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第三話「赤き炎に包まれし魔物」・2

 しかし、それを見た(しずく)は安心などしていられなかった。


「だったら早くその怪物をやっつけないと! このままじゃ照火が村人たちに悪者だと思われたままになっちゃうよ!」


「し、雫……」


 照火(てるる)は少し嬉しそうに目に涙を浮かべていた。溢れ出た涙が頬を伝って(こぼ)れ落ちようとしているのを慌てて照火は人差し指で拭い取った。


「手がかりみたいなのはないの?」


「う~ん、実際にその場に行ってみないとなんとも言えないな…」


 照火は椅子から立ち上がり言った。目の前に座っていた瑠璃が顔を上げる。


「何か策はあるの?」


「まだない……。でも四の五の言ってる場合じゃないだろ? 既に被害が続出してるんだ…。それに、この炎の都の住人に俺は嫌われているが、もしかしたらこの事件の真犯人を捕まえたら俺も皆に認めてもらえるかもしれねぇしな!」


 照火の言葉の裏に少し悲しげな感情が見え隠れしているのが瑠璃には見て取れた。何よりも、不器用な感じの照火の笑顔にもその様子が見え隠れしていたのだ。


「大丈夫? なんかムリしてない?」


 (かえで)が照火の表情を(うかが)うように覗き込みながら訊いた。


「ん? ああ…平気平気…。それより急いで死の釜に行こうぜ!」


 照火はそのまま身支度をしに自分の部屋へ向かった。

 数分後……、照火は変わった形をした剣を持って戻ってきた。剣の(つば)の部分は炎の様な形をした装飾がされており、剣の持つ部分は龍の鱗のようになっていた。


「ねぇ照火……その剣はあなたの?」


「まぁ……な。でも、元々これは俺の父親の物なんだ…」


「父親?」


「ああ…」


 照火はまたしても少し暗い顔になった。


「この剣の名前は『炎龍剣(えんりゅうけん)』……父親の“炎龍”という名前からきてるんだ。元々この炎龍っていう名前も、魔族の中でも龍族に分類される巨大なドラゴンを紅蓮の炎で焼き尽くして焼殺したことから名付けられたらしいけどな! それからは、『紅蓮の炎龍』とか言われて有名だったらしいんだが……」


「へぇ…」


 瑠璃は、照火が父親を語るときの生き生きとした姿を穏やかな表情で眺めつつ頷いていた。


「じゃあ準備も出来たみたいだし出発しよう!」


 雫が家の玄関扉を開け皆に呼びかける。その言葉を聞いて、楓も「そうね!」と言って急いで玄関扉から外に出た。残った二人も照火の家の外に出てそこからコルタルン火山群の中心に位置するという死の釜へと向かった……。


――▽▲▽――


 ここはコルタルン火山群の中心部分に位置している『死の釜』……。周りにはたくさんの火山が立ち並び、まるで森の中の大木のようだった。

 死の釜の入口部分は変わった形をした穴が開いていて、さらにその入口の(ふち)部分には古代文字で何かが刻まれていた。しかし、誰もその字を読むことは出来なかった。単にその字が読めないというのも理由ではあるが、一番の理由は古くなり保存状態も悪かったためにすっかり風化してボロボロになってしまっていたことにあった。しかも、地面と釜との間の(わず)かの隙間には少しばかり木の根が張っていて一層不気味さを際立たせていた。


