22 歴史
それでレオナルドは翌日、礼拝堂へ行って、ケインズ司祭にダガスのことを尋ねたら、どうやら本当にそういう信仰がラプタニアと帝国西部には存在しているが詳しくは分からない、と言っていた。最近の司祭の懸念事項は魔獣だ。この前の騒動以来、本当に騎士団が存在もしない魔獣を狩ることに力を入れはじめ、下手をすると何世紀も前からそれをやってました、ってプロパンガンダを始めかねず、そうなった場合、なんらかの怪異と合併症を引き起こし、ほんとうにこの都市に魔獣が出現するかもしれない。という話だ。それで司祭は昼間から酒を飲んで、懺悔に来た爺さんに説教されるはめになった。一方、マチルダは休暇を取って旅に出ているそうだが、旅先で聖剣を振り回し拘束されてないかレオナルドは不安に感じた。
家に帰るとディンゴがいて、また部屋の隅を不安そうに睨んでいた。
「ところで、ディンゴはなにしにこっちに来たの」
「修行」
「修行って?」
「猟兵の技術を学んでさらに仕事を向上させてえんだ」
技術を持っている猟兵なんているだろうか。これまでの経験上、技術よりその場の気分のほうが重要になように思える。
「街に出て猟兵の仕事っぷりを見てえんだがなかなか目撃できねえんだな」
「来たばっかりで都市に体が馴染んでないから無理なんじゃないかな。怪異と猟兵を目撃するには、関係性なさすぎて」
「といってお前様はやる気なさそうだしよ」
「うん」
「誰か師匠役になってくれそうな人いねえかい」
レオナルドは二秒考えて「いない」という答えに達した。
直属の上司であるシャーマン隊長は説明を勝手に中略するし、同僚たちもあんまり人にものを教えるのに適しているとは思えない。隣の西六番隊の隊員たちはとにかく煙に巻こうとするし。
ターミナルのクロウ隊長? むろん論外。
「帰ったほうがいいんじゃない」
「かもしんねえ。まあちっと観光してそんで終わりでも良いな。アル・クックとおんなじ地を踏めたってので満足してさ」
「誰それ」
「何だって?」
「そのアル・クックって誰」
ディンゴは一層怪訝な顔になって、
「冗談言うんじゃねえよ、猟兵のお前様が知らねえってこたあねえだろ」
「あ、ひょっとして今の総裁の名前?」
「おいおい、本気かい。〈放蕩息子〉アル・クックって言やあ、最初に怪異に対し立ち向かった男、お前らの始祖じゃないかい」
「そうなの」
これは本来シャーマン隊長から聞くべき情報だよね、とレオナルドは思った。
入社時にもらったコインを取り出して、そこに刻まれた男の横顔をディンゴに見せる。
「確かこれがその人物だってことは聞いたんだけど」
「そう、帝政移行後の混乱の時代、追い討ちみたく竜が来襲して、人民はただぶらつくだけだった。だけどそこでデレキア貴族の子息とされる放蕩者が、初めてまともに立ち向かうんだよ。それがきっかけで大陸中で怪異への反逆が始まったのさ。アル・クックと名乗るこの男が、手当たり次第にものを投擲して竜を倒し、そのとき投げつけた剣、斧、包丁、鉄球、鐘、薬缶などの百の断片を鋳造したのが最初の雑種刃〈長子〉だってのは有名な話さ」
「なんでディンゴは外国人なのに僕より歴史に詳しいの」
「さあ。だけど確かに、こっちで人に聞くよりかアルバラの本屋で歴史書でも読んでたほうがマシかも知んねえな」




