうやら三つのファミリーが牛耳っていて、彼らのあいだでさまざまなトラブルがあったが、これまではそれらを保留、あるいは見て見ぬふりを決め込んでいて、この週末に爆発した結果がこれのようだ。
怪異から抽出された食物の流通、それにともなう猟兵の買収、密造酒、ピザ、用心棒、ドラッグ、天空教会の運営する賭博場や娼館・煙館からのみかじめ料、おしぼり、不動産、占い師、そういったいろんな事業をどう振り分けるか、というので、チキンレースや競馬でなんども勝負があったが、決着は付かず、なし崩し的に鉛弾にものを言わせることになったのだ。
ミカエル・アシュベリーが日曜日の夜にレオナルドの部屋に駆け込んできた。腕から血を流し、小銃を携えていた。
「ちょっと水が欲しいんですが」
「水ならあげるから、あんまり血を落とさないで欲しいのですけど」
「沸騰させていただきたいですな」
レオナルドはやや嫌そうな顔をしながら、薬缶で水を沸かした。
「雨がやむ前にあと何度かやりあわなければならないでしょう」
「それまで生きていられる?」
「それは神と雨雲だけが知っているのです」
熱い湯を飲み終えると投げ出していた小銃を抱え、ミカエルは飛び出していった。その後、激しい銃声が響きこれは死んだかもしれないとレオナルドは思った。
数時間後雨が止んで、銃声も収まった。ためしに外へ出てみると、路上には血溜まりがいくつもでき、ギャングの死体、そしてなぜかネズミの死体がいくつも落ちていた。
ギャングのほうは銃創だらけだったが、ネズミのほうは原因が判然としない。殺鼠剤をどこかのギャングが撒いて、それにネズミたちが敏感に反応したのだろうか。
いくつか猫の着ぐるみも見られた。信号に引っかかっていたり、植え込みに突っ込んでいたり。中身を見てみようとしたが、ほとんど血だらけなので触りがたく、やめた。
路肩に放置されたトラックの荷台にミカエルがいた。雨が止んでいるのに〈雨男〉がまだいるのは、だいぶ致命的だな、とレオナルドは思った。
「大丈夫ですか?」
尋ねると相手は虚ろに答える。
「……ええ、少々一張羅と腕に穴が開いたのですが、大したダメージでもありません。しかしぼくから離れたほうがいいでしょう。晴天の側を歩きすぎたんだ。まもなく境界の向こうにぼくは消えるでしょう……あああ、雨が止んで久しい。未来は、現実は、すべては霧です。霧雨です。行ってください、レオナルド。一身上の都合でフェイドアウトするのはやむなし、しかし、やつらに一泡吹かせてやったのだから悔いはありませんよ」既に何らかの均衡が、ミカエルの体内から失われたことに少年は気づいていた。
「誰と戦っていたのですか」
「いくつかの怪異が含まれるギャングです。最後に……どこか花が咲いているところに、これを埋めて欲しい。それだけです。じゃあまたお会いしましょう、向こうで」
「ええ」
ミカエルは血で汚れた紙袋をレオナルドに渡し、少年はそれを持って、帰宅した。それ以来ミカエルは見ていないので恐らく、こちら側からは消えたのだと思われる。
紙袋の中身はミカエルが使っていた短刀の雑種刃と、「マイク・アシュトン」という人物の警察手帳だった。髪型は違うが、写真は明らかにミカエルだ。レオナルドはそれを誰にも見せず、終電で夜中、郊外の公園へ行くと、ヒマワリ畑の外れに埋めた。