「なんだか…、すごく不気味な場所だね…」


 雫が死の釜を囲んでいる火山群などをぐる~っと見渡しながら言った。


「この釜の中に何かがいるのは間違いなさそうね…」


 瑠璃がお得意の魔力探知的な力を用いて魔力反応があるのを確認して言った。


「じゃあ、やっぱりこの中に怪物が?」


「おそらく…」


 瑠璃の一言には不安げな気持ちと心配する気持ちが入り混じっていた。四人は死の釜の入口付近に近寄った。すると、驚くべき事実が発覚した。


「ねぇ…、気のせいかもしれないけど……扉開けられなくない?」


「このくぼみに何かありそうね……」


「そのようだな…」


 照火はその(くぼ)みの文様を見て何かを思った。


「この文様何処かで……あっ!」


 じ~っと見続けていると、照火がようやく何かに気が付いた。


「何か分かったの?」


「これって確か……十二属性戦士の文様」


「じゅ、十二属性戦士!?」


「何だ、お前らも知ってたのか?」


 驚きの声をあげる瑠璃の声に照火が少し驚いたような顔で言った。すると雫が、照火の“お前らも”という言葉に疑問を抱き尋ねた。


「ねぇ照火…。今の“お前らも”ってことは、照火も十二属性戦士のことを知ってるってこと?」


「当たり前だろ? 何せ俺はこう見えても六代目十二属性戦士の一人なんだからな!」


「「「えええ~~!!?」」」


 雫と楓と瑠璃は三人揃って驚きの表情を見せた。


「な、何だよ……。俺が十二属性戦士だったらおかしいか?」


「いや…その、僕達も十二属性戦士なんだよ……」


「な、何!? お前らも!?」


 照火は驚きの連続でしばらく言葉が出てこなかった。すると、瑠璃が途切れてしまった会話を繋ぎ止めようと必死になりある言葉を発した。


「…ていうことは、これで十二属性戦士が三人になったってこと?」


「そういうことになりますね…」


 楓が少し表情を(こわ)ばらせつつ作り笑顔を見せた。


「でも、どうして記憶を失ってないの?」


「いや、俺もここに住む住人の噂で知ったんだ。小さい頃に俺がここに連れてこられて十二属性戦士の生き残りだから密かにかくまってやってくれって! だったらここがいいってことで、ここに連れてこられたらしい。親父のことも都のやつらから聞いたんだ」


 ふとした瑠璃の質問に照火がこれまでの経緯(いきさつ)を説明する。


「ということは、昔はあの人たちもいい人だったってこと?」


「ああ……。どうも最近は不穏な空気が漂っている上に俺を避けてる感じがするけどな」


「でも、それが分かったとしてどうやってこの扉を開けるの?」


「やっぱり、十二属性戦士の文様が描かれているのなら十二属性戦士にしか開けられないんじゃない?」


 瑠璃は腕組みをして死の釜を見上げながら言った。


「じゃあ迷っててもアレだし…とりあえずここは炎の都だし、照火がまずやってみれば?」


 雫に()され、照火は「ああ」と言って前に進み出た。

 二、三段駆け上がり扉の前に立つと、照火はその手を扉にペタッとつけた。

 しかし、何も起こらない…。


「どうなってるんだ?」


「やっぱり…何かしないといけないのかな…。それに、そのくぼみも気になるし…」


 瑠璃はさらに深く考え込み始めた。


「う~ん…」


「何がダメなんだろう…」


 皆も考え込み始め四人はすっかり途方に暮れてしまった。


――▽▲▽――


 その頃、コルタルン火山群の上空から一人の男が空飛ぶスクーターに乗り、空中を浮遊しながら不敵な笑みを浮かべ四人の考え込む姿を見つめていた。

 顎鬚(あごひげ)を蓄え肌の色は少し褐色。半袖姿の緑色のジャケットを羽織っている謎の男。肩からは黒いカメラをかけており、背中にはリュックサックを背負っていた。しかも、顔には真っ黒なサングラスをかけていて短い黒髪が風に(なび)いていた。


「ふふっ……。姫様の言うとおり、ヤツを容疑者にするという考えは正解だったな…。まさかこうも上手くいくとは…。あいつらを住民に会わさず火山群に送ったから余計な手間もかからずに済んだしな。にしてもこの変装……なかなか熱いな。顔が蒸れてたまらん!やはり更なる改良を加える必要がありそうだ」


 それは、瑠璃達が炎の都の住人が住む場所の近くで見つけた情報屋を(いとな)んでいるという男だった。しかし、その正体は思いもよらない人物だった。

 茶色の髪の毛に黄色い瞳。そして、風に(あお)られる真っ白な白衣…。そう、それは夢鏡城の地下に住むハンセム博士だった。


「しかし…、姫様の考えは相変わらず私には理解しかねる…」


 ハンセムはそう言って麗魅の言っていたことを思い出した。




《いいハンセム? あなたに新たな命令を与えるわ…》


《命令ですか?》


《ええ…。瑠璃達は今頃、炎の都にいるはずよ? だから、そこに行って彼らの手助けをしてあげてほしいの…。おそらく彼らは炎の十二属性戦士を捜しにくいはず。…だから、その十二属性戦士に会うように密かにリードしてほしいの。出来る?》


