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O,S&Y,B

作者: 憂木冷
掲載日:2013/11/03

前作『LAST DAY』の続編。こっちだけ読んでも多分意味が分かりません。そして、両方読んでくれても意味が分からないと思います。多分。

 人々が行き交う朝の町では、色々な声がアタシの耳を通って行く。

 人々が行き交う朝の町では、色々な心がアタシのどこかを通って行く。

 聞こえて、感じる。

 いつからだったのかは分からない。もしかしたら生まれた時からそうだったのかもしれないし、本当は全部アタシの勘違いで、始めから終わりまでそんなものはどこにもなかったのかもしれない。

 だけど、今のところは、それが確かにあるものだと感じている。

 どんな原理で可能になっているのか、想像するくらいしか出来ない。

 少しだけ特別なアタシのチカラ。

 聞こえる訳でも、読めるわけでもない。ただ分かる。感じられる。ヒトの心が。

 一時期はいろいろと調べたり考えたりした。

 精神感応。いわゆるテレパシーというのが、種類としては近いと思う。

 受信専用のテレパシー。

 ただアタシのは、『ヒトの心の声が聞こえる』みたいな、確かなものではない。創作の世界で、フィクションで登場するような分かりやすい現象は起こらない。どうしてヒトの心が分かるのか説明しようにも、「なんとなくそう思う」としか言い様がない程、自分にとっても曖昧なチカラ。

 もしかしたら、視覚や聴覚から得た情報をもとに、自分の脳が無意識的にヒトの心を推測しているというだけなのかもしれない。まあそれも、百発百中の精度だと言うのなら、十分に特殊なチカラだと言ってしまっても差し支えはないのだろうけどね。自分としても、昔武術をたしなんでいたこともあって観察眼にはそれなりに自信があるし、あり得ない話でもないのだろう。

 「見て覚えろ」とは、武術家の好きな言葉だ。アタシもよく言われた。実際は武術家に限らず、あらゆるスポーツの場で耳にする言葉だが、元は武術家の言葉だったんじゃないかと思う。

 弟子にとって師匠というのは最強の人物のはずだし、師匠は弟子に自分が最強だと思わせなければならない。だからこそ師匠は、強くなりたければ強い私の真似をしろ、という意味で「見て覚えろ」を使うし。弟子は自分にとっての最強の人物が示した道を疑ったりはしない。

 今とは使われ方が違う、というか時代が違う。

 現代で使われる「見て覚えろ」は、初心者がその競技自体を理解するため、あるいは形式的な技術を学ぶためのもの。アタシが推測する本来の意味、『私になれ』という意味での使い方は、現代においては意味がない。

 なぜかって?

 単純な話。指導者のレベルが低いのだ。

 今は、本当の実力者の所にだけ弟子が集まるような時代ではない。学生時代にかじった程度の人間たちが指導者の立場に立てる時代になっている。

 一流の選手の真似をし続ければ一流になれるかもしれない。だけど三流の真似をしても結局は三流止まり。行く末は見えている。よく、天才と呼ばれる様な人達の幼少時代は問題児扱いをされていたことが多いなんて話があるが。それは、三流視点から見ての問題ある行動であって、一流視点で見ればまったく問題なんて見当たらないのかもしれない。

 アタシはどちらだろう。

 一流なのか三流なのか。

 天才なのか凡人なのか。

 異常なの普通なのか。

 アタシのチカラを超能力とするなら。超能力者として、おそらく三流だろう。他に超能力者を見たことなんてないから、確かなことは言えないけど、一流と言うには存在が曖昧すぎる気がする。

 アタシのチカラを観察力の結晶だとするなら。武術家として天才の域に達していると言えるかもしれない。実際、道場内でしか試合をしたことはなかったけれど、そこで負けた事はなかった。

 アタシのチカラを、本当は存在しないただのアタシの妄想とするなら。アタシは文句の付けようもなくなく異常者だ。

 結局のところ、アタシが何者だったとしても、アタシが誰とも分かりあえないはぐれ者だと言う事実に変わりなんてないんだろう。

 人の心が分かるアタシが言うのだから間違いない。








 閑散とした住宅街の裏通りで信号待ちをしていると、珍しい少年を見つけた。

 自転車に跨って、汗を流しながら信号が変わるのを待っている。

 どこかで見たことあるような、そんな顔の少年。

 一見すると、普通の高校生にしか見えない。典型的な、青春を謳歌してそうな高校生にしか見えない。青春を謳歌してそうな見た目というのも分かりずらいかもしれないけど。要するに、活発そうな少年ということだ。左腕の、妙に渋い革ベルトの腕時計だけが一瞬目に留まった。

