33 波濤
最近猿を見ることが多かった。テレビで野山の動物を取り上げたり、休日の動物園の光景を映したりすると猿がいる。そして、近所の屋根の上にたまにいたりもする。
猿か。レオナルドは猿について考えようとしたが特になにも思いつかなかった。
猿を最近見ることが多いな、と気づいた日から三日位すると今度は蛸をよく見るようになった。テレビ、ラジオ、街頭――魚屋で蛸を前面に打ち出して売っていたり。そこらを蛸を入れた袋を持って歩く人、あるいは直接手に蛸を持った人が行きかう。道に落ちている蛸。落ちている蛸は、怪異ではなかった。ほんとうに、ただなんとなく世間が蛸に侵されているのだ。
しかし、蛸が多いな、最近席巻しているじゃない、と思った瞬間、街からそれは消えていく。妙だな、と考え、これはひょっとすると、蛸や猿などのものや、それをもてはやす人たちではなく、空気そのものが怪異に侵されているのではないだろうか、とレオナルドは思ったが、まだしばらくは様子見。
次は生物ではなかった。腕時計だった。テレビ、ラジオ、街頭でやたらと腕時計を見るようになった。多くの人が両手首に付けているのだ。そこらへんのガードレールや配管にも腕時計。そのほとんどが止まっているか、あらぬ時間を指しているので完全な無用の長物。時計屋に行くと腕時計ですべて店が埋まっている。その店の店員は、足首にも腕時計を付けている。
しかし、そのことに自分が気づいたので、もうじきに次なるものが来るとレオナルドは分かっていた。
ひょっとするとこの瞬間ではないか、と、虚空に向けて雑種刃を振るった。
すると、なにかが弾ける気配がした。そこにあったものが、跡形もなく消えたような。テレビを見ても、ラジオを聞いても、街頭を歩いても、なにかひとつが蔓延していることはなくなった。
蛸も猿も腕時計も、蝋燭もクワガタムシもスキットルも、そこにはなかった。
しかし相も変わわらず病的な退屈と閉塞感と混雑があり、それはどうしようもなかった。
だから寝て、そして起きた後もずっとまどろんでいるしかなかった。