《も、もちろんです…。このハンセム=アレイク=ストライプスに不可能なことなどありません!!》


《うふっ。そう言うと思ってたわ……。期待してるわよ?》

挿絵(By みてみん)

 麗魅(れみ)は少し首を傾げて笑顔を見せた。しかし、その笑顔の裏に隠された真実の表情がハンセムには読み取れた。そのため、ハンセム博士は少しビクつきながら瑠璃に言った。


《か…必ず成功させて見せます!!》


 その声は少し震えていた。




「まぁ…あの姫様の考えだ…。何かあってのことだろう……」


 ハンセムはそう自分に言い聞かせ、どこかに消えてしまった。


――▽▲▽――


 戻ってコルタルン火山群の中心部分『死の釜』…。

 照火、楓、雫、瑠璃の四人は未だに死の釜の中に入れずにいた。

 と、その時――。



ドオオオ~ン!!!



 という大きな轟音と共に大きな地割れが起きた。


「うわぁ!!」


「きゃあ!!!」


 四人の足元にいくつもの亀裂が入り、大きな口を開いて真っ赤なマグマの中に四人を(いざな)おうとしていた。すると、危険なその場所から逃げようとしていた楓が誤って足を滑らせ地割れに落ちた。


「きゃあああ!!」


「楓ぇぇぇえええええッ!!」



パシッ!



 ギリギリのところでなんとか雫が楓の手を握った。


「絶対に離さないでッ!!」


 雫が必死に歯を食いしばり力を込めて楓を引き上げようとする。しかし、重力の力も働いているのか楓の体をなかなか引き上げることが出来なかった。


「だ、ダメだ……力が入らない…。熱くて頭がぼ~っとする」


 炎の都特有の暑さのせいだろうか。しかも雫は水属性…。この場所では雫は自分の力を思う存分使うことが出来ない。更に手汗も出てきて水分も相当失ってしまっていた。


「まずい…。手汗で手が滑る――あっ!」



パシッ!



 雫が楓の手を離してしまった次の瞬間、見事な反射神経を駆使して照火が楓の手を掴み、魚釣りで大物の魚を釣り上げるように一瞬にして楓を上空に放り投げた。


「きゃあああ!!」


 楓は宙返りをしながら見事地面に着地した。


「あ、ありがとう…」


 楓はさっきまでの危険な状態から一変して安全な状態になってしまったためそのスピードについていけず、上手く頭の中で状況の修正が行われていなかった。それにより楓は少しぼ~っとして気の抜けたお礼を照火に言った。


「うぅ…、頭が痛い…。もうダメ……頭がグラグラする」


 ついに雫が脱水症状に見舞われてしまいダウンしてその場に寝込んでしまった。


「し、雫! 雫しっかりして!!」


 瑠璃が気を失った雫の名前を必死に呼ぶ。何度も体を揺さぶり雫の名前を呼ぶものの、返ってくるのは脱水症状に悩まされ(うな)されている雫の(うな)り声だけだった。

 と、その時、またしても地震が起こり三人は傍の木々にしがみついた。雫は一番近くにいた瑠璃が小脇に抱えるようにして難を逃れた。

 地面に大量の亀裂が刻みこまれ、その隙間から赤い光が見える。恐らく地下のマグマの光だろう…。すると今度は死の釜の一部の壁にヒビが入り砕け散ったかと思うと、そこから謎の赤い炎を(まと)った怪物が姿を現した。


