28 西七番隊集結
ある夜、レオナルドは急激に不安を覚え、今寝たら間違いなく悪夢になるな、という気分になったので、珍しく寝ないで表に出た。
すると無人の交差点のど真ん中に、サンドラがいた。
「ああ、予定通りだわね。さすがはレオナルド」
「は?」心当たりがなかったので少年は訝った。
「いい感じの壁を見つけたからそれを蹴りに行くってのはどうかしら」
「いやそういう気分になりはしないね」
「そう」
そこにシャーマン隊長が通りかかった。向こうは明らかにこちらに気づいているが、いつものように立ち去ろうとしたので、
「隊長。もう認識しました」とレオナルドが呼びかけると、露骨に嫌そうな足取りで向かってきた。
「ああ。こんばんは。この頃〈絆〉がマイナスに働くことが多いんだけど……サンドラ、最近マトモに仕事をしているか?」
「してるに決まってるわよ」
「ああ、そう。それが真実かどうかは今月の査定のとき分かるだろうね」
そうして話していると、ビルの間からジョセフが現れる。
「なんだ、珍しいなあ。こんな夜中にみんな集まってるなんてさ」
「久々じゃねえの。どっか行ってたのかい?」サンドラが馴れ馴れしく握手しながら聞いた。
「五キロ先まで飛ばされて、そこで一週間過ごしたんだよ」
「この流れ、既にルシアは来ているな」隊長が辺りを見渡す。そして、背中に勝手におぶさっている彼女に気づいて、ゆっくりと下ろしてから「やめろ」と言った。
隊長が言うには、猟兵同士の〈絆〉――出先で良く会ったり、いつの間にか家に来てたり、ピンチに現れたりっていう怪異の一種――がうまい具合にかみ合う日があって、恐らく今日がそれに当たるのだという。あまりいいこととは認識していない。そのまま二十分くらい、こっからどこか飲みにでも行く? いややめとこうか、なんて話をしていると、通りの向こうから百人の狂人が叫ぶような声が聞こえた。
その主は鹿の角が生えた巨大なウサギだった。両目と口から黄色い液体を垂れ流しながら闊歩する、怪獣と呼ぶべきものだった。
それから逃げるのはチャーリーだ。ウサギに負けないほどの音量で絶叫しながら走ってくる。
「ギガント・ジャッカロープだ! こっちに来るんじゃない、チャーリー! 川に落とせ!」
隊長が指示するが無視してチャーリーは突っ走ってくる。
「あんなでかいのを片付けるのはきついなあ」のん気にジョセフが言う。
「こういうときは」とルシア。
「都合よくあいつがやって来てくんないかしらねえ」サンドラものんびりとつぶやく。
「あいつって?」
レオナルドの質問に誰も答えはしなかったが、それはすぐ提示された。チャーリーを追いかけていたギガント・ジャッカロープがなんの前触れもなく真っ二つになり、煙と消え、代わりに見たことのない大柄な男が大剣の雑種刃を携えて立っていた。そいつは、曇り空のように陰鬱な色の髪と目をしていたが、立ちはだかる者は全部今みたく真っ二つにしようという、凶悪な決意が感じられた。そして彼が〈不通〉のアベルであることにレオナルドは既に気づいており、前にサンドラが言っていた「強さ」についてもなんとなく気づいていた。それはつまり、攻撃性だ。鋭く、閉塞感でもたれたような眼光は、もはや次の怪異へ向かおうとしている。
「アベル、新入りのレオナルドに対してなにか挨拶はないのか、おたく、無愛想すぎるし不義理が過ぎるんだよね、そんで連絡通じないし」
「確かに無礼だった。レオナルド・バード、オレはアベル・フィリップス、オレに連絡しようだなんて無謀な考えを抱くと危険だと思う。慢性的な絞首刑みたいな気分になりかねないからな」
「とはいえ望んであなたに連絡しようという人はあまりいないでしょう」いつの間にかミカエルがいて、話に加わってきた。「どうせ通じないのだから」
「雨じゃないのになぜいるわけ、ミカエル」ようやく呼吸が整ったチャーリーが聞いた。
「通りの一本向こうじゃ土砂降りの雨ですよ」
今や全員が、西七番隊のメンバーが揃ったがゆえに、自分が隊の人間だという帰属意識を覚え、それはひどく居心地が悪かった。
隣の通りの土砂降りの雨が、ビルを越えてこちらに来るところだった。それが通り過ぎるころには、ミカエルは消え、ルシアの気配はすでになく、ジョセフはどこかへ旅立ち、サンドラはいつかの待ち合わせのために立ち去り、チャーリーは街路樹の一本一本にぼんやりと目をやりながら、のろのろと移動しているところだった。
シャーマン隊長は何か言うわけでもなく、歩いて行った。
レオナルドがその場でまどろんで目を覚ますと自宅で、翌日の朝だった。




