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第四話「土の中に潜む生き物」・1

 四人目の十二属性戦士を探していた瑠璃と十二属性戦士三人を含めた四人は、炎の都の隣に位置する都『岩の都』にやってきた。

 すると、汗をダラダラ流しながら雫が顎下(あごした)の汗を腕で拭いつつ照火に訊いた。


「ねぇ…熱いんだけど…」


「そんなこと俺に言われてもな…少しは我慢しろよ!」


 照火に怒られ雫は少しふてくされた。


「ところで岩の都ってどんなところなの?」


 瑠璃は森の左右の木々を見ながら照火に訊いた。


「そうだな…。昔親父と一緒に来たことがあるらしくて、その時は結構賑やかな都だったとか言ってたぜ?」


「今は……分からないのね?」


「まぁな…。ここのところ全く訪れてなかったしな…」


――▽▲▽――


 瑠璃達が照火から岩の都についての情報をいくつか得た頃、ようやく岩の都に辿り着いた。その場所はとてもゴツゴツした岩があちこちに散乱していた。すると、入口付近の一際(ひときわ)大きな岩に(えぐ)る感じで刻み込まれた傷跡があった。


「こ、これって…何の痕なの?」


「多分、恐竜とかそんなんじゃないか?」


 そう言いながら照火が少し怯えていた。顔の筋肉が少し強張(こわば)り、キツい顔つきになっていた。

 四人が足元を見てみると、その恐竜の物かもしれない足跡が点々と続いていた。


「私達これからここに行くの~!?」


 楓が首を振り、いやいやと言った。


「そんなわがまま言うなよ…。この先に行かねぇと岩の都の住民達がいる場所に行けないんだぜ?」


 照火が少し頬に冷や汗を流しながら言う。


「そ、そういう照火も少しビビッてるんじゃないの?」


「そ、そそそ…そんなことないさ~」


 楓に言われてモロ図星だった照火は慌てふためきながら視線を()らした。その目はあちこちに泳ぎまくり、顔から大量の汗が吹き出ていた。


「絶対嘘ね! 顔中汗まみれよ?」


「うぐっ!」


 照火は楓から再び図星の一言を言われついに返す言葉がなくなった。すると、そんな二人の間を割くようにして雫が平然とした顔で前に進み出た。


「うぅぉぉぉぉおおおい!!? 雫お前何やってんだ?」


 雫の突然の行動に声を裏返させながら照火が引き止める。


「何って……この先に行くんでしょ?」


「いや、そうだけどよ…。お前怖くないのか?」


「全然…」


――す、すげぇ…。



 首を振りながら気にも留めていない雫の(きも)()わり様に、照火は心の中で感心していた。


「僕、先に行くよ?」


「いやいやちょっと待ってくれよ! 今行くって!!」


 照火は雫のすぐ後についていった。楓と瑠璃もその後に続いた。

 そして、四人は岩の都の住人が住んでいたであろう場所に着いた。


「ここが、本当に人の住む場所?」


 瑠璃の目線の先にあったのは荒れ果てた大地と半壊した住民の家……。そして、砕け散った岩の瓦礫(がれき)の跡だけだった。その他の所々には火の跡が残っていた。恐らく、家が壊れた際にガスか何かに引火して火事でも起きたのだろう。どうやら、怪物か何かに襲われたのだろう……。そう思っていたその時、楓が心の中で思った。


――ま、まさか……さっきの入口で見た爪痕の持ち主がやったんじゃ…!!?



 そう思うと体の熱が一気に冷め、背中を悪寒がス~ッと走って行った。


「ひゃあっ!!」


「うわぁぁああッ!! な、何だよ急に!」


 楓の悲鳴に照火が飛び上がった。


「あはははは!! 二人とも怖がりだなぁ~」


「そういう雫は平気なの?」


 両手を胸の前に運び少しビクつきながら楓が雫に尋ねる。すると、雫は笑みを浮かべながら答えた。


「うん、僕はそういうのには慣れてるから…」


――何で?