「出た! あれが炎の都の作物を燃やし尽くしたっていう怪物よ!」


 瑠璃がその怪物を指さす。皆の視線が一気に怪物に注がれると、怪物はそれに反応したかのように雄叫びをあげた。


「シャァァァァァァァァアアアア!!!!」


 (かす)れたような声が森中に響き渡る。しかも、怪物の体から溢れ出る炎により、周りの木の芽すら生えていない木の幹を次々に燃やし尽くし真っ黒な灰に変えてしまった。


「くっ! なんてやつなんだ…。こんだけ離れてるのにこんなにも熱いなんて…」


 照火が額から垂れてくる汗を腕で拭いそれを自分の目で確かめながら言う。


「どうやって倒す?」


「やっぱりまずは、あの邪魔な炎を消すのが先決じゃない?」


「そうか…」


 瑠璃にそうアドバイスを受けた照火は、片手に持った武器を握りしめそれを思いっきり振るった。その照火の武器を見た瞬間、瑠璃と楓と脱水症状を引き起こしている雫の三人は驚いた。なぜなら、その武器が異常な動きを見せたからだ。その武器――炎龍剣はクネクネとまるで蛇のように動き、(むち)のようにしなりながら怪物を攻撃した。


「キシャアァアアア!!」


 怪物が口を大きく開き叫び声をあげる。耳をつんざくようなその嫌な音が、左耳から入り右耳へと通り抜けていく。


「やっぱりあの炎が邪魔で上手くやつの皮膚自体まで届かない…」


 照火が悔しそうに下唇を噛みしめる。


「ねぇ…今思ったんだけど照火のその武器……ただの剣じゃないの?」


「ああ…。これが親父が元々使ってた剣…っていうのは前に説明したよな?」


「うん…」


 楓が過去を振り返りながら頭を整理して頷く。


「この武器は特殊な仕掛けが施されていてな…。部分部分に複雑に曲がる間接みたいなのがあってな? そのおかげであらゆる方向に曲がって敵を切り刻むんだ。要するに、死角はなしってことだな!」


 照火が少し自慢げに言った。


「ふ~ん……って、うわぁぁぁああああ!!」



ドオォォォォォォォオオオオオン!!!



「きゃあ!」


 照火と楓が会話している隙を狙って怪物が炎を(まと)った尻尾で攻撃してきた。しかも、それと同時に楓がヒビ割れた地面の反対側に飛ばされてしまった。


「いったた…。あっ、皆!」


「くっ…。こんだけ隙間が空いていると向こう側へ移るのは無理だな…。そうだ! 楓!! そのまま小道を抜ければ俺の家に戻れるから、そこで水道水を()んで来てくれないか?」


「え? ええ……分かったわ。すぐに戻ってくるから待ってて!!!」


 楓はそう言ってコルタルン火山群の脇を通ってその場から走り去った。


――▽▲▽――


「なぁ、瑠璃…」


「ねぇ、前々から思ってたんだけどさ。一応私の方が年上なんだから呼び捨てはやめてくれない?」


 瑠璃はジト目で照火を見ながらそう言った。


「うぇえええ? メンドくさいし…。別にいいだろ?」


「うっ! あのね……」


 照火の呆れた言葉に瑠璃が嘆息していると、またしても怪物が攻撃を繰り出してきた。


「くっ! これじゃ迂闊に作戦を伝え合うこともできやしないわ! それに早くケリをつけないと雫が危ない」


 必死に炎の怪物から距離を取り、楓が水を汲んで来るのを待つ二人。そんな二人にヒュウ!とヌルい風が吹きつけた…。


――▽▲▽――


 その頃、楓は必死に足を動かしながら照火の家へと向かっていた。そしてようやく目の前に照火の家が見えてきた。


「はぁはぁ……あっ、照火の家だわ!」


 楓は急いで家の扉を開けると台所へと向かい水道の場所を確認すると、水筒の様な容器に水道水をたっぷり()ぎ蓋を閉めて照火たちのいる場所へと向かった。

それから十分後…。


「照火ぅ~! 瑠璃さ~ん!! 言われてた水を持ってた来たわよぉ~!!」


 腹の底から出せるだけの声量を振り絞り楓が二人に向かって叫んだ。その声に二人が楓の方を向き、照火が声を張り上げて楓に指示を送る。


「でかした楓! 早く雫に飲ませるんだ!!」


「分かった!」


 楓は照火に言われた通り急いで水筒のふたを開け雫のそばに駆け寄ると、正座をして太腿(ふともも)の上に雫の頭を乗っけると、膝枕のような体勢にして雫の口に水筒の飲み口を付けた。


