第十話「時を操りし支配者」・2
「この石像すげぇリアルだな……本物みてぇだ!」
爪牙が腕組みをしてあらゆる角度から見ていたその時、例の地震が起こり、さっきよりもとても大きな揺れが生じた。部屋の天井からパラパラとホコリが落ち、ようやく地震がおさまった。すると突然、石像の両の目が黄色く光り輝き、ゴゴゴゴ…! と音を立て動き出した。
その音に慌てて十二属性戦士は武器を構えた。
【ワシは、この時間の間にて作られた石板を守りし守護神である。主らは石板を手に入れに来た十二属性戦士か?】
急に石像が動きだし、さらに喋り出したにも関わらず楓は冷静に答えた。
「私達は十二属性戦士です。この場所に石板があると聞いて来ました…」
その声に反応して石像はゆっくり首を動かし、黄色い瞳を十二属性戦士に向け口を開いた。
【1,2,3…10人しかいないではないかッ!!】
石像は彼らに嘘をつかれたと勘違いし急に憤怒を露わにした。石像の瞳は黄色から赤色に変化し、物凄い地響きを立てた。
【残りの二人はどうした? さては主ら、この石板を狙うコソ泥だな……成敗してくれるわッ!!】
石像は石で出来た羽根をゆっくり広げ、標的を補足すると一気に放出した。
鋭く尖った石の羽根は十二属性戦士に向かって勢いよく飛んできた。彼らは、それを間一髪で躱したが、敵は次から次へと攻撃を連続で仕掛けてくるため、こちらからの攻撃のチャンスがなかなかなかった。しかし爪牙は違った。彼は敵の攻撃などものともせず、真正面から突っ切りハンマーを振るった。
「くらいやがれぇぇぇええええッ!!!」
ゴォォォォオオオン!!
という鈍い音と共に、彼のハンマーは弾き返された。
爪牙はその反動で思わずハンマーを手放し、地面に背中から叩きつけられた。
「いぐッ!!」
爪牙はあまりにもの激痛に、声にならないような悲痛の叫び声を上げた。
「爪牙!!」
細砂が急いで彼の側へと駆け寄った。
「大丈夫? しっかりして…」
「くそっ……なんて硬さだ。あれは、俺のハンマーでも破壊できねぇ…」
彼はそう言って、細砂の肩を借りて上半身をゆっくり起こした。
「――いい皆? 相手は石は石でも相当硬い石で出来ているからこの間の埴輪の時みたいにはいかないわよ?」
気付くと爪牙が敵に夢中になっている間に、楓が作戦を話終わった後だった。
爪牙は慌てて彼女に作戦の内容を聞こうとしたが、「しっ! 忙しいんだから静かにして!!」と、逆に怒られてしまった。そのせいで彼はふくれっ面になり、腕を組んで歯車の裏に座り込んでぶつぶつと文句を言った。
その時、しばらく彼らが攻撃して来なかったためか、石像が言った。
【どうした? 攻撃してこんのか? ならば、こちらから行くぞッ!!】
そう言って石像は翼を羽ばたかせ攻撃した。
「何て強い風なの?」
細砂は飛んでくる石の羽根……いや、石の礫があちこちに飛んできていた。
その礫が体の至るところに当たり、体中に切り傷が出来て行った。他の皆も、苦しんでいる中、爪牙は体操座りをしたまま、ボ~ッとしていた。
「こうなったら、こっちも反撃だ!!」
照火がそう言って攻撃を開始した。
「くらえ!」
彼が掛け声を上げて叫んだ瞬間、手から丸く大きな火の球体が現れ石像の翼に直撃した。
「どうだ?」
照火が様子を窺ったが、相手には効果がないようだった…。
「くそ!」
照火はあまりにもの悔しさに何度も攻撃を繰り返したが、やはり相手には効果がなかった。
他の皆も攻撃をしたが効果はやはりない…と思われたその時、菫の魔法攻撃の毒が石像の体に付着し、そこから急激に石が溶けだした。すると、それとほぼ同時に石像が苦しみだした。
【グゥワァアァアアア!! 体に毒が……!!】
敵のその様子を見て、雷人がその謎を解明した。
「そうか! 石なら毒に溶けるはず…それだったら倒せるぞ!!」
雷人の言葉に雫がガッツポーズを決めて彼女に言った。
「菫! もっと攻撃するんだ!」
「分かったわ!」
菫がOKサインを出して連続攻撃をした。だが、そう何度も敵が攻撃のチャンスを与えるわけもなく、彼らに最悪の状況が訪れた。さっきまで苦しんでいた石像がその行為をやめ、翼を大きく広げると、目を一段と強く光らせ技を繰り出した。
【タイム・リヴァースッ!!】
石像がそう叫んだ瞬間、その周りに円状の透明な線が引かれ、その線から透明のバリアが出現し石像全体を包み込んだ。そして、透明のバリアがだんだんと白く光って行き、ついには眩しいくらいになった。よく見ると、そのバリアの周りには時計の様な文字盤が現れ、その時計の針が本来とは逆向きに進んでいった。それはまるで時が逆戻りしているように見えた。