 雫以外の三人が心の中で同じことを思った。

 しばらくの間、手掛かりのない四人はその人気(ひとけ)のない住宅地を歩き回っていた。しかし何の手がかりも入手できない。人がいなければ情報を仕入れることも不可能だからだ。

 その時、目の前の住宅で道が途切れていた。突き当りに差し掛かったのだ。


「しまった…。行き止まりか…」


 照火が左右を見て道がないことを確認しながら言った。仕方なく元来た道を戻ろうと180度回転しようとしたその時、ガタッ!! という物音が突き当りの家の中から聞こえた。


「誰かいるのかぁ~?」


「いたら返事してくださ~い!!」


 照火と楓の二人が大きな声で叫んだ。しかし何の返事も返ってこない。自分たちが何者なのか分からず警戒しているのだろうか?

 四人は互いに顔を見合わせると、一呼吸置いて一番先頭に立っていた照火が扉を開けた。ドアノブを回し、ギィイイ…。という扉のキシむ音が不気味さを際立たせる。中は少し暗くて日当たりが悪い場所だった。瑠璃のような王族の人間にとってこういう貧乏臭そうな家は初めてだった。壁は少し黒ずんでいて、食卓のテーブルや椅子には少しカビが生えていた。壁と壁の端には蜘蛛の巣やホコリが溜まっていた。


「すごくホコリっぽいわね…」


 瑠璃がホコリを吸い込まないように鼻を押さえた。


「誰だ!?」


 その声に反応して、雫と照火の二人がサッと武器を構えその声の主に武器の先端を向ける。


「な、何だね…。いきなりそんな物騒なモンを向けて……。私はこの家の主の知り合いだよ」


「家主の知り合い? そういえばそのマークは…」


「ああ…これかい? これはこの岩の都独自のマークでね…討伐隊の者にのみ与えられる名誉ある証だ」


「ってことは、あなたは討伐隊ってことですか?」


 瑠璃のふとした質問に討伐隊と(おぼ)しき男が体を向けると、瑠璃の顔を見るや否や目を見開かせ驚きの声をあげた。


「あっ、あなたは…夢鏡城の姫君!?」


「わ、私を知ってるんですか?」


「も、もちろんですよ! あなたの噂は兼々(かねがね)耳にしていますから…」


 その討伐隊の男に言われ瑠璃は少し照れくさそうに頬を赤らめていた。


「いや…そんな」


「それよりも、ここで一体何があったんだ?」


 照火が単刀直入に言った。


「ちょっと、ちゃんと敬語使いなさい! 本当にすみません」


 瑠璃は申し訳なさそうに照火の代わりに謝った。


「ハハハ…別にいいですよ? あまり気を使われてもこっちも少しまいってしまいますし…」


「そ、そうですか?」


 瑠璃は少し顔を上げて相手の顔色をうかがった。


「とりあえずその椅子に座って……。少し汚くて申し訳ないがそれは我慢してもらえるかい?」


「あっ、はい…」


 男性の言葉に瑠璃が椅子を引きながら言った。すると、周りを見渡し討伐隊の男性以外誰も人がいないことを見て不思議に思った楓が訊いた。


「ここって他に誰もいないんですか?」


「いや本当はいるんだよ…。ただ今は別の場所に避難していてね…」


「避難? もしかして怪物か何かですか?」


 楓よりも早く男性に尋ねる瑠璃の言葉に、男性は再び驚愕した。


「どうしてそれを!? まさか入口のアレを見たのかい?」


 男は恐る恐る瑠璃達に尋ねる。


「ええまぁ…。あの爪痕はあまりにも異常です…」


「やはりそう思うか…。あの爪痕の大きさからしておそらく相当大きな怪物なんだろうね…。おっと申し遅れてしまった。私はこの岩の都の討伐隊『スコット=ヒーランド』だ! よろしく!」


 スコットと名乗る男性は少し遅れた自己紹介をして握手を求めて手を伸ばしてきた。スコットのその手は少しゴツゴツしていて、剣などをたくさん振るっていたせいか血豆がたくさんあった。


