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四朗  作者: やっことっぽ
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横山み〇てる先生

勘当宣言から三日後、又右衛門の見送りを受けながら俺は京への道中にいる。

見送りは彼一人だけだった。家族も親族さえいない中「必ず手紙をください」と言って、はなむけとして500文ほど渡してきたのだ。

今まで反発ばかりしてきた俺だが、おもわず泣いてしまったのは仕方ないだろう。彼の為にも京で一旗揚げなければな。


未来を期待させるような晴天の中、俺は尾張を目指している。尾張から美濃を抜け中山道を通って京を目指すのだ。直進距離を考えれば伊賀を抜けた方が早いが、10歳の足で踏破出来る道のりではないのでこちらは最初から除外だ。


それにしても俺はたった一人で旅をしているが、これは異常と言っていい。普通この年齢の子供には大人の供を付けるのが当然なのだ。

では何故一人なのか?実を言うと旅立つ時又右衛門に家中の者を供に連れて行けと言われたが、俺はそれを丁寧に断っている。

彼には今まで迷惑をかけっぱなしであったし、俺の非常識な行動のせいで十温字家は親父殿から睨まれている。

この上便宜を図るようなことをすれば又右衛門の発言力は地の底となるのは間違いない。断ったのは俺なりの最後の孝行というやつか?


と言っても尾張への道のりは子供の足でも一日とかからないので一人で大丈夫だろう。途中、揖斐川いびがわと木曽川が流れていて船渡しが必要となるが、この天候であれば問題なく今日中に那古屋まで着くだろう。


問題があるとすればそこからの道中だろう。京までの道のりは何カ月にわたることになるので、子供が供も連れず一人で旅をするのは危険すぎる。ここは平成の日本ほどの安全は期待できないので道中盗賊に襲われるのは目に見えている。


では護衛を雇ったらどうか?これも現実的と言えそうにない。というのも縁もゆかりもない土地で護衛を雇ったとしても途中その護衛に身ぐるみはがされる可能性が高いからだ。護衛は血縁の者に限る。


「又右衛門に旅の供を断ったのは失敗だったか…」


自分の言動に後悔するが今更だろう。ひとまず早いとこ町に入らないとな。


夕暮れを背に目近にせまった那古屋の街を視界に収めた俺はあぜ道を早足に往く。畑仕事を終えた農民も帰路を急いでいるが、俺を追い抜くたびに不審な目を向けて来て多少居心地が悪い。

結構な荷物を抱え旅装束をした子供が一人で歩いているのだから当然か。視線に耐えきった俺はようやく町に足を踏み入れる。


「へ~。結構賑わってるんだな~」


初めて目にした都会(この時代では)は実家と比べるまでもなく人でごった返している。建物で挟まれた大通りは10m程の幅でゴミ一つ落ちておらず、この町を治めている信長の性格をうかがわせた。

大通りの先には堀に囲まれた石垣があり、その上に屋敷群が存在している。信長の本拠だろう。


この町にはしばらく滞在する予定だ。道中の安全策を考えなければならないし、信長の情報を入手する必要もある。

俺はある程度の歴史は知っているが、今がどの時期に当たるのか分からないのだ。歴史知識は俺が戦国の世で生きていく上で生命線なわけで、情報は軽視することはできないだろう。


