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四朗  作者: やっことっぽ
7/13

尾張統一前半


それがしは奥村宗親と申す者。前田家先代利昌様から家老として仕えること数十年。次第に動かなくなる体に鞭打ちながら、戦場をひた走る日々。


奥村家の後継である助右衛門は先日元服を終え、今回が初陣となる。13歳という若さながらいっぱしの武者顔を見せておるから、奥村家は安泰であろう。おもわず、ここが戦場であることを忘れて微笑が浮かぶ。


去年の夏から始まった戦は終幕を迎えつつある。先代織田信秀様から持ち越した、守護代織田信友との戦いは、大うつけと呼ばれていた信長様の手によって終わるだろう。




清州城から出陣した信友軍と柴田勝家を先鋒とした信長軍は、安食あじき村で矛を交えることとなった。


当時の野戦は弓を放ってから足軽同士の槍衾やりぶすまに発展するが、槍の長さは普通一間半(約2.7m)。信友軍は当然それに倣ったものだった。


しかし信長軍の槍は三間半(約6.4m)で、長さから言えばこちらの勝ちであるが、そんな長さの槍がまともに使えると誰も思わないだろう。誰もが「信長はやはりうつけか?」と呟いたほどである。しかし、信長は簡単に常識を覆してしまう。


槍で相手を突くのではなく、上から叩きつける。重さに振り回されるなら、逆にそれを利用してやればいい。そんな単純な考えで採用された槍は面白いほどに敵側の動きを阻害した。

上から振り下ろされる槍に防御するしかない足軽は、槍を投げ捨て刀で頭を庇うが、それを好機とした三間半の槍が脇腹を襲う。信友軍が崩れるのにそう時間はかからなかった。



「ひゃ~~!首が取り放題よ~~~ひゃはぁ~~~!」


雪崩打つように退却する信友軍の背後を襲う騎馬武者の中に、利家も混じっているようだ。あのように不謹慎な程戦を楽しむ男は奴しかいない。

信長様は「心の臓に毛の生えた奴」と評したようだが、某からしたら「全身に毛の生えた獣」にしか見えぬ。

ただ、命を惜しまぬその働きで上げる戦功は中々のもので、信長様の覚えはめでたいようだ。その為、前田家家中で奴に心を寄せている者がいるのも事実。


面白くない…


某にとってはあのような分別のない獣に仕えるのは御免こうむりたいところだ。養子であろうと、利久様が決められた後継ぎは慶次郎様である。家臣は粛々とそれに従えばよいと考えるのは間違っているだろうか?


「乗り遅れるな~続け~~~!!」


「「おお~~~!」」


利家に負けじと声を張り上げ荒子勢を叱咤する。敵は瓦解しており大した抵抗は見られないので、ここは稼ぎ時だろう。足軽は捨て置き、武将首を優先的に狩りとり腰に括り付けた。

そして敵の背中を追うようにして荒子勢は清州城に迫る。すでに他の隊が城の石垣に取りついているようで、負けじと後に続き手を伸ばす。


「昇れ昇れ~~~!!」


誰よりも先に昇り切れば一番乗りとしての名誉を授かることができるが、功を急ぐほど死ぬ可能性は高まると言っていい。


「突出するな!他隊にまぎれよ!」


功は欲しいが命あっての物種。そう考え、他隊にまぎれて身を隠すように石垣を昇るが、上を行く者は次々と矢で射降ろされ、堀へと転げ落ちていく。

矢で即死した者、無理な体勢で落ちて惨たらしく息を引き取る者と様々だが、これは運の要素が強い。いや、むしろ運しかない。今まで数々の城攻めを経験してきたが、さほどの能力もない某が生き残っているのだから間違いないだろう。


「がはは!儂に当たるものか!ほれ。当ててみ~~~!!」


自分のはるか上を利家が昇っているようだ。あの様に騒げば狙い撃ちされるのがオチだが、一向にその様子はない。あやつも運が味方しているのだろう。忌々しいことだが…


「親父様!私たちも急がねば!利家殿に一番乗りを獲られてしまいます!!」


「逸るな!命あっての物種ぞ。城内に乗り込めばいくらでも功は立てれるわ!!」


「う~、しかし親父様~」


逸る気持ちを抑えきれない助右衛門。それもそのはず、この戦が尾張統一の最後の戦いとなるのは明白だからだ。

信友軍を破り清州を制すれば、後の弱小勢力は雪崩を打って信長様にすり寄るだろう。


(この戦で功を立てなければ利久様に未来はない…)