「ああ…、こちらこそよろしく…」


 瑠璃は少し遠慮がちにスコットと握手を交わした。


「それで……話は戻るんですけど、避難している人以外に人はいないんですか?」


「……そう、だね。いないと言いたいところなんだけど……実は、連れ去られた人が何人かいるんだよ。おそらくは……」


「おそらくは?」


 スコットが急に表情を暗くしたため楓が少し心配そうな顔で訊いた。


「凸凹鉱山にいるだろう」


「デコボコ鉱山?」


 照火が変な名前だなと心の中で笑いながら言った。


「ああ…。その鉱山はこの岩の都に昔から住んでいる働き者のモグラ『ステラ・ボッコリー』が発見したものでね。そこで働いているやつらは、そこで手に入れた宝石や鉱物などを売って金にしていたんだそうだ。だが、今ではそれもほとんど残っていない…。しかも最近、そのステラがどこかに消えたんだそうだ」


「行方不明ってことですか?」


「ああ…。そのせいで今ではその鉱山もすっかり荒れ果ててしまってね…」


 スコットは少し悲しそうだった。顔を俯かせ互いに交差させた指と指の間をず~っとかいていて、ボリボリと爪が皮膚を引っかく音が静まりかえった部屋に響く。


「助けに行こうとは思わないんですか?」


「あまりにも危険だからね…。それに私一人ではとてもじゃないが怪物を倒すことは不可能だ…。本当に残念だよ…。長老もあまりにものショックで倒れてしまったし…もうこの岩の都には希望が()()しかない」


 スコットのセリフに皆もすっかり気を落としてしまった。

 と、その時、瑠璃がスコットのセリフの一部に疑問を抱いた。


「あのスコットさん…。希望が“僅か”しかないってまだ完全になくなったわけじゃないんですか?」


「えっ……あ、ああ…まぁね。たった一つ残ってるんだ……」


「その希望って…?」


「十二属性戦士だよ」


「十二属性戦士……って! ここにいるんですか!?」


「あ、ああ…。だが、今はどこか別の場所に修行に行っててね…。なかなか故郷である岩の都に戻ってこないんだよ…。全くあいつにも困ったものだ…。両親と記憶を失ったあいつを育て上げたのはこの都の長老なのに…」


「記憶を失った?」


 瑠璃は雫達の時と同じ特徴だと思いその部分を追求した。


「記憶を失ったってその人自身が言ってたんですか?」


「確かそう言ってたような…」


 改めて追求されると、どっちなのかはっきりしなくなり曖昧な答えになってしまうスコット。しかし、そんな答えでも楓と瑠璃は嬉しそうに笑みを(こぼ)した。


「これは有力な情報じゃないですか?」


「ええ、そうね!」


 楓と瑠璃が互いの顔を見合わせて言い合う。


「すみません。あの、その十二属性戦士と名乗る子はここに戻ってくるんですか?」


「そう……願いたいけどね…。でも、あいつはこの都がピンチになってもおそらく戻ってこないよ…」


「どうしてそう思うんですか?」


「私たちが、彼にそういう風になるような仕打ちをしてきたからだよ…」


 スコットは項垂れるように首を下にして床の一点を見つめた。重い空気が部屋中に満ちていく。


「一体何が――」



ドオォォォォォオオォォォォォォォン!!



 瑠璃がスコットに質問しようとしたその瞬間、突如大きな音が聞こえた。地面が激しく揺れ五人がその場によろめく。


「な、何だ!?」


 照火が後ろを振り返ると小窓に何かが映っていた。スコット以外の四人はゆっくりとその小窓の真下に隠れ、そ~っとその小窓から外の様子を(うかが)った。するとそこには何か黒い影が映っていた。


