18 ある日
ジュジュが機嫌悪そうに歩道橋を渡って来るのが見えたので、レオナルドも上に登る。彼女はこの前の薬缶が増殖した件で、シャーマン隊長にあしらわれたのがかなり嫌だったようだ。都市を守る役目のくせになにもしない案山子の分際で、などときつい台詞を吐いた。「いやだから僕らはちゃんと働いてて、この前の件だって片付けたんだよ。あとでかい巨人を道からどけたり、芋虫に取り付かれた小父さんを助けたりとか僕も色々してるよ」
「へー」
そのまま道を横断して歩道を歩いていると、くたびれた感じの、サングラスの婆さんが異様な早歩きで接近してきて、レオナルドを無言で指差すと歩き去った。
それがどういう意味か考えているとジュジュが、「バード君、いつもボーっとしているよね」
「いや違うよ、確かに僕はボーっとしてるけど、今のは例外で、お婆さんがこっちを指差してきたのがなぜかって思って」
「本当かなあ」
「本当だよ」
「へー。そういう方向性の」
「だって誰だって気になるでしょ」
「かもね」
レオナルドは腑に落ちない顔で婆さんが行った方向を振り返る。婆さんがこっちを見てまた無言で指差していた。
「なんか知らないけど霊柩車見た気分だよ」
「それは失礼じゃない、バード君」
「ああ、そうかな」
この日は小規模な怪異はいくつかあった。同じ名前の飲み屋が二件連続であった(構造も同じ、繁盛してなさそう)。街路樹が一本だけ巨大な柱サボテンだった。卵安売り・お一人様一〇〇〇パックという誤植なのか冗談で誰かが作ったものなのか分からないチラシが落ちていた。ライオンくらいある三毛猫が通った。
これらの事象に対してジュジュはなにも言わなかったし、レオナルドが片付けることもなかった。
同日のハイライトとしてははるか彼方に聳え立つ高層ビルディングの上に巨大な獣、おそらくアンテロープの一種がいて、その場で困惑したように足踏みしている光景だった。
本来ならば上級猟兵であるサイラス等に連絡した上駆除してもらうべき怪異だが遠すぎてやらなかった。「ここに来て偶蹄目とは思わないよね」とレオナルドが言うとジュジュは、「え?」とかなり怪訝な顔をしてそのままいきなり道を左折して振り返り「帰る」と言った。
レオナルドは自分がなにかよろしくない行動をとったために彼女が気分を害したのではないか? と一瞬思ったが、心当たるふしもないし、自分もそのまま帰った。




