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四朗  作者: やっことっぽ
3/13

ひょいっ!と


俺の目の前には望まれぬ客が居座っている。自分とそう変わらぬ年であろうか、生地のよさそうな着物を着た少年が俺の“三国志”を立ち読みならぬ座り読みで熟読し始めてかれこれ一時間。


「おい!」


「…」


「こら!!」


「……」


営業妨害し続ける少年に怒鳴り付けるも一向に反応が返ってこない。実力行使しようと手を伸ばしてもどこに目がついてるのか、ヒョイヒョイと巧妙に避けられてしまうのだ。


なぜこうなってしまったのか?それは三時間前まで遡る。

宿でこん身の作品を書き上げた(盗作)俺は意気込んで大通りまで駆け、隅にムシロを敷いてそれを目の前に置いた。一冊しかないがむしろその方が目立つだろうと。


この那古屋の町は楽市楽座がとられていて、神社・仏閣に税を払う必要がなく誰でも商売をすることが出来るのだ。

しかし年端もいかぬ小僧が大通りで本を一冊のみ売ろうとしている姿はあまりにも周りに警戒を生んでしまったようだ。不審な視線を向けられることはあっても本を手に取るものはいない。


これは失敗だったかと焦り始めた頃、もっとも望まぬ客が近寄ってくる。


「これなに?」


「…本だ、売り物だよ。邪魔だからあっち行きな」


背は俺より少し高く、総髪姿の美少年が無遠慮に指を差しながら聞いてくるが、俺の望む購買層ではないので追い払うように手を振る。


「へ~珍しいね、どれどれ…三国志?聞いたことないな…」


「あっ勝手に!…まあいいや。君さ、商人の知り合いとかいない?親の知り合いとかでもいいしさ」


「…ええ?商人?う~んどうだろう?……黄巾の乱」


「そう商人。見たところ良いとこの坊ちゃんだろう君?出入りの商人でもいいしさ。紹介してくれればお小遣いもあげよう」


「……ええ?小遣いはいらないけどさ……劉備玄徳……桃源の誓」


「小遣いは足りてるか~でも何は欲しいものはあるだろう?何でも買ってあげるからさ」


「………生まれた月日は違えど、死ぬときは同年同日を願わん……カッケ~~!!」


「……おい!!てめ~聞いてね~だろ、おい!」


「……」


そして冒頭に戻る。


「商人を待っていたら変なのが釣れちまったな~はぁ~~」


何をしても無駄だと分かったので、納得のいくまで読ませてやろうと思う。無断で持っていこうとしたらさすがに止めるが、読むだけなら害はない。

まあ今日一日は無駄になるが、釣り針は垂らしたばかりだから気長にやろう。

と考えれば多少心に余裕が出来るもので、更に一時間経過し少年が本を閉じたのを見計らって声を掛けてみる。


「どうだった?」


少年は今俺の存在に気付いたかのように驚いた顔をしながらも、すぐにキラキラした目を向けてきた。


「すごかった!!何だこれ?どこで手に入れたんだ?!誰が書いたんだ…劉玄徳に曹操、趙子龍!スゲ~かっこい~な!!」


その様子に俺は手ごたえを感じた。期待した商人ましてや大人でもないが、この時代の人間にも光輝先生は通用するらしい。誇らしい気分だ。


「そかそか、楽しんでもらえてなによりだ。それよりもそれ売り物だから読み終わったんなら返せよ?」


興奮する少年を尻目に俺は本に手を伸ばすが…


「駄目だ!!」


何が?