「さぁ雫、これを飲んで!」


 楓の声が聞こえたのか、目を(つぶ)って苦しそうにしている雫はゆっくりとその水道水を飲み始めた。



ゴクゴクゴク…。



 雫の喉がゴクゴク! という喉を鳴らす音と呼応して動く。


「これで大丈夫なはず…」


 気付けば雫は、あれほどたくさん入っていた水道水を全て飲み干していた。


「ええっ!? あれだけの量をもう飲み干したの? ……す、すごい」


 水を飲み干す異常なスピードに楓が感心しつつも驚愕していると、雫がゆっくりと目を開けた。雫の水色の瞳と楓のエメラルド色の瞳の視線が重なる…。


「ありがとう…皆。もう大丈夫だよ…」


 雫はゆっくりとその場に立ちあがり武器の槍を握った。


「いっけ~雫! お前の水攻撃なら大丈夫のはずだ!!」


「分かってる!」


 照火の声援に雫はキリッと眉毛を吊り上げ、手から水を生み出してそれを怪物の炎の体に投げつけた。


「グゥゥウァアアアア!!!」


 しかし相手にはあまり効いていないようで、平気な様子に振る舞い炎攻撃を再開する。


「やっぱり。あの炎にはこれくらいの水の量じゃ足りないの?」


「多分な…」


 合流した楓のふとした言葉に、照火も失敗かと落胆の表情を浮かべる。

 と、その時、瑠璃が思いもよらないアイデアを出した。


「ねぇ。試しに…合体技やってみたら?」


「「合体技?」」


 楓と雫が声を揃えて疑問口調に言う。


「うん…。要するに雫の水と楓の風を合体させてそれを怪物にぶつけるのよ! そうすれば、さっきよりもうんと強力な攻撃になるはずだよ!」


 瑠璃に言われ…雫と楓はお互いに見つめ合った。


「でも、そんなのやったことないし……」


「雫の言うとおりです…。私達まだ会って数日しか経ってないし、そこまで経験も積んでないから上手くいくかどうか…」


 二人の自信なさげな声に瑠璃は少し強気で言った。


「大丈夫、あなた達なら大丈夫よ! 何せ、あなた達は十二属性戦士でしょ?」


「ゴホン! …あの若干一名忘れてないか?」


「もちろんあなたのことも数に入れてるわよ?」


「なら問題ない!」


 照火が腕組みをして鼻高々に言った。

 と、その時、怪物が急に激しく行動を開始し始めた。


「な、何だ急に!?」


「危ないから一旦離れよう!」


「そうね!」


 四人は怪物の突然の行動の様子を見るために近くの物陰に隠れ様子を窺った。すると怪物は死の釜の中に逃げ込むように入って行った。


「なっ、あいつ逃げるつもりか!」


「そんなのダメよ! さっさと仕留めないと…また力を蓄えられたらもっと倒しにくくなる!」


「追いかけよう!」


 瑠璃が必死な表情で言った。その表情には少し焦りが見え他の三人もその表情を見て少し冷静さを失っていた。そのため四人は怪物の思惑通り術中にハマってしまったのだ。そのことに一足早く気づいた照火も死の釜の中に入ってからのことなので時すでに遅し。