「ま、まさか……あれが…さっき言ってた怪物?」


 楓が他のメンバーに訊いた。


「恐らく間違いないな…」


 照火が息を飲みながら答える。


「あれが……少し大きいわね」


 瑠璃が怪物の大きさをしっかり確認しながら真剣な面持ちとなる。


「あんなのと戦うんですか?」


「正体がすごく気になる……」


 ボソリと雫が呟き、その言葉に他のメンバーが半眼で雫を見つめた。


「……」


「確かに…」


 雫のしょうもない一言に十二属性戦士達が同意する。さっきの大きな音はどうやら、あの怪物が起こしたもののようだ。さらに、小刻みに揺れるこの揺れは怪物の足音だということも判明した。問題は相手の弱点などだ…。今までは主に動物などが怪物化したものだったが今回もそうとは限らない…。そう考えていたのだ。


「で、どうする?」


 照火が沈黙を切り抜けるように他のメンバーに訊いた。


「そうね…。今までみたいに敵の母体が動物だったら何とかなるかもしれないけど、そうだという確信もないし…。そもそも敵の情報がなさすぎだわ! こうなったら情報収集するしかない…」


「情報収集つってもどうするんだ?」


 楓の案に照火がさらに訊き返す。


「そうね……。やっぱり(おとり)を使ってそれに敵が気を取られている間に囮の担当以外が確認するしか…」


 楓が壁に背中をつけ腕組みをして言った。すると雫が上半身を(ひね)り楓の方に体を向けると、背もたれに自分の腕を置いてそこにあごを置きボ~ッとした表情で尋ねた。


「で、誰が囮役するの?」


「……」


 その雫の一言にまたしても静まり返ってしまった一同。繰り返す沈黙…。


「問題はそこか…」


「あの~…」


 十二属性戦士と瑠璃が考え込んでいると、恐る恐るスコットが口を挟んできた。


「もしよろしければ、私がその囮役を務めましょうか?」


「そ、そんなっ! あなたにこの役はあまりにも荷が重すぎます!」


 瑠璃がとんでもないと言った焦りの表情を浮かべながら言った。


「ははっ…心配してくれてありがとうごさいます…。しかし、もともと私は討伐隊に所属するもの…。いつ命を落としてもおかしくない立場なのです…。ですからご心配なさらずに…。それに、その方があなた方も対策を()りやすいでしょうし…」


「でも…」


 (にこや)かに微笑みながら言うスコットの優しい言葉に、瑠璃はさらに心配そうな顔をする。すると雫が瑠璃の肩をポンと叩いた。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん…。討伐隊の人なんだからそれ相応の防御は出来るだろうし、いざとなったら僕たちが助けるからさ?」


 雫のその言葉を聞いた瑠璃は嬉しくなって頬を赤く染め笑みを浮かべた。


「ありがとう、雫…」


「うん!」


 お礼を言われた雫も笑顔で返事しかえし、未だ続く余震が収まるのを静かに待ち続けた。




 ここ、岩の都一帯を明るく照らし出す月が決して手が届きそうにないくらい上り詰める頃……。

 雫達はソォ~ッと窓の下から外の様子を(うかが)った。植物などの木々が生い茂っているこの一帯には、夜になると獣が徘徊するという噂もある。すると、案の定暗闇の森の漆黒から不気味に光る黄色い光が点々と姿を現した。


「ま、ままま…まさかアレって!?」


「どうやら噂にある通り獣のようですね」


 スコットが冷静に判断する。


「どうするんだ!?」


 照火が急いで布団の中から飛び出し武器を構えた。雫もそれに続く。


「それぞれ配置について! 照火と雫は玄関扉の前で攻撃準備を整えて!」


 楓の指示通り二人は武器を構えていつでも攻撃できるように準備した。その的確な判断力と指示する力に()けた楓を見て瑠璃は何を思ったのか感心するかのような表情を浮かべた。



グルルルル…。ガルルルルル…。



 不気味な獣の(うめ)き声が玄関ドア越しに聞こえる。ゴクリと息をのむメンバー。

 そして、ついにその玄関ドアが勢いよく開いた。


「「今だ!!」」


 二人は声を揃えて攻撃した。しかし、そのタイミングが素晴らしいほど一致しており、二人はそのまま互いの額をぶつけ合って体を逸らし後ろに倒れた。


「うぐうぅう!!」


「いってぇえええ! てめぇ…この! 邪魔すんなよ石頭!」


 照火は赤く()れ上がった(ひたい)を押さえながらゆっくり立ち上がった。


「そっちこそ!」


 雫も涙目で狼狽(うろた)えながらもその場に立ちあがった。


「二人とも、ボ~ッと突っ立ってる暇はないわよ!」


「雫危ねぇ!」


「うわっ!」



ドサッ!



