30 寄贈品
レオナルド・バードが住んでいるアパートの窓の外はじかに通りであり、ある日そこにカサンドラ・バロウズが車で乗り付けてやかましくクラクションを鳴らした。
「姉さん、近所の迷惑とかも考えてよ」
「この車を見なよ」
それはこのアパートと同じく極めてぼろく、大量の排気ガスと、人間に例えると喉になにかつまったような騒音を常に出す体たらくだった。
「買ったの? さぞ安かっただろうけど」
「違ぇのよ、そこで人に貰った」
「なんで貰うのさ、体のいい廃棄処分じゃん」
「だけど新車をただでくれるなんてのが不自然なのに対して、こんだけぼろいと自然じゃねえかしら」
「いやどちらにしろ不自然だと思うけど」
「どっか行こうぜ」
レオナルドは言われるままに車に乗り込んだ。サンドラはペーパードライバーまるだしの手つきで運転し、近くの丁字路へやって来て、道のど真ん中に車を止めるといきなり降りた。慌ててレオナルドも降車する。
「どうしたの?」
「いや、飽きた」
「なるほど」
車は例によって渋滞を引き起こし、怒った後続車のドライバーたちが〈天空の賛美歌〉五番を、がなり声で熱唱しはじめた。
「ビールか牛乳か水牛の乳が飲みてぇわね」
「そこらのコンビニかどっかで買おう」
レオナルドが先に立って辺りをうろついていると、いつの間にかサンドラがどこかへ行ってしまった。
しかたがないので単独で歩いていると、後ろから小走りで彼女が追いついた。
「ごめんごめん」
「どうしたの? チャーリーみたいなことして、なんか興味をひくオブジェクトでも……」と言いながらレオナルドは、彼女が無造作にピザを手に持っているのに気づいた。垂直に掴んでいるので、具のチーズやらピーマンやらがぼろぼろと落ちる。
「買ったの?」
「いや、知らない人に貰った」
「なんで貰うの」
「くれるから」
「姉さん、むやみやたらに貰うのやめたほうがいいと思うよ」
「どうしてよ」
「必要じゃないときに必要じゃないものを入手するのはよくないと思う」
「そんなことねぇと思うのだけど」
サンドラがピザをまずそうに食べ終えるころ、一人のやや太った中年男性が、道を歩いてくるのが見えた。
「ねえレオナルド、あの人あたしに何かよこすんじゃねぇかしら」
「なんでそう言えるの」
「そんな気がするのよ、車とかピザくれた人もああいう感じの顔だったし」
「同じ人じゃないの」
「いえ、あんなに太っちゃいねえわ」
「まあ、世の中には三人同じ顔の人がいるって言うし」
「現ナマとかくんねぇかしらね」
しかし男性はなにもくれず、そのまま歩き去ろうとしたのでサンドラが、「なにかくれるって予定じゃなかったのかしら!」と大声で話しかけ、相手は狂った者を見るような目を向け、足早に歩いて行った。
釈然とせずサンドラは最初に車を乗り捨てた丁字路へ戻り、放棄された多数の無人車両を片っ端から蹴りつけ発散しようとしたがうまくいかないようで、〈天空の賛美歌〉十二番を大声で歌った。




