13 薬缶
久々にジュジュと遭遇した。先週は錆びた車列で埋まってて通れなかった四車線の道を歩いてるときのことだ。
「あ、バード君、またなんか暇そうな系統の状態だよね」
「そうなんだよ」
「そういえば君は怪異を狩るっていう風情のバイトしてたんだっけ? それらしいのあるんだけど」
「じゃあ片付けるよ」
「お願い、あ、だけどカネは出さないよ?」
「公共の場所にあるやつなら教えてくれるだけで良いよ」
「あ、そう。じゃこっちなんだけど」
ジュジュは小走りで先導する。レオナルドはあまり走ったりしたくはなかったが、我慢してやや嫌そうな顔で付いていく。
潰れた肉屋の角を曲がると想像を絶する光景があった。
急に開けて、夥しい数の薬缶が地平線までずっと埋め尽くしていたのだ。
真鍮の光沢がぎらぎらとまぶしい。薬缶の大きさは通常のサイズのものがほとんどだが、ところどころに直径一メートルほどのものや、遥かかなたにガスタンクほどのものもあった。
「なにこれ」
「いや分かんないけど怪異?」
「これきついなあ」
「えー、これどうにかするの君の仕事なんじゃないの?」
「そうだけどこんな大規模なのは……ちょっと隊長を呼ぼう」
通りに引き返したレオナルドは公衆電話からシャーマン隊長に電話をかけた。
「私の好意を無下にした子が何のよう」
「あのイカ痛みかけてたじゃないですか。なんか薬缶が大量に発生する怪異があって」
「薬缶? 誰かが燃えないごみの日を待ちきれずに不法投棄したんなら鉄屑屋に流せ」
「いや、地平線までぎっしりと」
「この大都市に地平線などない」
「いいからちょっと来てほしいんですけど」
「あ、そう」
隊長は意外に早く十分ほどで到着した。それを見るなり顔をしかめて、
「ちょっとちょっと、おいおい、何してくれてんの。おたく、レオナルド」
「僕ではないですよ」
「じゃあそちらの小娘か。この唐変木」ジュジュを指差して隊長は断ずる。
「ちょっと! 濡れ衣、冤罪って系の話なんだけど! 私はただ発見しただけだよ」
「なんでここまで拡大侵食したものを藪蛇的に運搬してきて。もういいからおたくはそこらの川面を木の枝でかき回してなさい」
ジュジュは無言で立ち去った。
「さてこういうときどうすればいいかと思うだろうけど」隊長は言葉を切ってでかい薬缶を見つめる。
「隊長がやるんですか」
「やらない。こういう数千回は雑種刃を使わないといけないような、日帰りじゃ無理なのは上級猟兵を呼ばないと」
「なるほど」
「資格ちゃんと持ってるやつ」
「隊長は持ってないんですか」
「筆記は通ったけど実地試験でばっくれた。ダルいんで」
恐ろしいことにそうしている間にも、あちこちで薬缶がどこからか涌き、盛り上がって山を形成し始めている。
隊長はどこかに電話をかけて、五分ほどでそいつは現れた。
鋭角な男というのがレオナルドの第一印象だった。切れ長の目、背筋を伸ばし、長い手足を鉄の棒のように振りかざして歩く、銀行員みたいな、眼鏡の人物だ。銀縁のそれがきらりと光った。
「はい、こんちは。わたくし〈瞬殺〉のサイラスでございます。うーん、ひどい状態だね」口調はその挙動に反して柔らかだった。サイラスが言うにはこれはどこかの誰かが薬缶を放置し、それが増えるのを見ても誰も手を出さなかったせいでここまで拡大したもののようだ。
「誰かが薬缶が増えていると認識し、早めに通報すればここまで拡大しなかったのだけど。都会の無関心ゆえ。そう、放置が一番悪い。人体もだ。人間ドックに行ってる? 病魔がばんばんあんたらを蝕んでるかもしんないね。特に隊長、年齢的に……」
「余計な話はいいから早くやって」隊長がそう言うと、
「いや、もう終わってるよ」
サイラスが剣を鞘に収める音が響いて、気づくと薬缶はもうなく、細長い路地に三人はいた。
「でこいつが元凶なんですわな」穴の開いた薬缶がひとつサイラスの足元にあった。「爆破するのが一番いいのだけど、お二方爆薬持ってない?」
「持ってるわけないだろ」
「じゃあ今からどっか遠くへタクシーで行って適当なところに投げ捨てて来ますから」
薬缶を持ってサイラスは走っていた。
「隊長、あれじゃまたさっきみたいなのがどっかで発生」
「言うなレオナルド、おたくが言わなければなにも問題はないんだから」
少年はそうした。




