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第七話「毒を持ち地を這う者」・2

 その後、姿を見つめながら雫が爪牙に言った。


「爪牙…。もう少し優しい言葉をかけてあげてよ…」


「てめぇは相変わらず甘ぇな…。そんなんだから楓にコキ使われんだよ!」


「うっ、確かにその通りかもしれないけど……」


 ソファに腰掛けながら爪牙は雫のダメな点を指摘した。当然事実であるがため、雫はその言葉に対して言い返せなかった。四人はしばらくの間、女子が上がってくるまでこれからのことや過去のことなどについて話し合った。


――▽▲▽――


 その頃、女子達もバスルームの中でいろんなことについて話し合っていた。葬羅と菫は既に髪の毛を洗い終えて湯船に肩まで浸かり、楓は三人の中で一番髪の毛が長いため洗い終えるのに時間がかかっていた。すると、楓が二人にされた質問に対して答えていた。


「えっ? 雫について…?」


「うん……。二人って随分顔の雰囲気とか似てないかなと思って…」


 浴槽の縁に腕を置いてその上に顎を置くようにして尋ねる菫。その言葉に、楓は唸りながら言葉を返す。

挿絵(By みてみん)


「う~ん、確かに初めて会った時も瑠璃さんに言われたけど……。あんまり気にしたことないなぁ~」


 楓は長い髪の毛をゴシゴシ洗いながら天井を見上げた。フワフワの白い泡が指や髪の毛から垂れる。 そして、今度は楓が菫に質問を投げかけた。


「でも、それを言うなら菫と残雪だって関係あるんでしょ?」


「そうよね……。でも、実際の所はどうなんだろ…」


 菫は湯船に鼻と口の真ん中くらいまで浸かり考え込んだ。


「まぁ記憶を取り戻せば分かるんですし、残りの十二属性戦士も五人ですよね? 全員探し終えれば分かるんじゃないですか? それよりも問題は瑠璃さんですよ…。一人で城に戻ったみたいですけど、大丈夫でしょうか?」


「そうね……」


 二人の質問しては答えての繰り返しに上手く着いていけなかった葬羅は、上手く話に区切りを付け別の話題に切り替えた。その話題に楓が髪の毛を洗い終えて湯船に浸かりながら頷いていた。すると今度は、菫が話についていけず質問した。