「何ッスかあれ!?」
「あれは……そうか分かったわ! あの石像は時を操ることが出来る。だとすれば、毒が体に付着する前の状態に自分だけの時を戻せば、あいつだけ毒の攻撃を受ける前の状態に戻ることになるわ!」
時音が考えた末にその答えを導きだし、皆にそのことを伝えた。すると、彼女の言葉に雷人が付け加えた。
「なるほど…。それで菫の攻撃が相手に効いていない様に見えたってわけか…」
時音と雷人の言葉を聞いて葬羅がふと思ったことを口に出した。
「じゃあ、あれにはどんな攻撃をしても意味がないってことですか?」
彼女のその言葉に皆は黙り込んでしまった。
と、その時、またしても時音が何かを思いつき、その考えを皆に伝えた。
皆は一瞬驚いたが、もう後がないということで彼女を信じ、彼女を援護することにした。
「ふぅ……『我…時を支配する者、…過去と未来、そして現在を生きる者なり。我、心に思ひし場所へと向かうことを所望す…過去へと!! …ムーヴ・パストっ!!」
時音は手を組み胸の前へと持ってくると詠唱を唱えた。すると、石像と似たような光り輝くリングが出現し、それは勢いよく回ると彼女の体を包み込み球形になってその場から姿を消した。
「……行ったみたいね」
「頑張って時音!!」
楓と菫に続いて皆は時音に希望を乗せ、自分たちは石像の攻撃を防御することに専念することにした。
――▽▲▽――
時空を飛び越え彼女がついたのは、さっきまで自分が居た場所だった。しかし、そこは現在ではなく過去…。その場所は今までいた場所と何ら変わらなかった。ただ一つを除いて…。そう、今自分たちが戦っているあの石像が存在しないのだ。どういうことだろう…。
不思議に思った時音だったが、その謎はすぐに解けた。彼女の目の前には見覚えのある人物がいた。 その人物は後ろから人気を感じたのか、ふと振り返った。
「誰じゃ?」
その顔を見て、時音は驚いた。それは紛れもなく死んだ祖父の顔だったからだ。
「お、お爺ちゃん……」
「お嬢さん…。ここに何か用ですかな?」
それを聞いて時音は自分が孫だということに気付いていないので安心した。
「すみませんが、何を作っているんですか?」
祖父は気軽に答えてくれた。
「ん? これかね…。これは、この時間の間を守ってくれる番人の『梟の石像』を作っているんじゃよ!」
その言葉を聴いて、急に時音は顔を険しくして言った。
「お爺さんお願いです! その石像を作るのを今すぐにやめてください!」
「どうしてじゃね?」
老人が訊いた言葉に時音が答えた。
「実は…――」
時音が長々と話し、三十分が経過…。
「――…ということなんです」
彼女の説明を聴いて、「そうじゃったのか…仕方ないのう」と言って、老人は石像を作るのをやめ身支度を始めた。
それを見て何をしているのだろうと疑問に思った時音は祖父に訊いた。
「あの…どうしたんですか?」
「な~に、お嬢さんの言葉を聴けたおかげで、わしは間違ったことをせずに済んだ…。礼を言うよ? ここには大事な物を隠しておきたかったんじゃが…」
祖父のその悲しげな表情を見た彼女は、あまりにもお爺ちゃんが不便だと思い、「安心してください! 私たちがちゃんと守っておきます!」と言った。
すると、その言葉を聞いた彼はニッコリと笑みを浮かべ、時音と別れの挨拶を済ませると、ペコリとお辞儀をした。時音は再びタイムスリップして現在へと戻った。
その様子を、祖父は扉の隙間から眺め、
「…大きくなったのぅ、時音」
と一言残し、螺旋階段を降りて行った……。
――▽▲▽――
その頃、時音が帰ってくるまで時間稼ぎをしていた十二属性戦士にも限界が近づいていた。
「くそ…これ以上耐えられない」
照火が武器を杖代わりに地面につき、ハァハァと息を乱していた。
「あっ、あれ!!」
雫の声に皆は彼の指さす方を向いた。すると空間が歪み、バチバチと音を立てながら時音が戻ってきた。
「どうだったの時音?」
菫が訊くと、「うん」とだけ彼女は答え、石像の反応を見た。
過去が変われば未来も変わる…。そう心に思いながら。
【フン! どこにいっていたのかは知らんが、今更何をしようと無駄なことだ。我を倒すことは出来ぬ!!】
その言葉に時音は言い返した。
「いいえ…。倒されるのはあなたの方よ! 自分の体を見てみなさい!!」
彼女にそう言われ、ふと石像は自分の体を見た。すると、ビキッ!と突然体に亀裂が入り、ボロボロと崩れ始めた。
