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四朗  作者: やっことっぽ
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奇襲大作戦

尾張織田信長が進める兵農分離には莫大な金銭と食糧が必要になる。元来各村は領主の求めに応じて若衆を中心とした兵を派遣することになるが、武器は村人持ちであっても食糧は領主の負担である。

そして合戦が農繁期であった場合は兵となる村人の確保が困難となり、例え無理に脅して参戦させてとしても村人の士気は上がらない上、兵糧確保が難しくなるだろう。

となれば合戦は農繁期を避けて行われることになるが、ここにその常識を全く無視した集団が砦を取り囲んでいた。


「奇襲大作戦大成功~~~~~~~~!」


八幡神社に程近い小浜城は城と呼ぶにはおこがましいほどの規模である。山の起伏を利用した申し訳程度の石垣の上に屋敷の屋根が見える。小浜氏の居城だろう。その居城の窓格子からはちらちらとこちらをうかがう顔が見え隠れしていた。

突然自分たちの城が取り囲まれて動揺しているのだろう。朝起きて見れば500以上の兵に取り囲まれているのだ。青天の霹靂に違いない。


「…しかし、よくこんな悪知恵が働くもんだぜ。なあ四朗よ?」


横に並び立つ嘉隆が飛んではしゃぐ俺へため息交じりに語りかける。


「え?奇襲なんて戦争の常識でしょうに。夜討ち朝駆けって言うよね?」


「だとしてもだ。やり方がえげつね~ぜ」


巨漢の男が俺を見下ろしながら語りかけるものだから、おもわず小躍りを止めておっかなびっくり返答する。


「えげつないって…兵を現地集合にしただけだけど。まあ敵に気づかれないように夜陰に紛れてだけどね」


「あのな…それだけじゃね~だろが!猟師の格好に化けた兵をばらばらに森の中に紛れさせて戦闘開始で城を取り囲むなんざ~常識外だろ!!」


「いやいや常識内だって。なにもぞろぞろ行軍して”今攻めますよ~”て教える必要ないから。そんなことしたら村々から兵が集まっちゃうでしょうに」


「だからそれが常識外だって…まあいい。お前がいかれてるのはよ~くわかったぜ」


「え~~~、失礼な!」


嘉隆は何を言っても無駄と諦めたのか目の前の城を見据え直した。視線の先の大手門では門を破ろうと丸太をぶつける九鬼軍とそれに抵抗する敵兵が見て取れる。

抵抗する敵兵の士気は目に見えて低く人数も少ない。日の出前の突然の攻撃に対応できる兵は数えるほどで、それ以外は寝起きなのだろう。鎧さえ身に着けていなかった。


反対に九鬼軍は何十倍もの兵力差による安心感があるため士気は高い。

後方からは食糧や補充物資を積んだ荷車が続々と姿を見せており、それが一層兵の攻勢を強めているようだった。


「時間の問題だな・・・」


嘉隆の呟きからまもなく、門を破った自兵が城になだれ込んで行く。小浜氏が降伏するのにそう時間はかからなかった。

小浜久太郎及び直系の男子は斬首とし家臣団の領地は安堵。また九鬼家への裏切りを防止するため旧小浜家重臣からは人質を取る。

中々苛烈な条件であるが彼らは飲まざるを得なかったようだ。このまま戦えば全滅は目に見えているため、領地安堵はむしろ好条件だろう。九鬼家としても戦後の統治を考えれば、この地に根付いた豪族を利用しない手はないのでウィンウィンの関係といえる。


小浜城での戦後処理を終え俺は宣言する。


「同じ要領で志摩の城全部攻めるから」


皆を集めて俺が言った言葉通り、農繁期の終わりには志摩を統一することに難なく成功する。要したのは3ヶ月程で領地が増えるごとに雇う兵も増やして行き、最終的には三面作戦を取れるほど膨張したほどだ。あまりに呆気ない戦果に首を傾げる者ばかり。


伊勢北畠家もあまりのことに援軍を派遣する暇さえなかったようだ。今頃になって国境に軍を動かすも、志摩を統一した旨の使者を送るとすごすごと帰っていく。


そしていつの間にか志摩を実質支配することとなった九鬼嘉隆。まるで狐につままれた表情を浮かべていた。それも当然だろう、大博打だと意気込んで今回の作戦に参加したまではよかったが、あれよこれよと志摩の国主になってしまっているのだ。乗せられた感が強いに違いない。


