七月の強さ
「…えっと、お祭りか何かですか?」
「違う! 敵襲だ!!」
「司令! 敵が攻撃してきた!! 恐らく、“ジブラ”の奴らかと…!」
警備兵二人が慌てて無線機を取り出し、司令とやらに報告している。
「“ジブラ”…? 組織か何かの…」
と、後ろを振り返ると…
「……おっと」
10名ほどの黒い服装の人間がこちらに向かって走ってきていた。手には銃、剣、その他各種の武器。その内の一人に、大きな筒のようなものを持っている者がいる。砦の門を攻撃したのはあの人物で間違いないようだ。
冷静に人数を数え、武器を確認していると、壊された門から大声が聞こえてきた。
「次は何…?」
恐らく、警備兵が呼んだ他の兵士達。彼らもまた銃や剣を持ち、黒ずくめの敵に対抗しようとしている。
「おいおい…! 待ってって!! 危ないから!」
この状況、警備兵二人は増援と共に戦うとして、七月は戦いの中心で巻き込まれそうになっている。なんとか縄を解こうとするが、なかなか解けない。
「撃て!!」
「こちらも撃て!!」
ほぼ同時の発砲。そして、近接武器を持つ者同士の戦いも勃発。
「貴様ら、性懲りもなく!!」
「今日こそいただくぞ!! てめぇらの砦をよぉ!!」
「いやいや、すごく暑苦しいんだけど…!!」
戦いが少し経過。どうやら砦の防衛側が劣勢のようだ。黒ずくめの一人一人が強く、警備兵だけでは足止めしかできていない。
とにかく逃げる為に体を転がしながらその場から離れる。
だが、一人の黒ずくめに止められる。
「てめぇは?」
「なぜか捕まった関係性皆無の人間です」
「何で捕まったんだ」
「変質者として捕まったみたいです。ほら、上半身裸だし」
ヘラヘラと笑っていると、それをカチンと来たのか黒ずくめが剣を抜く。
「へっ?」
「まあ、運がなかったと思え。どうせそのまま逃げ出したとしても、手足を縛られたままじゃ化け物どもに食われるだろ」
「いや、できれば解放して逃がしてほしいんですけど…」
「捕まった自分を呪え」
勢いよく振り下ろされた刃は一直線に七月の首もとへ。
「っ!!」
「ぐっ!?」
七月は離れるのではなく、思いっきり体当たりを仕掛けた。見事に相手の不意を突くことができ、難を逃れる。
「てめぇ!!」
「よっと」
「!?」
スルリと両手の縄がほどけ、すぐに靴の側面から隠しナイフを取り出し、両足の縄を切る。
「どうやって今の間で縄を…」
「それは内緒で。それで、俺の武器は…」
キョロキョロと周りを見渡すと、先ほどの警備兵が七月の武器を持っている。
「ちょっと…何で回収してんのさ」
「余裕ぶっこいてんなよ!!!」
黒ずくめがもう一度大振りで七月を狙う。
「遅い」
「!」
ゴッと七月の正拳突きが黒ずくめの胸に決まる。
「ぐぉっ……」
「大人しく寝てなさい」
言葉を発するが、黒ずくめに目もくれず剣を奪い、ついでに上着も奪って警備兵の元へ走っていく。
「くそ、このままでは…!」
「ちょっと! 俺の武器返してよ!」
「!? 貴様、どうやって縄を!?」
「いいから! 返せ!!」
先ほど奪い取った剣を警備兵に押しつけ、自分の武器を奪い返す。
「貴様、今逃げようとしても…」
「ああはいはい、いいからそんなの」
「なに?」
スラリと抜刀。
「先に攻撃してきたのはそっちだからな、黒ずくめ」
そして器用に奪った黒の上着を着て、警備兵達と戦う黒ずくめ達に切っ先を向ける。
「あの武器…太刀か!?」
「“銀色”と同じ武器か…!」
黒ずくめの何人かは七月の武器に気づき、警戒する。
「残り9人…一人2秒。妥協して20秒で終わらせる」
「なめんな!!!」
剣を装備した黒ずくめが突進してくる。
「蝶ノ型……」
スゥ…と重心を低くし、太刀を腰より低く降ろし、構える。
「! 迂闊に近づくな!! 太刀を持ってんだぞ!?」
「知るか!! ぽっと出の野郎なんかに負けっかよ!」
「それ、フラグなんですけど」
「!?」
仲間の言葉に怒声で応えた瞬間、目の前から声が聞こえ驚愕する。既に七月の太刀は動きだし、黒ずくめを狙う。
「くっ!?」
「無駄だよ」
咄嗟に防御に出した剣。しかし、信じられないことが起きる。
「っ!!」
太刀が、剣をすり抜けた。
「はぁ!!」
太刀を振り抜く。剣をすり抜け、無防備になった体に太刀は食い込み…そのまま黒ずくめの体を前へと吹き飛ばす。
「ぐぁぁ!!」
「!? 峰打ちか…!」
「自分の心配すること! 肋骨折れるよ!」
「なっ!?」
目の前には七月が。先ほどまで、まだ少し距離があったはず…
「せいっ!」
「ぐあっ!!」
またしても峰打ちで、吹き飛ばす。
同じような形で黒ずくめ達を吹き飛ばし、防御しようと自身の武器を回しても、最初と同じように太刀がすり抜ける。
いきなり現れ、防御してもすり抜ける攻撃に、余裕を持って宣言通り20秒で、9人の黒ずくめを前方へと吹き飛ばし終えた。
「はい、君も」
「ぐっ…」
最初に正拳突きで倒した黒ずくめも、倒れている9人の黒ずくめ達の元へ置く。
「まぁ、俺に攻撃してきた時点で、君たちの負けは決まってるから。とりあえずは、帰りなよ。じゃないと…」
太刀を持ち替え、刃を見せる。
「…次は、斬るよ?」
ヘラッと笑いながら言う七月。それを見た黒ずくめ達は、黙って撤退を始めた。
「……ふぅ、とりあえず…終わりで」
「おい! 貴様!!」
「…まだめんどくさい事が残ってた…」
めんどくさそうに振り返り、もう捕まらないように下がりながら警備兵に大して正面を向く。