 錆びれた信号機はなかなか変わらない。人や車の通りがほとんどない交差点で、律儀に信号の表示を守っているのは、それだけで周囲に好印象を与えている。

 どんな場所だろうと、信号を守るのは当然のことなのだけれど。例え彼がここで信号無視をしていても、悪い印象は受けないだろうなと思える少年だった。

 車一台、人っ子一人通らないままに信号が青になり、彼は自転車で走り去ってしまう。せっかく面白そうな人間を見つけたのに。

 そんなことを考えながらアタシも横断歩道を渡ろうとした時。

 バリバリッ、とマフラーを唸らせながら一台のオートバイが目の前を横切った。フルフェイスのヘルメットをかぶった二人組。

 信号無視。

 少しの不安と、高揚感、そして不似合いなトートバッグ抱えて走り去っていく。やはり、良い印象は受けないな。








 約五分後、アタシは先ほどの信号で興味を持った少年の自転車の荷台に乗っていた。

 二人乗り。まあ緊急事態だから仕方ない。……仕方ない。そう言ってみんなルールを破ってしまうのだろうな。それでも言ってしまう。自分を守るために。いけないことをしていると分かっているからこそ、自分を悪い奴だと思ってしまわないために『仕方ない』と。そう言って自分の行動の正当性を主張するのだろう。

 で、何が緊急事態なのか。今アタシ達は、ひったくりにあった七〇代くらいの女性のために犯人を探している。

 犯人は、オートバイに乗った二人組だ。

 被害に遭った女性、大森さんは、孫の大学の学費を払うために銀行で七〇万円ほど下ろして来たところだそうだ。さいわいにも怪我などはなかったようだが、かなり動揺していた。それもそうだろう、自分のせいで孫が大学に通えなくなってしまうかもしれないのだから。

 前でペダルを漕ぐ彼に、少しだけ声を張って尋ねる。

「ねえ後示こうじ君、とりあえずアタシは君に付いて来たけど、どこかあてでもあるの?」

 アタシのチカラは万能じゃない。犯人の居場所など見当もついてない。それに、捕まえるのなんて警察にでも任せておけばいいと思っている。しかし彼、隠田かくれだ後示君は自分が探し出すべきだと考えた様で、それならアタシもと便乗して付いて来た形だ。

 彼と話してみたいから。

「あっいえ、確証はないですけど、この辺りは廃墟が多いんで、虱潰しに探していけば見つかるかなあと」

 頼りがいのない相棒だった。

「不良が廃墟に溜まるなんて、ちょっと考えが安易過ぎないかい? まあ、ありえないとは言わないけど。でも君、それはテレビや漫画の見すぎだと言われても仕方のない意見だよ」

 テレビや漫画を見ても見なくても、人が周囲のものに影響されながら生きていることに変わりはないのだから、そんな娯楽文化に対して否定的な発言をする気はアタシにはないけれど。

「そうなんですか? でもこの街じゃ、『廃墟に行けば不良に会える』って言うのは、おなじみのキャッチフレーズですよ」

「えっ何、それのどこがキャッチーなの? 何をキャッチしようとしてるのかな?」

 アハハハ、と薄く笑い声を上げる後示君。

「まあ、キャッチフレーズは冗談にしても、この辺りの不良さん達がよく廃墟に集まっているというのは本当の話ですよ」

「ふぅん、そうなんだ。」

 この街の不良君達は、とても分かりやすい性格をしているらしい。

「でも、そんなものなのかな。案外、現実も空想も大差ないのかもしれないね」

 なにしろアタシは、一応超能力者なわけだし。

「作り話みたいに上手く行く人生もあれば、現実みたいに上手く行かない物語もありますしね……」

 当たり障りのない、あまり耳にはしないけれどよくある言葉を返してくる。

 少なくとも日本では、はじめましての相手とする会話なら、その当たり障りのなさは正解のはずなのだけれど。どうも彼には、彼の心境には、相手の様子を窺うような動きは見えない。だからと言って誰にでも心を開けるような人間の心理状況だとも思えない。