「な…ぬぅなな何だこれは!!?」
突然のことにさすがの石像も焦りだした。
【これは……わ…我の体がどんどん崩れて消えてゆく!? 一体どうなっているのだ!!】
「…過去に行ってあなたを作った人に訳を話して作成中止を求めたの。つまり、過去が変われば未来も変わる…。あなたは存在しないことになる…だから消えるの。……さようなら」
その話を聞いて、石像はほぼ顔だけの状態になりながらもこう言った。
【ぐ…ぐぅ…ぐぐぐ…おのれ…覚えてろォォオオオオオッ!!】
そう最後の言葉を残し、石像はただの小石と化して最終的には消えてなくなった。そう時間の修正が行われたのだ。
「やったのか?」
爪牙が今まで退屈だったことを表すかのように大きな欠伸をし、大きく伸びをしながら彼らに訊いた。
「……うん」
時音は何故か敵を倒したというのに悲し気だった。
「そう言えば、あの石像は一体誰が作ったの?」
雫の突然の質問に、時音は少し慌てながらも答えた。
「……あ、あれは私のお爺ちゃんが何かを守るために作ったんだって…」
小さな声でそう言った。その話を聞いて雷人はもう一度パソコンのレーダー反応を見た。すると、丁度さっきまで石像が存在した場所から石板反応をキャッチした。
「ここか…」
彼のその一言に他のメンバーは急に集まり始めた。
「どうかしたの?」
「ああ……レーダーによればこの奥に石板があるようなんだが、どうもそのカギがないんだ…」
「鍵?」
「そう、カギだ」
雷人は側にそれらしき物が落ちていないかを確認した。すると、雫がふと時音の髪の毛についている一本のピンに目を留めた。
「ねぇ、時音姉ちゃんのつけてるそのピンって――」
「これ?」
時音は最後まで雫が言う前にピンを髪の毛から取り外して手に取った。
「うん」
「これは、お爺ちゃんからもらった物なの…。“いつか使うかもしれないから持っておきなさい”って、そう言われて……」
すると、彼女の言葉を聞く耳を立てながら聞いていた雷人が、ズイッと時音の目の前に歩み出た。
「それ…ちょっと貸してくれないか?」
「えっ? 別にいいけど…」
彼女は不思議に思いながら雷人にそのピンを手渡した。彼はそれをう~んと唸りながら、様々な角度から目視した。すると、そのピンにカギとよく似たカギ特有のギザギザがあった。
「もしかすると……」
雷人は一人でさっさと鍵のかかった扉に手をかけ、試しにその鍵穴にピンを差し込んでみた。
カチャッ!
ビンゴだった…。今まで彼が何をしているのか謎だった彼らは、その瞬間ようやく雷人が何をしようとしていたのか理解することが出来た。
扉を開けるとそこには一枚の歯車があった。
「これは恐らくこの時間の間のどこかに欠けた歯車があるはずだ!」
そう言って彼は部屋中を見渡した。
「おう! それならさっき、ボ~ッとしていた時に見つけたぜ?」
爪牙が過去の記憶を振り返る。その言葉を聞いた彼は、急いでその場所へと向かった。確かに丁度いいサイズの空間が空いている。そこにゆっくりと先ほどの歯車をはめると、スッキリするほどピッタリ歯車が他の歯車と噛み合った。そして、一番最初に部屋で見つけたレバーを下ろすと、静かだった空間に歯車の回る音が鳴り始めた。
と、その時、キラリと光る何かが彼らの視界に飛び込んできた。それは、彼らが求めていた石板だった。
石板は一際大きな歯車が半分しか地面から出ていない場所へと行き、回る歯車の一部に穴が開いたところから時音が石板を抜き取った。すると、その瞬間、石板が薄白く光り輝き始めた。
「……これは…、時音もやっぱり十二属性戦士」
「そういうことですね」
「まぁ、髪の毛のピンがカギだって時点から大体予想はついてたけどな…」
皆の次々飛び交う言葉に「?」が浮かぶ時音だった。
こうして十二属性戦士は、十人目の十二属性戦士『鎖神 時音』を仲間に迎え入れ時の都を後にすると、残り二人となった十二属性戦士を探しに次の場所へと向かうのだった……。
というわけで、無事に梟の石像を倒し、石版を手に入れた十二属性戦士は見事、住人目の十二属性戦士である鎖神時音を仲間にしました。これで残すメンバーは二人。さぁ一体どんな十二属性戦士が仲間になるのかワクワクですね。
また、今回の話で時音も雫と顔つきが似ているということが判明しました。一体、雫、楓、時音の三人にどんな関係性があるのか……。記憶を取り戻したらその真実も発覚するのか……その内はっきりすると思います。
次回は光の都へと向かいます。