 獣が勢いよく飛びついてきたことに逸早く気づいた照火は、ギリギリでそれを(かわ)しつつ雫にも危険を知らせた。その声のおかげで雫もその攻撃を躱すことが出来た。


「ふぅ、危なかった…」


「早くここから脱出するわよ!」


「「「はい!!」」」


 瑠璃が声を張り上げて皆に言った。その声を頼りにして皆は家の中から脱出した。


――▽▲▽――


 古い家から脱出した十二属性戦士と討伐隊のスコットは、必死にその謎の獣から逃げていた。後ろを振り返ると物凄いスピードで追ってくる黄色い幾つもの光と、そのバックには月明かりに照らされて古い家が不気味に映っている。さらにその不気味さはその獣たちの不気味さをより一層引き立てていた。


「あいつら一体何なんだよ!」


「よく分かんないわ! でも今は逃げた方がいいみたい!」


 楓が必死に走りながら照火に言う。しばらく走り続けた五人は、暗闇の森を抜け木の根っこに足元を(すく)われながらも何とかそのまま徐々(じょじょ)に獣達から距離を遠ざけた。


――▽▲▽――


「はぁはぁ…ここまでくれば大丈夫だよね…」


 雫が膝に手をつき乱れる呼吸を整える。


「とりあえずは()いたみたいだし…今の内にさっきの怪物を探しましょ!」


「わざわざこっちから探すのか?」


 照火がえ~っと言った顔で瑠璃を見た。


「仕方ないでしょ? ずっと相手が来るのを待つってのもアレだし……」


「でも、それはあまりにも危険じゃないですか?」


 楓が不安な気持ちを(あら)わにして言った。


「う~ん…。確かに楓のことも一理あるわね……どうしよう?」


「ここはやっぱり、俺達だけで何処か広い場所に行って相手に隙を見せつけて相手が油断したところを叩けばいいんじゃね?」


 照火がその場に座り込んで瑠璃に提案した。

 すると、その照火の提案に異議ありと言わんばかりにスコットが口を開いた。


「私にも行かせてください!」


「それはダメだ!」


 照火が即座に却下した。


「なぜです!?」


 スコットは納得がいかないようだった。照火は腰に手を当てて嘆息混じりに言う。


「何度も言うが、確かにあんたは魔力を持っているかもしれないが一般人…。そんな人にはあんなバケモノは倒せない…。だから俺達だけでやりたいんだ」


 照火の言葉にスコットは肩を落としてため息をつくとボソッと小さな声で呟いた。


「足手まとい…ということですか」


「まぁ、そこまで気を落とさないでください…。私たちが必ず捕らわれた人たちを連れて帰ってきますから…」


「しかし…」


 瑠璃の励ましの言葉にスコットは何も言うことがなくなってしまった。


「……分かりました…。頑張ってください」


 スコットはそう一言告げ、その場を去って行った。


「さてと…私たちはどこか広い場所を探さないと…」


「それなら、さっき向こうの広場がすごく視界がよかったよ?」


 敵と闘う準備を整えるための場所を瑠璃がキョロキョロと探していると、雫が向こうの方を指さして場所を指示した。


「じゃあ、そこにしましょうか?」


「そうね…」