「しまった! ここは周りをマグマで囲まれてるからうまく動けない!!」


「そ、そんな…」


 万事休すと思われる所に追撃とばかりに怪物がマグマの中から姿を現し四人に向かって火を吐き出した。

 凄まじい灼熱の炎が四人の体を包み込む。


「きゃああああ!」


「うわぁぁぁああああ!!」


 十二属性戦士や瑠璃の声が死の釜の中に木霊する。


「シャァァァァアアア!!!」


 怪物は一段と大きな雄叫びをあげた。それはまるで自分が勝ったかのような勝利の雄叫びのように聞こえた。


「あっつッ!!!」


 炎属性であるはずの照火が炎の熱に耐えられずその場から抜け出そうとした瞬間、足元にボコッと突き出した障害物に足を引っ掛けコケてしまった。



バラバラバラ…。



 照火がこけると同時に背負っていた荷物からたくさんの調味料が溢れ出た。


「しまった!」


 転がっていく調味料の音に敏感に反応した照火は、慌てて散らばった調味料をかき集めた。数を数えて無事を確認した。


「……ふぅ、よかった。容器は割れてないみたいだな…」


 調味料の無事を確認し終えて安堵のため息をつく照火。

 と、その時、照火がある一つの調味料に手を伸ばした瞬間あることを思い出した。


「これは…『ヒエパリ』!? …そうかこれを使えば…!!」


 そう言って照火は何かいいアイデアを思い付いたかのように突然笑顔を見せ、バッグの中から別の調味料を取り出しさらに大きな別の空の容器を取り出した。


「これで準備は完璧だな…。へへへ…待ってろよ怪物め! お前の命もここまでだ!!」


 照火はヒエパリの(ふた)を開くと、まず空の何も入っていない容器に入れさらに別の調味料をその容器に加えた。そして、そこに水を入れてそれをシャカシャカと激しく振った。すると、その二つの調味料と水が混ぜ合わさり少し濃い水色の液体が完成した。


「うぅ…やっぱり冷たいな…。まぁ、でもこれであいつを倒すことが出来る!」


 照火は他のいらなくなった品物を再びカバンの中にしまいそばにいた雫を見つけた。


「雫! これを飲め!!」


 そう言って、照火が雫に液体の入った容器を投げた。


「うおっとと! ん? 照火これ何なの?」


 雫の質問に照火が言った。


「それは『クルパス』と『ヒエパリ』混ぜ合わせた飲み物だ! とにかくそれを飲んで怪物に攻撃するんだ!!」


 照火の指示に雫はオドオドしながら言う通りにした。



ゴクゴク!



 と、喉を鳴らしながら液体を飲み干す雫の様子を見ていた瑠璃が照火に訊いた。


「あの液体って一体何なの? ヒエパリとかクルパスとか…」


「あれは普段料理の調味料として使われるものなんだ…。例えば冷たいものを飲んだり冷たいものを食べたい時あるだろ? でも冷やすのをすっかり忘れててすぐに冷やしてヒエヒエの状態で食べたい。そんな時ないか?」


「ある…」


 瑠璃が少し小さめの声で言った。


「だろ? そういう時にこいつが役に立つ…。これはどんな場所でもすぐに冷やしてしまう調味料でな…。そうめんとか、ざるそばとか……後コーラなんかにも役に立つんだ…。だからこれらもキンキンに冷えた状態で飲むことが出来る」


「へぇ、確かにそれは便利ね…」


 瑠璃は何度も頷きながら納得していた。


「照火ぅ~! これ飲んだけどどうすればいいの?」


「とにかく適当に技を出して怪物に当てるんだ!」


「当てればいいんだね? 分かった!!」


 雫は武器を構え片方の手から大きな水玉を作り出すと、それを怪物の体にぶつけた。次の瞬間、その場所からあっという間に怪物の体が凍りついた。


「な、何が起こったの!?」


「す、すごい…」


 何の説明も聞いていなかった楓と雫がすごく驚きの表情を見せ、雫は自分の手を見つめて一体自分の身に何が起きたのかと心配していた。


「どうだ? 水属性の雫の技をキンキンに冷えた状態にしてしまえばさすがにマグマみてぇな体を持ったあの怪物も耐え切れずに凍る。俺の作戦勝ちだな…」


「さすがね照火! 少し見直しちゃったわ!」


 瑠璃が同じ作戦を考える身として感動し、目を爛々と輝かせながら照火を褒めた。


「いや~…」


 照火は照れながら頭をかいた。しかし、こんなもので怪物は死ななかった。シューシュー!という煙の音とともに怪物の体を凍らせていた氷が溶け元の状態に戻ってしまったのだ。


「くっ、まだ足りないか…。やはり核の部分に到達しないと!」


「核?」


 瑠璃がまたしても照火に質問した。分からないことばかりで何が何なのか分かっていないのだ。


「ああ……核ってのは、こういうタイプの敵の体にある物質のものでな…。大抵の怪物は心臓部分にあるんだが、こいつの場合心臓にそれがない…。どこにあるのかって結構迷ってたんだが、まさかこんな場所にあるとはな…」