少年はこれは俺の物とばかりに胸に抱いてしまって返そうとしない。


仕方ないよね、相手は子供だから…


俺はひきつった笑顔でもう一度手を伸ばす。


「売り物だから返そうね?」


「駄目だって!どこで手に入れたか言わないと返さないぞ!!」


何言ってくれちゃってるんですかね?この餓鬼は。


「てめ~餓鬼!!それはたった一つの売り物だぞ!返しやがれ!!」


俺の沸点は子供であろうと異常に低い。身を乗り出して体を拘束しようとするも見事にヒラリと避けられ、反対に背中をとられる始末。


おのれ~~


「どこで手に入れたんだ?言わないと返さないからな?」


「ざけんなくそ餓鬼!こんなことしてただで済むと「いてててて~~~!!!」」


くそ餓鬼は地べたを這いつくばった俺の腕をひねってきやがった。何なんだこの理不尽さは~~~。


「喋ったほうが身のためだよ~そ~ら!」


「ぎゃ~~!ロープっロープ!?タップっタップ!!分かった、分かったから!言う、言うから~~!!」


「うんうん。それで?」


「…実家に原本があったんだよ…その写しだ」


転生者にありきたりな言い訳をかます。これで大体は解決するはずだ。


「へえ~じゃあ君の実家に一緒に行って売ってもらおうかな?どうせなら原本がいいしね~」


「…」


「どうしたの?」


「あっ!いや間違った。それは確か旅の僧が持っていたもので、一晩泊めてもらった礼ということで貰ったんだった。いや~勘違いしてたわ、ごめんな~」


「へえ~宿を貸したのは君の親だろう?どうして君が貰ってるのさ?」


「……「いててて~~!やめろ、わかった言う言う!!私が書きました!創作です!妄想です!私は妄想やろうです~~~!!」」


あまりの痛さにとうとう観念してしまうが、前世の知識がありますとはさすがに言えないのでこれで納得してもらうしかない。これ以上は絞っても何も出ませんぜ。


俺はなんとか首をひねって少年の表情を窺うも、呆けた顔をしたかと思えば一転、弾けんばかりの笑顔を浮かべた。


「やっぱり思った通りだ!!きみ凄いんだな!俺とそんなに年は変わんないのにこれを書いたのか?きみ天才か?!」


そう少年は言うとすぐに拘束を解いてくれる。俺は服に付いた土ぼこりを手で払いながら彼の対面に座るが、何と答えたものか困ってしまった。

自分は天才ではなく前世の知識があるだけだ。すげ~だろ?と自慢するのも気が引けるし、何か喋ればぼろが出るだろう。


そう逡巡していると、少年はこちらの事情はお構いなしに畳み掛けてくる。


「兎に角一緒に来てくれよ。早く早く~」


そう言って立ち上がると、本を片手に俺の袖を掴んで走り出した。状況が呑み込めない俺はただされるままに足を動かすしかない。

袖を掴む少年の握力は予想以上に強くてびくともしない上に、息切れしている俺は怒鳴り付けることもできない。


大通りを越え堀の手前まで来ると、そこは大きめの建物が立ち並ぶ屋敷街だった。多分信長の家臣団が住んでいるのだろう。

あれよこれよと俺達は一軒の屋敷に飛び込んだ。


「あっ!おい!!」


俺の抗議を無視して更に奥へと進む。家の者とすれ違っても咎められないのはここが少年の家だからだろう。彼は庭から縁側に上がると目の前の障子を開けはなった。


「父上!」


全力疾走した俺は袖を離されるとそのまま倒れ込んでしまった。あまりの動悸や息切れに状況を把握することもままならない。


父上と呼ばれた部屋の主はいきなり飛び込んでき子供二人に怒ることも無く、人のよさそうな声音で問いかける。


「ほほっ!慶次か。この悪たれ坊主め、また何かしでかしおったのか?」


「はい!あっいえ。今日は悪戯ではなく凄い奴を見つけてきたのです。この本を見てください!この者が書いたのです。すごいものを見つけてきました~~!!」


「ほっほ、落ち着かぬか慶次。その者は疲れ切っておるではないか。少し落ち着きなさい」


「はっ!君、大丈夫か?」


少年は俺の状態に今気づいたのか、駆け寄って声を掛けてくる。しかし俺はそんな声は頭に入ってこない。


けっ慶次だと~!!


なんだかんだで俺は生涯の友となる前田慶次と出会うこととなる。




書き貯めた分はこれで最後です。いや~、書いていると毎日更新されている他の作者様の凄さが少しでも解ってきます。自分は無理ですね。ストーリーが全然浮かんでこないし、表現はこれでいいのかと悩んでいると全然進みません(笑)

以降の更新はコツコツ書き貯めて投稿したいですね。

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