 楓も賛同したようで、その声に瑠璃も口元を緩ませながらコクリと頷いた。すると、目的地が分かった照火はいの一番にそこへ向かおうと気合の言葉を叫んだ。


「よっしゃ! 俺が一番にそこへ行ってやるッ!!」


「なっ、負けないぞ!」


「二人とも、これから怪物と戦うんだから無駄なことで体力消費しないでよ?」


 楓は子供染みた性格の男二人に警告した。


「大丈夫大丈夫!」


「そうそう!」


「まったく…」


 二人はまるで他人(ひと)事のようにあしらいその場を駆け出す。楓はハァ~ッと疲れた感じの溜息をついた。すると、その様子をすぐ後ろで見ていた瑠璃が声をかける。


「賑やかでいいじゃない…」


「そんな呑気な…」


 瑠璃の言葉に楓は腰に手を当てやれやれと言った顔をする。しかし瑠璃は、優しく微笑みかけて言った。


「私たちも行きましょ?」


「はい…」


 瑠璃に言われ、楓も渋々照火と雫の後を追いかけた。


――▽▲▽――


 月はすっかり上がり月夜の光が十二属性戦士達の待ち構えている広場のみを明るく照らしだす。


「来ないな…」


「やっぱりもっと油断している感じを出さないとダメなんじゃないの?」


 雫が頭をかきながら言った。


「じゃあ寝たふりでもしておく?」


 人差し指を立てて、側に丁度良い大きさの岩を発見した楓が二人に提案する。


「そうだな」


 照火もその岩を見てコクリと頷き、四人は少しばかり大きな岩にもたれかかりそれぞれ様々な体勢で寝たふりをした。




 四人が寝たふりをしてから約一時間が経過した頃。

 気が付くと、四人はいつの間にか寝たふりをするはずが寝てしまっていた。恐らく今までの旅で疲労が蓄積していたのだろう。

 すると――



ズリリリ…。ズリリリリ…。ズリリリリリリリ……。



 と、不気味な何か鋭い突起物を地面にこすり付けて引きずっているような音が鳴り響いてきた。しかもその音は無防備に寝ている四人に近づくに連れてどんどん大きくなっていた。


「ふんっ……こんな見渡しのいい場所で寝てやがるとは無防備なヤツらだぜ…。もしも怪物が来たらどうするつもりなんだろうな…」


 謎の少年の声が十二属性戦士達の耳に聞こえてくる。


「安心しな…。安らかに眠ったままあの世に送ってやるよ……」


 そう言って少年は長い棒の先についた(つち)を思いっきり振り下ろした。どうやら少年の持っている武器はハンマーのようだ。


「あばよッ!」


「はっ!」


 その時、瑠璃が目を覚まし敵の位置を素早く確認すると、咄嗟に装備していた武器で攻撃を防いだ。


「なっ! てめぇ、狸寝入りキメてやがったのか!」


「あなたは誰? どうしてこんなことをするの!?」


「ふっ…“どうして”だと? …簡単なことだ。てめぇらを殺すためだよ! だが、それは単なる口実…。本来の理由はこの岩の都にいるっていう怪物を殺しに来たんだよ!」


 謎の少年は口をニ~ッと横に開き不気味な笑みを見せた。茶髪の髪の毛を後ろで鉢巻のようなもので結び、服装は上半身裸でその上に軽く羽織物を羽織っているだけだった。

挿絵(By みてみん)