 普通の人なら、この程度の会話で彼に好印象を抱いているのだろう。気が遣えて会話もスムーズに廻せる。明るい性格の少年だと。

 だけどアタシから見れば、彼はただただ何も考えていない少年だ。

 自分に起きる出来事に対して、何も考えずに行動している。全ての言動や行動をもともと決まっているアルゴリズム、演算方法に当てはめて答えを導きだして。自動操縦の航空機のように、自分の身体を一定の法則やルートの中で行動させている。より多くの人に好印象を与えるような選択をしていく。誰もが彼を『良い人』と言ってしまうような振る舞いを、何も考えていないからこそできてしまう。

 そもそも人のことを『良い人』とか『悪い人』なんて簡単に言えてしまうのは、皮肉の意味で良い性格をした傲慢な人間か、頭が悪いだけの人間だと思うけれど。そして、大半は後者なのだと思う。そうだとアタシが信じていたいだけなんだけど……。

 少し会話を持ってみても、アタシの後示君に対する印象は変わらなかった。典型的な、不自然なまでに典型的な高校生。まるでロボットだ。

 まあ、ロボットと人間がどれくらい違うのか、本当に違いなんてあるのかは分からないとしても。

「ところで」

 と、彼が会話を再開する。きっと彼の中で初対面の相手と沈黙を続けるのはルール違反なのだろう。

「お姉さんは、なんて名前なんですか?」

「ああ、そう言えばまだ自己紹介もしてなかったね。君はさっき大森さんと連絡先を交換してる時に名乗ってたけど……」

 うぅん、そうだなぁ。じゃあ。

「カナタ、でいいよ」

「カナタさんですか? なんか似合ってますね、その名前」

 流石は彼だ、あえて伏せた部分に無理やり踏み入るようなことは、やはりしてこない。

「そう?」

「はい。なんかカナタさんは、すごく自由な感じがします」

「まあ、アタシは自由に生きてるよ。でもさ」

 後示君、と少し間を取る。

「自由に生きてない人なんているのかな?」

「……」

 少なくとも、アタシのことを自由と評した彼は、自分のことを自由な人間だとは思えていないのだろう。

 自由な人と不自由な人の差は、きっとそこなんだ。

 結局は自分で歩いて来た道を、自分で選んで来たと思えるのか、それとも仕方なく来てしまったと思うのか。

 歩いて来たのは他の誰でもない、自分なのに。

 本当にその先にある結果が望まないものなら、全力で回避することはできたはずなのに。

 言い訳をして、何かのせいにして。

 苦しい思いをするのも、辛い思いをするのも、全部自分がなりたいからなったのに。

 そんなこと思うはずない。そんな理屈は納得できない。そう思うかもしれない。でも、でもね。本当に嫌なら絶対にそこに辿りつかない努力は、必ずできたはずなんだ。それをサボって、考えなしに進んだということは、自分でなりたくてそうなったのと同じなんだよ。