「こんな場所?」


 瑠璃が首を傾げ照火を見つめた。


「奴の核は奴の胃の中心だ!!」


「胃の中心? でもどうしてそんなところに?」


 疑問を投げかける瑠璃だが、答える隙のない照火はこめかみから冷や汗を流しながら言った。


「理由は後だ…。とにかく急いでやつを倒さないと…。さっきからマグマが上昇して俺たちの足の踏み場が少なくなってきてる…」


「嘘!?」


 照火に言われ雫達が足元を見てみると確かにどんどん足の踏み場がなくなってきていた。

 恐らく周りの火山から流れてきたマグマが死の釜のどこかに開いた穴から入ってきているのだろう…。


「雫! 口だ…! 奴の口を狙え!! そうすればそこから胃の中心部分に到達できる! そうすればこっちの勝ちだ!!」


「了解!」


 雫は敬礼をし武器を構えて怪物の口に近づけた。


「くらえぇぇぇぇぇぇええええええ!!」


 雫はめいいっぱい力を込め敵の口の中に攻撃した。


「グゥャァァァアアアアアァアアアア!!!!!」


 怪物はすさまじい悲鳴をあげた。それと同時に今度は怪物の体の内側から凍りつき始めた。

 そして、さっきとは違った形で完全に凍りついてしまった。しかも、その怪物のもがき苦しんでいた姿を見ていた照火がニタ~ッと不気味な笑みを浮かべながら言った。


「ここはマグマのたくさん溜まった死の釜…。この場所で凍りつかせたりすれば急激な温度の変化で氷にヒビが入る。そうすればお前は簡単にバラバラに砕け散る! こんな風にな…」


 そう言って照火は怪物の体にゲンコツをした。すると、たったのそれだけで氷は砕け散り怪物の体を凍りつかせたままバラバラになってしまった。

 しばらくすると、マグマの表面が光り出し何かが飛び出した。


「な、何だ!?」


 飛び出した何かに視線を送ると、それは十二属性戦士を見つけた際に必ず現れる石板だった。


「あの形……入口の扉を開けるための物だったんだ…。それで、あんな(いびつ)な形を…」


 瑠璃が石版の形を見て納得する。すると、その話を聞いていた楓が照火に訊いた。


「でも、どうしてこの場所にあったの? だってあの石板がいわゆる死の釜の扉を開けるための鍵だったんでしょ? それならどうして開いてもないのに…こんな場所に既にあるの?」


 楓の言うことも最もだ。何せ、この石板が扉を開けるためのもの…。それが中にあるのに閉められる訳がない。もし閉めたとしたら鍵であるはずの石版は外にあるはずだからだ。しかし、照火は普通にそんなの簡単な理由だろ? みたいな顔をして説明した。


「まずは死の釜のどこかに秘密の抜け道か何かを用意する。そして、死の釜の扉を閉じてこの場所に鍵であるこの石板を隠す。そして、中にいる人間は抜け道から抜け出して全員出たらその抜け道を防げば完璧……だろ?」


「ああ、…なるほど」


 雫が納得していた。


「えっ、なになに? もしかして理解してないの私だけ?」


「まさか楓分からな――」



ゴスッ!!



