2 芋虫
その後、シャーマン隊長から音信がなかったのでレオナルドは大学にも行かず家で延々まどろんでいた。
一ヶ月ほどしたあと、駅で地下鉄を待っていると隣にシャーマン隊長がやって来て、ぼそぼそと話し始める。
「仕事だ。銀輪街で苦しんでいる男がいる。行って助けろ。雑種刃をぶち込んでやれ。邪魔する民間人は排除しろ。制服を着るのを忘れるな。猟兵としての誇りと自覚を持て、レオナルド。まあグッドラック」
隊長は言い終わるとのそのそとホームを出て行った。
銀輪街までとりあえずやって来たレオナルド・バードが目撃したのは、大通りのど真ん中で蹲る小父さんの姿だった。彼のせいでスクランブル交差点は閉鎖され、車も歩行者もそれを見ているだけだ。この哀れな被害者の背中には馬鹿でかい芋虫がくっついていて、とても大変そうだ。
いつまで経っても群集は苦い顔をしてただ立ちつくすだけ。レオナルドはとりあえず人波をかきわけて、道の中央へ歩いて行く。
「大丈夫ですか?」小父さんに呼びかけると、
「大丈夫だ。まったくの問題なし」と気丈な答え。
しかし、中間管理職かなにかって感じのその人はひどく苦しそうで、滝のように脂汗を流している。
「死にそうですよ」
「気のせいだ、少年」
「そうでしょうか」
「そうなんだ」
「だけど、通行の妨げになっているんで、大丈夫なら移動したほうがいいと思いますよ」
「もちろん動くとも。だが、少し休んでからだ」
そういった調子で小父さんがやたら食い下がるので、これは本当に大丈夫かもしれないな、とレオナルドも思い始めたが、やはりまったく動く様子がないので、腰にぶら下げていた雑種刃にものを言わせようとする。しかし、手元が狂って小父さんを傷つけたら大変なので、群集の中から屈強そうな人を二人ほど連れてきて三人がかりで、巨大な蕪を引っこ抜く童話よろしく、背中の芋虫を強引に引っ張った。外してから安全に刃をぶち込むプランだった。
なにやらオレンジ色の粘液を吐いてそいつも抵抗したが、果たして外すことができた。ところが、小父さんの背中には穴が開いていて、芋虫で塞がっていたそこから空気が勢い良く漏れ、たちどころに皮だけになってしまった。
どうしようもなくなったので、芋虫とぺらぺらになった小父さんをそこらへんの溝に捨てて一件落着に思えたが、そのせいで汚水が交差点に溢れ出、通行人に多大な迷惑をかけたが、レオナルドはそのまま帰宅した。