「ちょっと皆起きて!」


 瑠璃は楓達の体を揺さぶった。


「うぅ~~ん…。ふぁああ…、どうかしたんですか瑠璃さん。あっ、私寝てたん――っ!?」


 楓は寝ぼけながら欠伸(あくび)をし、目を擦りつつ重い瞼を開け薄い水色の瞳で目の前の状況を確認した。すると、すぐに楓は目が覚め今の状況をすぐに理解した。


「だ、誰なんですか? この子…」


 楓は瑠璃の耳に近づいて小声で尋ねる。その動作の中で不思議な目つきで目の前の少年を見つめる。


「ふっ……。風の都の人間か…」


 少年の言葉に楓は少し後ずさりした。すると、ハッとして雫と照火も起こした。


「ちょっと、あんたたちもさっさと起きなさいよ!」


「なんだよ…ったく…」


 照火が大きく伸びをしながらその場に立ち上がる。そして目を開けた瞬間、目の前に(いか)ついハンマーを持った少年が視界に入り、目を見開きジト目で呟く。


「――ッ!? ……おいおい、ほんの少しの間にこんなにも話が展開しちまったのか?」


「そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ? 雫もいつまで寝てるのよ!」


 楓が雫のそばに座り体を揺さぶる。


「う~ん…後百時間…」


「しれ~っととんでもないこと言ってんじゃないわよ!」


 楓が怒って雫にチョップをキメる。


「いった~…なにするんだよ楓…」


「あんたがさっさと起きないからでしょ? ちゃんと目の前の状況把握しなさいよね!」


 涙目で頭を押さえつつ見上げる雫に、楓が謎の少年を指さして言った。すると、そのことに気付いた少年がふと雫の方を向くと同時に様子が一変した。


「な、ななななな…なんだと!!?」


「ん? 何…僕の顔に何か付いてる?」


 雫が片方の目を擦りながらもう片方の半開きの目で少年を見つめながら言った。


「その青い髪に青い瞳…透き通るような肌…。古の四族の一つ…。霧霊霜一族の者かッ!!」


 急に声を荒げる少年に雫以外の三人は少し動揺していた。


「どうしたんだあいつ…」


「さぁ…?」


 照火が少しつまらなそうな顔で呟き、その言葉に楓も首を傾げて様子を(うかが)う。


「僕のことを……知ってるの?」


「知ってるも何も、てめぇは俺の両親――いや、俺の一族をコケにしやがった張本人だろうがッ!!」


「何のことだよ。僕には全く身に覚えがないんだけど…」


 雫は面倒くさそうな顔をして言った。


「しらばっくれてんじゃねぇぞ!? …いや、だがムリもねぇか…。何せ俺の一族をコケにしたのはてめぇじゃなく、てめぇの先祖なんだからなぁ~!!」


 少年の表情はさらに険しくなっていた。


「そんなの僕には関係のないことじゃないか!」


「それが大有りなんだよ…」


 少年はそう言うと武器を構え一気に突っ込んできた。


「くっ!?」



ドゴォォォオオオオオォォオォォォォォォォォン!



「逃げんじゃねぇ! おとなしく俺と戦いやがれ!」


「断るッ! 僕には何の罪もない…。君と戦う理由なんてないんだ…」


「そんな綺麗事が何度も通じると思ったら大間違いだぞ、てめぇ!!」


 そう言って今度は上空から思いっきりハンマーを振り下ろしてきた。


「うわっと!!」


「チッ…ちょこまかと…。だがもう逃げられねぇぜ?」



ズリリリリリ…。ズリリリ…。



 ハンマーを引きずりながら少年は雫に歩み寄ってくると、見るからに重そうなそのハンマーを力いっぱい振り回した。ブウゥゥゥゥゥゥゥンッ! と横薙ぎに振るわれたハンマーの先が雫の脇を少し(かす)る。


「くっ! っぐわぁッ!!」


 雫はギリギリのところで力を上手く使用したが少年の攻撃を完全には防ぎきれなかった。


「くそ…、自らの体の一部に弾力の強い水のバリアを張り俺の攻撃の威力を吸収してダメージを最小限に抑えたってことか……ふんっ! やるなぁ…おもしれぇ! さすがは俺の一族をコケにするだけのことはあるじゃねぇか! だがな、そんなもんじゃまだ俺を倒すことは出来やしねぇぜ!!」

というわけで、微妙な所で終わってしまいましたが、理由は前編と後編で分けているからです。すみません。次に瑠璃達一行が訪れたのは炎の都の隣、岩の都です。ここも既に襲撃された後で、村人は誰もいません。約半分は避難所に逃げていて、もう半分のさらに半分が亡くなり、もう半分が怪物に囚われていると言った状況です。

スコットに出会い、ここにも十二属性戦士がいると分かった一行。探すついでに人々を助け出そうと怪物と対峙する準備を整えます。

と、そこにハンマーを引きずる謎の少年……。おまけに、雫を一族の敵だと言って攻撃してくるという非常事態。一体どうなるのか……後編に続きます。

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