「で?何で俺様が国主なわけよ。兵と食糧その他諸々は四朗、お前持ちなわけだからな。領地を半々がいいところじゃね~か?」


あまりの旨すぎる話に猜疑心を隠そうともしない嘉隆。俺に何の得があるのか疑うのも無理もない。だけど俺が欲しいのは領地じゃないんだよな。


「領地の変わりに貰えるものは貰ってるだろう?それで十分だからねこっちは」


「そうは言うがな」


予想通りの返答に苦笑する嘉隆は手元に視線を下ろし、何度となく目を通した書状を読み返す。その書状は松谷徳兵衛から受け取った、俺から嘉隆に宛てた手紙だ。

その手紙の内容はどのように志摩を統一するか詳細に書かれており、これが嘉隆の重い腰を上げた要因であるが、更に志摩統一後の俺が貰う報酬が羅列されている。

内容は・・・


1、志摩統一後九鬼家は全面的に前田四朗に協力すること。ただしそれに見合う対価を支払うとともに九鬼家に不利益となる依頼は断ってよい旨。

2、織田家との交渉の際は前田四朗を交渉役として介する旨。

3、大湊の自治を認めるとともに周辺沿岸部の使用権を認める旨。

4、前田四朗が行う志摩での商行為は一律非課税とする旨。

5、九鬼家は海軍および傭兵部隊を創設し対価をもって前田四朗に協力する旨。


旨みはある。確かにあるだろう。しかし国を支配する利益に比べたらどうだろうか?嘉隆には理解できないのであろう微妙な表情を浮かべている。

最も嘉隆だけでなく理解できる人物がはたしてこの時代に存在するかどうか。


俺たち二人は初期に手に入れた取手山砦の一室で膝を突き合わせて話をしている。この砦は標高50mほどの丘陵部に築かれており、伊勢湾に浮かぶ島々を見渡すことが出来る。

耳を澄ますと木槌の音だろうか?子気味のよい音が一定のリズムで木霊す。心地よい音色だ。


「普請は順調のようですね?」


俺が話をふると強面の表情を崩して嬉しそうに喋りだす。


「おうよ!おかげさんでな!!新しい居城は鳥羽城と呼ぶことにしたぜ。志摩を支配するに相応しい城になるだろうぜ!」


嘉隆は俺の助言と援助を元に志摩国主として相応しい居城を築城中である。この取手山城から南に一キロ程離れた湾に面した平城で、守るには不便だが商業の活性化という面では最適と言える。


「それは良かったです。投資した甲斐があったというものです」


俺がそう答えると嘉隆は表情を改め、こちらを窺う様な視線を向ける。


「その投資よ。そいつが分からね~んだよな~」


「何がです?」


「何ってあんた投資投資言ってやがるが、俺への援助額は半端なもんじゃなかったはずだ。何しろ志摩を統一するほどだからな。そして極めつけが鳥羽城の築城資金をも出しやがる。投資を回収する見込みなんてあんのかね?…言っちゃ悪いがこの地は米も取れにゃあ目ぼしい鉱山もねえ。ないない尽くしだぜ?」


「ふふ、どうやら心配をお掛けしたみたいですね」


「ばっ!馬鹿野郎!!俺はただ……」


照れくさそうに顔を背けるその仕草に笑いがこみあげてくる。


「ただ?」


「ただ……ただ貰いっぱなしつうのは俺の性に合わね~んだわ。さっさとあんたに儲けてもらって貸し借りなしにしたいわけよ。分かんだろ?」


「ふふ。ご心配には及びません。すでに目星は付いてますからね。まずは貝を見つけることからですが、この湾に生息しているのは分かっていますから。2年もすれば投資額は何倍にもなって返ってくるでしょうね」


俺の予想外の答えに疑問符を浮かべる嘉隆。


「は?貝だって?それに2年で…か?」


「ええ。この地はこの志摩は宝の宝庫です」


満面の笑みを浮かべる俺と対照的に不審な表情を崩さない嘉隆。まあ論より証拠だ。早速取り掛かるとするか!



一話の手切れ金50貫→2貫。

二話のはなむけ20貫→500文に変更しました。1貫=1,000文とすれば子供が持てる重さじゃないですよね。

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