「うっさいなぁ! も…もちろん分かってるに決まってるでしょ!!」


 楓は雫が最後まで喋りきる前に暴力で黙らせた。


「いったた…。ひどいよ楓。それに、女の子がグーはないんじゃないの!?」


 雫は赤くはれた頬を押さえながら涙目で言った。


「ふんっ! それよりも石板を手に入れたんだからこんな暑苦しい場所から出ない?」


「そうね……ここにはおそらくもう用はないだろうし…」


 楓と瑠璃の二人に言われ、雫と照火も武器を片づけてまだ敵が何匹か残っているかもしれないと少し警戒してその場を離れた。


――▽▲▽――


 照火達はひとまず照火の家に戻ってきていた。


「これからどうする?」


「やっぱり村人たちに報告したほうがいいんじゃない? 自分は犯人じゃないって…。それにこのまま勘違いされたままだと必ずあなたは()け者にされるわよ?」


「ああ…」


 照火は少し(うつむ)きながら何かを考えていた。


「早く村に戻って村長達に伝えよ?」


「ああ…」


 照火はさっきから同じ言葉しか使っていなかった。それ以外に何も言葉が浮かんでこなかったのだ。

今まで村人に邪魔者扱いされ、今では自分から彼らを避けるようになっていた。そんな自分が今更村に戻って何があるというのだと心の中で思っていたのだ。

 十分後…。四人は村人達のいる場所にやってきた。すると、それを目撃した村人がゾロゾロと仲間を引き連れ照火達の目の前に姿を現した。


「おのれバケモノめ! この村から出ていけ!!」


「……」


「そんなこと言うのはやめてください! 照火は何もしてません! 今回の事件の犯人も別にいます!それに照火はこの村の作物をダメにした怪物を倒したんです!」


「そ、そんなのウソに決まってらぁ!」


「そうだそうだ! バケモノがバケモノを倒せるはずがねぇ!!」


 そう言って村人達はどこからか火の()いた松明(たいまつ)を手に取った。


「なっ、そんなもの一体どこから…」


「死ねバケモノ!! 二度と村に戻ってくんな!!」


 村人たちは完全に冷静さを失っていた。

 その時、瑠璃は村人たちの瞳に違和感を感じた。


――あれは一体何? あの淡い紫色の光…。何かに操られてるの?



 瑠璃は村人達を怪しく思い口を開いた。


「あなたたちは誰かに操られてるわ!」


「んなわけあるか! 俺達は俺達だ! 誰にも操られてなんかいねぇ!!」


「そんな言葉信じられるか!! お前らも疫病神だ! さっさと出ていけ!!」


 ついに村人たちは野蛮な行動に出た。そう、石を投げつけ始めたのだ。四人はその降り注ぐ硬い石の(つぶて)の雨に我慢しきれずその場から逃げ出した。


「そうだ、さっさと消え失せろ!!」


 村人たちの言葉遣いはあまりにも(きたな)くそして(けが)れていた。


――▽▲▽――


 四人は村人たちのいる住宅地から離れ森の中にいた。


「皆、すまねぇな…。俺のせいで皆にまで被害が…」


「そんなの気にしてないわ…。それよりもゴメンね? 私達こそ力になれなくて…」


「いいんだ…。別に過去のことは取り返せやしない…。それに、俺もあんなやつらの元には戻りたくないしな。なぁ、そういえばお前ら十二属性戦士探してるんだったな…。どうせ旅するんだから野宿とかでメシもろくに食えてねぇだろ? だから俺が料理担当になってやるよ!」


 照火が拳を作って自分の胸をトンと叩いた。


「いいの?」


「ああ…。俺もお前らの役に立ちたいしな…。それに旅すれば他の都の珍しい薬味とか、その他にもいろんな食材が手に入りそうだし…」


 人差し指で鼻の下を触りながら照火は想像を膨らませていた。


「じゃあ、お言葉に甘えて…。改めて、『炎耀燐(えんようりん) 照火(てるる)』…。私たちの仲間になってくれる?」


「ああ!! もちろんさ! よろしくな皆!!」


「こちらこそよろしく!」


 こうして瑠璃は新たな十二属性戦士――炎属性戦士の『炎耀燐(えんようりん) 照火(てるる)』を仲間に加えたのだった……。

というわけで、三人目の十二属性戦士である『炎耀燐 照火』の登場です。ここに来て、ようやく男っぽい感じの喋りのメンバーが出てきました(まぁ、雫の口調はどことなく女よりっぽいので……)。

習慣で頭に銀色の冠を着けており、そこから赤い炎がユラユラと揺れているのが特徴です。また、最大限の特徴が照火の得意なこと。それが料理です。近頃、男が料理を作るという話をよく聞いた上に、炎属性ということで料理に絡めてみました。

照火と書いて「てるる」と読むのは少し特殊ですね。武器は父親の炎龍が由来の炎龍剣。その名の通り龍の様にクネクネと鞭のようにしなり、鍔の部分は炎の様な装飾を施してあります。

とまぁ、設定は大体主要メンバーが揃いだしたら出したいと思います。

毎日野宿ばかりで美味しい食べ物もなかなか食すことの出来なかった三人にはなかなか有難いメンバーが来たと思います。まぁ、それもあって三人目の十二属性戦士として登場させたワケですが……。

次回は、炎の都の隣にある岩の都へ向かいます。まだまだ十二属性戦士のメンバー集めは終わってません!

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