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形のカタリ  作者: ダーカズ
第1章・“ユニオン”
7/82

最大勢力

「全員、構え」


少女が指示を送ると、増援に来た“ジブラ”の兵達は一斉に銃を構える。


「…………」

「に、逃げられないのか…!」

「くそ…くそくそくそ! 何もできてないじゃないか!」


“ユニオン”の兵達は絶望し、その場に崩れ落ちる。

しかし、七月の眼は絶望しておらず、何かを数えていた。


「……なるほど…十分か」

「…? 何か言った?」


少女が七月に太刀を向ける。七月は視線を少女に戻し、ニヤッと笑う。


「環境は十二分に利用しないとね」

「え?」


七月は太刀を構える。だが、それは蝶ノ型ではなく、太刀を中段の位置で押さえ、居合いを彷彿とさせる構えになる。


「全員、砦に向かって全力で走れ!!」

「!?」

「な、なに!?」

「何でもいい! 言われた通りに走るぞ!!!」


七月が何かを仕掛けると分かった味方は、七月の言葉通り全力で走る。しかし、敵がそれを許すはずもなく、その引き金を引こうとする。…だが、七月がそうさせない。


「鳥ノ型…!」


音も立てず、七月の姿が消える。それと同時に、“ジブラ”の増援がいる数本の木が音を立てて倒れ始める。


「な、なんだ!?」

「木が勝手に!?」


次々と木が倒れていく。“ユニオン”の兵に向けて銃口を向けるのだが、倒れてくる木が危なすぎて撃つことができない。


「………そこか」


少女がスゥと構えをとる。


「…鳥ノ型」


少女も同じ、鳥ノ型で姿が消える。その瞬間、太刀と太刀が再度ぶつかり合い、二人の姿がまた現れる。


「まさかとは思ったけど、それも同じなわけ?」

「あなたこそ何…? 何で私と同じ太刀使いで…型も同じなの?」


木を斬っていたのは七月。錯乱には成功し、“ユニオン”の兵達の姿は既に無い。撤退にも成功したようだ。


「……やってくれたね」

「こういう作戦だったからな」

「…全員、構え」


七月に対して、全銃口が向く。


「壊れた銃を構えても何もならんでしょ」

「え?」

「もう全部斬った。それはただのがらくただ」


七月の言葉と同時に、全ての銃がボロボロに崩れ落ちる。いきなりの出来事に、兵達は戸惑いを隠せずにいる。

少女はここで初めて表情を変える。


「やっと焦ってくれた?」

「………」

「そう簡単にやれると思うな? 俺一人でも、多分お前らを一掃できるぞ」

「調子に乗らないでくれる? 同じ技を使える時点で、実力は互角だよ」


再びの鍔迫り合い。現在の戦力は、既に七月と少女のみ。


「…とりあえず、俺の目的は達成された。…もうやることないんだけど」

「………“ジブラ”の誇り高い意志は、小さな油断も許されない」

「…は?」

「あなたはもう、囲まれてるってこと」


ザッと、さらに“ジブラ”の増援が現れ、それは七月を囲むように陣をとっていた。


「…いやいや…」

「あなたの負け。太刀を捨てて」

「…………」


だが、そう言われて簡単に諦めるのは七月ではない。何かを仕掛けようと、体勢を低くする。…だが、それを止める声が響き渡る。


「おい六月!! いつまで時間かかってんだ!!」

「は?」

「総長…あなたまで来たんですか」


ザッザッと歩いてくる、体格の良い男性。六月むつきと呼ばれた少女が、少し嫌な顔をする。


「たった一人に苦戦してるって聞いたぞ!」

「…ちょっと想定外の敵と遭遇してしまっただけです」

「お前がそう言うってことは、相当な手練れのようだな!!」

「総長、少し黙ってください。うるさいです」

「いつも通りの平常運転だな、六月!!」

「総長もいつも通りですね、おとといきやがれください」

「何、この人達…」


総長と呼ばれる人物と、六月と呼ばれる少女。二人の会話を聞いてるだけで力が抜けそうになる。だが、勘違いしてはいけないのは、この二人は敵だということ。呆れはするが、気は抜かない七月。すると、総長が七月に話しかける。


「“ユニオン”の砦を攻撃させた時、太刀使いに邪魔されたと聞いたが、それはお前さんか?」

「まあ、そうだけど」

「“東方”に所属しない太刀使いは六月だけだと思ったんだが…異世界の出身か?」


…隙がない。体格は良いが、そこまで手練れと思えない為、勘違いをしてしまいそうになるが…この総長、かなり戦える人間だ。


「ここで一つ、提案がある」

「提案?」

「そう。…“レア”は手放す。そして、そちら側も手放す。つまり、お互いに完全撤退しようっていう話だ」

「は!?」

「総長!? 何を言ってるんですか!?」


総長の言葉に、他の兵達が驚く。


「…総長、何か理由が…?」

「もちろん。どうだろう、“ユニオン”の太刀使い君」

「理由は?」


そう問うと、総長は手を広げる。


「…お前達は、相当動き回って戦闘したようだな?」

「え? まあ、移動はしたかと…」

「ここは、“東方”の領地のほぼギリギリのラインだ」

「!!」


総長の言葉に、“ジブラ”の兵、六月、全員が震えはじめる。


「え? え、何?」

「そ、総長…す、すいませんでした…」

「そ、そうとは知らず…」

「いやいや、目的が“レア”だったからな、仕方ないとは思う。だが、もう少し考えるべきだったな。…下手すれば、殲滅されるぞ」


威厳ある言動。その言葉に、“ジブラ”は元気よく返事をする。


「“東方”…何度か聞いたことあるけど…」

「お前は知らないかもな。簡単に言えば、ここら一帯を占める、“最大勢力”。俺たち“ジブラ”も、できれば関わりたくない勢力だな」


“東方ではないのに太刀使いがいる”。つまり、太刀使いは“東方”に所属する者独特のスタイル。だからこそ、“ユニオン”も“ジブラ”も、七月をみて騒いだのだ。

そして、“最大勢力”とも言った。総長は、この戦いよりも、“東方”の領地を侵すことを恐れている。

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