言い分
“ジブラ”に門を破壊され、その修理を“ユニオン”の住人に任せている。せっせと修理をしてくれる住人も守るのが、警備兵の役目だ。
すると、坂をゆったりと上ってくる人が数名現れる。
「! お待ちください。あなた達は?」
人数は四人。“ジブラ”ではない。だが、四人とも黒いロングコートを着ており、そのコートは紅いラインが数本巻き付くように入っており、なかなかお洒落だ。
「“東方”の者です。“ユニオン”の司令官に会わせていただけないかしら」
「“東方”の…しかし、司令からは何も聞かされては…」
「てめぇらの“ユニオン”の兵が、俺たちの同志を怪我させたんだろうが!! いいから通せや!!!」
「ひっ!?」
一人は丁寧な口調で女口調、だが男で、もう一人はかなり乱暴な口調の男。
「おい、事を荒げるな」
「でもよ、こいつらから仕掛けておいて、何も聞かされてないはねぇだろ!?」
「落ち着け。何も戦争しに来たわけじゃねぇんだから」
もう一人の男が乱暴な口調の男を宥める。
すると、門のある入り口から、七月が出てくる。
「すいませ~ん、“東方”の人達ですかね~?」
「あら、可愛い子ね」
「……腰に差してる武器…太刀じゃないか?」
「あぁ? “ユニオン”に太刀使いはいねぇだろ。刀か剣じゃねぇのか」
警備兵を通り抜け、七月に連れられて司令室へ向かう。
____司令室
「こちらが司令室です」
「…てめぇも中に入れ」
「え」
「まあ、女性一人相手に男四人が文句言う図も美しくないわ。一緒に入っちゃいなさい」
「……了解です」
渋々中へ。凛として立っている天歌が部屋の中央に。七月も一緒に入って来たことに少し戸惑ったが、スッと天歌の斜め後ろに移動したことを確認し、最低限の礼儀は熟知していると判断する。
「…ようこそいらっしゃいました」
「お久しぶり、天歌ちゃん。元気にしてたかしら?」
「ええ、ご無沙汰しています」
「天歌よぉ、今回の件はちょっとめんどうだぜ?」
「はい、申し訳なく思っています」
どうやら知り合いのようだ。険悪なムードはなく、むしろ歳の違う友人同士の会話に聞こえる。
「七月、紹介するわ」
「はい?」
少し横に移動し、七月が四人を見れる状態にする。
「こちらは、“東方”の“後方騎士団”の隊長、筑前 三知さん」
「よろしくね」
オカマだが、その佇まいは隙が無く、左腰に剣、右腰に銃が差してある。
「“盾騎士団”の隊長、薩摩 二獅さん」
「よろしくな」
背中に、タワーシールドと呼ばれる大きな盾と槍を背負っている。乱暴な口調だが、その実力は折り紙付きだ。
「“侍隊”隊長、日向 五牙さん」
「…よろしく」
腰には“長刀”と呼ばれる刀身の長い刀が差してある。何もしていなくても、その姿からは威圧と威厳のオーラが醸し出しているように見える。
「…そして、“東方騎士団”の副隊長兼街管理人、龍神 一坐…さん」
「どうも」
四人の自己紹介を終え、七月は少し固まっていた。
「………“龍神”…?」
「…ええ、私の父よ」
「!?」
龍神 一坐と龍神 天歌。二人は親子で、別々の勢力に所属しているようだ。
「い、いや、それって…」
「……とりあえず、龍神さん、筑前さん、薩摩さん、日向さん。…話し合いを始めましょう」
テーブルと椅子を用意し応接する。七月は、天歌の斜め後ろで立ち、何かあった時の為に待機する。
「まあ、あなた達“ユニオン”と“ジブラ”の抗争に関与する気はないのだけれどね。でも、その抗争に“ウシラン”が巻き込まれるのであれば、私たちだって容赦はしないわ」
「無論、両者の勢力を滅ぼすつもりでやるぜ。こっちは別に、お前ら二つの勢力が無くなったって損も困りもしないんだからよ」
「…………」
筑前と薩摩の言葉に、天歌は顔を曇らせる。
「こちら側の提案としては、そちらの物資…具体的に言えば、“資材”と“食材”を無償提供…期間は一ヶ月ってところだな」
「! 一ヶ月…!? でも、この時期は収穫が少なくて…」
「“ウシラン”に喧嘩を売ったのは“ユニオン”の兵士。つまりは、お前の監督不行届だろ」
「うっ…」
日向の言葉、そして自身の父親の言葉に反論できない。
「条件に不服があるのなら、この話し合いは無しだ。後日、この砦を落とさせてもらう」
「(……考えて…考えないと…砦を守る為に“東方”を敵に回したんじゃ意味がない…)」
自身の父親が来ると知って、少し油断していたのかもしれない。大目に見てくれるとか、そんな期待。
だが、そんなことには容赦しないというのも分かっていたはず。
「……止めに入った方の怪我の様子はどうですか?」
「殴られた右頬は腫れてるけれど、命に別状はないわ」
「……なるほど、じゃあ俺の言い分は通りそうですね」
七月がサッと天歌の前に出る。
「…七月? 何をする気なの…?」
「“ユニオン”側の言い分を主張するんですよ。何も、全て受け身になることはないですから」
ニヤリと笑う七月に、天歌は嫌な予感しかしなかった。