分ってはいるがここで無理をして全滅するようでは、利久様の悲しみは計り知れないだろう。やはりあの方の策がなるのを待つべきか…

矢が飛び交う戦場でありながら思考にふけってしまう。


“前田四朗利貞”


一年ほど前に前田家の養子となった少年だ。一つ下の慶次郎様と違って落ち着いた性格で、三国志の講義が得意な一風変わった方という印象であった。

その印象が一変したのが半年前。利久様に呼び出されたあの会合以来だ。


まさしく異才


この言葉に尽きる。


利久様の私室に集ったのは利久様は勿論、家老である私と後継である慶次郎様。そして…


「信友との戦では信長様が目を見張る武功を立てなければなりません」


そう切り出す四朗様。上座は利久様であるが主導権はこの方が握っておられるようだ。11歳の少年が当主や慶次郎様を差し置いて話を進める。

あってはならぬことだ…


「利久様!」


「よい…」


「しかし当主を差し置いて「よいのだ」…はっ」


その様子にキョトンとする慶次郎様に緊張した表情を浮かべる四朗様。しばしの沈黙の後またもや少年は同じ言葉を繰り返した。


「此度の信友との戦では信長様が目を見張る武功を立てなければなりません」


「「「……」」」


(そんなことは今更言われずとも分かっておる…)


心中毒づいてしまうは仕方ないだろう。織田家中での利久様の評価は最悪と言っていい状況だ。病気がちでこの数年手柄と言う手柄は上げておらず、血の繋がった後継さえいない。しかも信長様に嫌われてしまう始末。


尾張統一最後の戦で手柄を立てることが出来なければ、利久様は隠退を迫られるに違いない。慶次郎様が継げれば文句はないが、最悪な事に利家が当主に収まる可能性が高いのだ。

そうなれば私は素直に従えるだろうか?あんな獣に?


(冗談ではないわ!!)


「…この奥村宗親。此度の戦では命を賭して一番手柄を立てましょうぞ!」


「いえ。一番手柄は必要ありません」


「は?」


某の意気込みをぶった切ったその一言に空気は凍りつく。


「今、なんと?」


多少の怒気を含めてしまったが仕方がなかろう?武士に一番手柄は必要ないなど侮辱ではないか!!

四朗様は某の怒気に怯んだのか申し訳なさそうに頭を下げる。


「申し訳ありません、侮辱したわけではなく…一番手柄に値する武功は上げるが、評価はされないだろう。と、言いたかったのですが」


「分かりませぬな…一番手柄が評価されないなど、あってはならぬことです」


「ふふ、一番手柄などは…言ってはなんですが運による要素が強いと思います。まあ、その方の勇敢さが運を引きつけているとも言えますが」


多少落ち着いた某に微笑して語りかける四朗様。しかし11歳の童とは思えぬ考え方をするものだ。

確かに言われてみればその通りだろう。いくら怪力自慢の男であっても臆病であれば武功は立てれぬし、逆に非力であっても勇敢でさえあればあれよあれよと一番槍をつけていることが多々ある。


「確かに…」


「従来の力攻めや運頼みではなく、確実に武功を上げる必要があります。その為には多少戦の道から外れることをしなければなりません。それは正々堂々と言えるものではないでしょう。しかし我々が確実に武功を得るには仕方のない事と言えます」


「正々堂々ではないから評価されないと…しかしいくら武功を得ようと評価されなければ意味はないのでは?」


「そうですね、しかし評価とは誰からの評価を得ればいいのでしょうか?同僚から?民から?それとも信長様からですか?」


「…ふむ、それは信長様でしょうな。我々武士は主君の為に命を賭して働き褒美を得る者です。究極、主君の評価さえ得れれば後はどうでもいいと言える。のか?」


「ではその手でいきましょう」


微笑む四朗様に絵も知れぬ恐怖を感じたのは某だけであろうか?



1年ぶりの投稿です。覚えている方がいらっしゃったら済みません。

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