21 祓魔屋
いきなり、十年来の友人みたいに、レオナルドの家に西の王国ラプタニアからの客がやって来た。洒落者じみた赤毛の男で、だけど暇さえあれば神経質そうな目つきで、部屋の隅をじろじろと見ている。
王国の人間は帝国人に比べるとさばさばしていて、物事をはっきりさせたがるというふうに一般的に言われているが、この男を見るとそうは思えなかった。
彼は祓魔屋ギルドの人間で、〈ディンゴ〉と名乗ったが、トランクにぶら下がっている認識票に〈ケネス・オキーフ〉と書かれているのでこちらが本名だろう。しかし、王国人は大らかあるいは粗忽で、他者のものを借りたままにしたり貸したままにしたりということがままあるらしいから、別人のものかもしれない。
「ウェスタンゼルスはでけえもんだな」男は言った。「アルバラとは大違いだ」
「王都はこんなの大きくない?」
「いや、向こうもこれほどじゃねえにしろでけえよ」
「向こうより埃っぽい?」
「アルバラだってこんなもんさ」
「車も王都よりずっと走ってるでしょ?」
「いや、概してそうとも言いきれねえな」
「じゃあ、同じようなものじゃないのかな」
「ああ、そういうこったな」
レオナルドはディンゴの仕事について尋ねた。
「こっちで竜やなんかがいろいろ大暴れしたころ、その話が島にも伝わったんだな。だけど断片的だし、よく分かんねえんで、まあとりあえずこっちもなんか対策したほういいんじゃねえの? って折に怪異が発生して自分でどうにかするしかなかったんだな。まだ猟兵社になるまえの自警団は後始末でごたごたしてたし。そんでてんでばらばらに皆が祓魔屋はじめちまって、かなりあとになってギルドが緩やかに作られてどうにかなったわけよ」
「そっちも雑種刃を使うの?」
「似たようなもんをね」
ディンゴが腰にぶら下げていたのは白銀の刃と古めかしい拳銃だ。
「この〈牙〉で切るかこっちの〈ピースモンガー〉をぶち込めばだいたいなんとかなるようにできてんだ」
「それで何とかならない場合は?」
「諦めて帰って寝るさ。お前様もそうすんだろう?」
ディンゴは三日間、レオナルドの家に滞在した。静かな男だった。持参した黒パンを食べるほかはあまりなにもしない。食事の前に〈ダガス〉という神に祈りを捧げるが、レオナルドは聞いたことがなかった。
「ダガスを知らねえ? そりゃ教養が欠けるってもんだぜ、レオナルド」
「結構ラプタニア系の知り合いいるけどなんにも言ってなかったよ」
「そりゃお前様と宗教の話をするほどの仲じゃねえんだろうさ」
「太陽神なんだって? ヒムの親戚?」
「ヒムと親子とか兄弟とかおじ・甥とか関係ないとか、同一の神だとかいろんな説があるさ」
「なにか胡乱だね。ひょっとしてだけど、ディンゴが今作った神様なんじゃないの」
「おいおい、箆棒なことを抜かすんじゃねえよ。リンダル人が移住する前からの土着神だよ」
「ふうん」
「祟られても俺は祓ってやんねえからな」
そう言ってディンゴは部屋を出て行ったがその後、神の怒りのような土砂降りの雨、そして雷、まったく止まず、夜更けまで屋根を打つ音がやかましく、雨漏りもひどく、これは祟りなのかと思ったが、まあ最近晴ればっかだったしたまにはいいんじゃない、それでこれはまたミカエルが、どっかで活躍してるだろうな、と思いながらレオナルドは寝た。