宿をとる時、子供一人なので一悶着あったが何とか前金を払って常宿を確保した俺は、早速とばかりに適当な飯屋に向かった。

この当時は酒場は存在しないため、情報収集には飯屋が最適だろうと考えたが正解だったようだ。


時間は日が暮れる一時間程前、仕事帰りの人足や商人が酒と飯をかきこんでいる。俺は目立たぬように室の角に座り焼き魚と茶碗一杯の飯を注文し聞き耳を立てる。


飯を口に運ぶのもそぞろに耳に入れた話からは、やけに信長の話題が多いことに気付く。どうやら信長は尾張一国を収めようと奮闘中の様だ。

現状那古屋を中心に尾張の半分ほどを手中に収め、休む暇なく四方に日夜兵を差し向けているらしい。


中でも話題の中心は昨年の聖徳寺会見だろうか?斉藤道三と信長が初めて顔を合わせた有名な会見だ。

道三は当初大うつけと呼ばれる信長に娘を嫁がせ、後々尾張を乗っ取る腹積もりだったらしい。しかしこの会見を機に道三は信長に対して本当の子のように接することとなる。


道三は信長が聖徳寺に向かう道中、一軒のあばら家でその姿をのぞき見したらしい。その姿は大うつけと呼ばれるにふさわしいものだった。背に男根の絵がでかでかと描かれた浴衣を着流し、腰には何個ものひょうたんをぶら下げ荒縄で縛っている。

馬の乗り方とて尋常ではない。馬の尻を見るように後ろ向きで、馬上片足を胡坐のようにかいている。


この姿に道三の側近は呆れたという。しかし道三は何を思ったのか終始無言だったらしい。信長の後に続く何百と言う鉄砲隊を見たからだろうか?

この当時の鉄砲というのは戦場での役割を確立していない武器だった。信長の躍進とともにこの武器は諸大名に注目されていくわけだが、当初は誰もが鉄砲に対して懐疑的な目を向けていた。

であるのにこの「大うつけ?」は高価である鉄砲を何百丁と揃えているのだ。道三の警戒も頷ける。


その後の会見も信長の独壇場だった。大うつけの姿に合わせて普段着で構えていた斉藤山城守道三の前には、先程の姿とうって変わった正装で現れる織田上総介信長。道三はその変わり身の早さと人を食った信長という人物に不快感を覚えながらも底知れ無さに戦慄していたかもしれない。


会見後道三の家臣が「信長は評判通りの大うつけでありましたな」と言うと、「無念だが、儂の息子はその大うつけの下につくことになるだろう」と評したらしい。

これ以後信長を大うつけと呼ぶ者はいない。膝元であるこの那古屋での彼の人気は大層なもので、情報収集に事欠かなかったのは正直ありがたい。


城下に滞在して一週間というもの、俺はこれからの事を考えている。

京までの道のりは子供の足で三か月はかかるだろう。道中の安全を考えれば護衛は必要だが、自分には伝手がないので一番いいのは京に向かう商隊に同行させてもらうことだろうか?


しかし京までの販路をもった大商人が俺みたいなガキに会って話を聞いてくれるだろうか?…無理に決まっている。じゃあここに永住してしまえばどうか?…これも無理だな。縁者もいなければ仕事を探すこともこの年では容易ではない。

となるとやはり商人を頼るしかないわけで、何とかして彼らの注目を集めて話をする場を作り出す必要がありそうだ。


「おれが今出来ることは…簿記の知識や計算能力を見せつけて取り入るか?…いやこの年でそんなこと出来たらおかしいだろう?だとしたら…」


俺はこの一週間、情報収集のほかにどんな商品がいくらで売られているかの調査もしていたのだ。それで気付いたのは書籍が大変高価だということだ。

この当時の知識人のステータスは書籍をどれだけ所有しているかであって、しかも明王朝からのものは鎖国していることから大変希少となっている。

それらを持っていれば商人の目に留まることは間違いないだろう。本と交換で京まで同行させてもらえば安全な旅になるに違いない。


そうと決まれば本を手に入れたいところだが、言った通り高価なので今の手持ちでは手に入らないだろうし、ありふれたものでは意味がないのだ。

となれば自分で作るしかないわけだが…そういったものは読んだことも無ければどういったものが有るかさえも知らない。


「いや、一つだけあったな…」


“三国志”


そう皆大好き三国志だ。しかも横山光輝先生の漫画本が好きで中学校から読み始めて30代で死ぬまで休みの日は必ず常読していた程のファンだ。

いわゆる三国志オタクか…


ということで俺は紙を買ってきてストーリーを書き出していく。更にはこの時代向けに話を盛って脚色し始める。満足のいくものに仕上がるまで一カ月必要だったが商人の目に留まるに違いない。


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