 自分に起きることは、良いも悪いも、幸も不幸も、全部全部自分のせい。

 それを理解することが、人が生きていく上での最低限の責任だとアタシは思っている。

 だから、

「もし君が自分のことを自由だと思えていないのなら、それは君のせいだよ」

 本気で望めば、自由なんて誰だってなれるんだから。アタシは自由だ。そう思うだけでいい。

 まあ、それが一番難しいのだけど。

「自由も幸せも楽しいも、思った者勝ちなんだよ」

「じゃあ、自由だって思えない人は自由になれなくて、幸せって思えない人は幸せになれなくて、楽しいって思えない人は楽しめないって事ですか?」

「当たり前だよ。君は自分につまらないつまらないと言い聞かせながら、楽しむことなんてできるのかい?」

「それはっ……」

「無理だろ?」

「…………」

 だまる。

 考えることに慣れていないで生きてきた人間は、今まで触れて来なかった問題に遭遇した時、考えている振りをして黙る。

「本当に、名前が似合っていると言うなら、アタシなんかより君の方がよっぽどだよ。後ろを示す、前とは反対の後ろを。反対の答えを示す。嘘吐きな君にぴったりじゃないか」

「えっ? ちょっと待ってください。どうして、いつ俺がうそなんて」

「分かるよ、アタシには。なにせ超能力者だからね」

 これを名乗るのはなかなか恥ずかしい。だけどここは毅然と振る舞わなければならない。本当だからこそ躊躇わず、顔も背けない。当然のことのように真実を告げる。

「ちょっ、超能力者って」

 ハハ、と細く笑いを吐く。

「からかわないでくださいよ。そんなの」

「本当のことを言いなさい」

 矯正。

「本当に君の心はこの世界に超能力者が存在することをあり得ないと思っているかい?」

「思ってますよ、俺はそこまで子どものつもりはありません」

 即答。

 だけど。

「嘘だよ」

 一言で切り伏せる。アタシには分かる。理屈はなくとも真理にはたどり着ける。

「どんなにあり得なさそうなことだとしても、可能性がない訳じゃない。君の心はそう思っている。なのにそれを信じようとしないのはどうしてかな? 自分で言うのもなんだけど、こんな面白そうな人間に逢うことなんてそうはないよ」

「そんなこと、思ってませんよ」

 うん、そうだね。

「だから君は嘘吐きだって言ったんだよ」

「……はい?」

 語尾を上げて、首を傾げる。

「自分のことを騙せない様なヤツを、アタシは嘘吐きなんて思わないよ」








 その後、後示君の携帯電話に大森さんから電話が掛かって来た。どうやら犯人は警察が捕まえたらしく、その旨の連絡と、あと警察で目撃者としての聴取を受けてほしいとのことだった。

 警察署に向かう間。後示君は、なにかを考えながら。それこそ、会話を忘れて黙り続けてしまうほど深く考え込みながら自転車を漕いでいた。

 聴取は二時間程で終わった。

 色々聞かれるのに問題はなかったが、後示君とは別室でよかった。

 署を出て、後示君が不似合いな腕時計を窺い。

「もう一一時二〇分か。すみません、付き合わせてしまって」

 腕時計。

「うん。いやそれはアタシが好きで付いてったんだからいいんだけどさ……」

「けど、どうしたんですか?」

「その腕時計、ずいぶんと古そうだけど。お父さんの形見とかだったりするのかな?」

「えっ、はいそうですけど。よくわかりましたね。ふつう形見って言ったら、最初に出てくるのはおじいちゃんとかだと思いますけど」

 おっと、まずい。

「いやね、アタシのお父さんも同じのを昔してたから、その位の世代の人のかなって」

「そうなんですか」

「うん、そうなの」

「…………」

「でね、後示君。それを少しの間アタシに貸してくれないかな?」

「いいですよ」

 どうぞ、と慣れた手つきでベルトを外し差し出す。

「ありがと」

 受け取る。

 分かってはいたけど、やっぱりまだ、

「聞かないんだね。理由」

「そうですね……」

 風が鳴る。

 腰に巻いていたジャケットが脚に絡みつく。

「でも」

 小さく。

「カナタさんになら、よく分からないけど本当に渡してもいいと思えました」

 小さく、小さく。

「………………覚えてるのかな」

 聞こえなかったはずだ。

「何か言いました?」

 そう言う後示君に、

「いいや。何でもないよ」

 笑顔。

「アタシ、しばらくこの街に居るから、また会う機会があればその時に返すね」

「分かりました。じゃあ、また会いましょう」

「うん、またね」

 それじゃあ。最後に一言いって、自転車を進めて行く彼。

 その背中を見送ってから。

 背中合わせに歩き出す。

 ベルトを締めてみたけど。

「やっぱりゆるいか」

 後示君と、お父さんの使った腕時計。

 キャスケットを目深に被り、左腕に重みを感じながら、悠然と、鼻歌の様に気ままに歩こう。

 今日、彼に会ったのは本当に偶然だったけど、何か変わってくれただろうか。

 まあ、気にしても仕方のないことなのかな。

 アハハッ。

 歩こう歩こう彼方まで。

 笑顔で歩こう彼方まで。

 アタシの名前は隠田かくれだ彼方かなた――。


とりあえず意味不明だったと思います。でも、作品の解説をする気はありません。感じたままに受け取って解釈してください。きっとそれで十分です。全てを知る必要はないのです。こんな短い話にごちゃごちゃとごちゃごちゃいろんな思いを練りこんだので、1%くらい何かの拍子で伝わっていただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 内容もさる事ながらLast dayのサイドストーリーという点で素晴らしかったと思います。 普通サイドストーリーといえばわからなかったところが繋がり、そーゆーことかっ!! となるものですが、…
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