「……ところで、その瑠璃さんって誰?」


「あっ、そういえば菫は知らないんだっけ? 夢鏡城の姫君で私たちが毒の都に来る随分前に別れちゃったんだ…」


 首を傾げながら質問する菫に、事細かく瑠璃のことを説明する楓。それを理解した菫は、相槌しながらさらに訊いた。


「へぇ~そうなんだ。姫君なんだから結構美人だったでしょ?」


「うん。年上ってこともあるけど……結構綺麗な人だったわよ?」


 楓と菫がいまどきの女子高生の様にガールズトークを繰り広げる。

 と、その時、葬羅が湯船から立ち上がり二人に言った。


「二人ともそろそろ上がりませんか? 私、少しのぼせちゃったみたいで……」


「それもそうね…。じゃあ、上がりましょうか?」


「ええ…」


 三人は湯船から上がりドアを開けた。するとそこには、居てはならない人物がいた。そう、爪牙と残雪だった。


「いや、あのこれは……」


 慌てて弁解しようとする残雪に、楓が声音を低くしながら尋ねる。


「ちょっと、何してんの二人とも……」


 楓は握り拳を作り、ワナワナと体を振るわせながら不気味な笑みを浮かべる。


「これは……その、顔を洗おうってことでこっちに来たところ……すみませんッス……」


「待って! 本当にそれが理由?」


 残雪が頭をかきながら理由を説明すると、菫がさらに追及する。


「それは……その。ちょっと! 爪牙も何とか言ってくださいッスよ!」


 残雪が(ひじ)で爪牙の体をツンツンと突っついて密かに助けを求めた。しかし、返答がない。


「あれ? そう――なッ!!?」


 呼びかけてもない爪牙の方に体を向け、残雪はとんでもない光景を目の当たりにした。珍しく爪牙が激しい動揺を見せ、その場に突っ伏していたのだ。鼻血を出しながら――。


「くっ……! 許さない…あれだけ言ったのに破ったわね…。それに、爪牙は見たくもないって言ってたくせに!!」


「こ、これは単なる不可…こう……りょく。うっ――」



チーン。



 爪牙は白目を剥いてそのまま気絶してしまった。


「ちょっ、爪牙! 置いて行かないでくださいッス!! どうせなら自分もそっちの世界に連れてってから気絶してくれッス!!」


 残雪は涙目で爪牙の体を揺さぶり続けた。そんな二人に楓が正義の鉄槌を加える。


「二人とも死ねぇぇぇぇええぇぇぇええええぇぇえぇぇぇっ!!!」



シュンシュンッ!!!



 鋭い風によって生み出された鎌鼬が二人を襲う……。


「「ギャァアアァァアアァァアアアアアアア!!!」」


――▽▲▽――


「今の悲鳴何だろ?」


「ほっとけ……哀れな光景しか広がってない。ズズズズ……」


 そう言って照火は、冷静な態度で湯飲みに入ったお茶を飲んだ。湯呑に入ったお茶からほのかに湯気が立ち上る。すると、扉が開き、爪牙と残雪が魂の抜けた抜け殻状態でブラブラと縄で縛られた状態で連れてこられた。


「爪牙、残雪!! どうしたの!?」


「二人は粛清されたわ…」


 まるで下等な生き物を見るかのような下劣な瞳で二人に軽蔑的な眼差しを向ける楓と他二名。


「ええええっ!? 大丈夫なの?」


「大丈夫…、命までは奪ってないわ♪」


「まぁ、忠告は出してましたし、仕方ないことですね…」


 菫が笑顔で手を振りながら雫の心配する気持ちを払拭し、葬羅が「はぁ」と小さく溜息をつきながら二人の哀れな姿を見つめた。

 こうして慌ただしい一日が終わり、十二属性戦士達は眠りに就いた……。




 次の日。場所は毒の都。いつものように周囲に毒の霧がかかり、デス=ジャングルは薄気味悪い森と化していた。

 時間は既に朝になっていて周りは明るいはずなのだが、なぜかこの場所だけは陽の光が届いていなかった。無理もない。この場所はジャングルというだけあって背丈の高い木や草が多く存在しているのだ。そのため、陽の光が地面に届かないくらい完全に木々が光をシャットアウトしていた。

 そんなジャングルの中にポツンと建設されている建物。ここは研究員、菫のラボ(元々は他の研究員と共に使用していた)。現在、ここに七人の十二属性戦士が集まっている。と言っても唯一人、菫だけはまだ完全に十二属性戦士だとは確定していないが……。

 部屋の中は割と広く、その壁には相当な数の収納棚が敷き詰められていた。無論、中には様々な薬品や研究資料がぎっしりと収められている。

 その空間の中で、菫が使用しているベッドで十二属性戦士の女子メンバーが、ソファに男子メンバーが寝ていた。

 すると、ふと目が覚めた照火が他のメンバーを起こさないようにタオルをどかして体を起こした。ゆっくりと足音を立てないようにして窓際に歩いていく。


「……もう朝か」


 照火は窓越しに外の景色を眺めながら言った。


――▽▲▽――


 そして、準備を整え終えた十二属性戦士は、謎の多いと言われる毒の沼へと向かった。

 話通り、その場所では地面のヒビ割れや毒の沼からたくさんの毒霧が噴き出していた。十二属性戦士はその強力な毒を誤って吸い込まないようにガスマスクを着用していた。この毒の霧はすごく強力で、大きな動物でも一瞬にして死んでしまうくらいであった。

 すると、突然目の前の沼の水がブクブクと膨れ上がり、大きな蠍『アンタレス=ヘニール』が出現した。

 皆は慌てて武器を構えた。


「皆大丈夫?」


 後ろを振り返り、菫が心配の言葉を口にする。何とか全員怪我はなく無事のようで、攻撃準備に入っていた。こうして、十二属性戦士とアンタレスとの戦いが幕を開けた。

 刹那――敵は突如大きな四本の腕を自由自在に使い、その内の一つの腕を振り下ろして地面に突き刺した。雫はその攻撃をギリギリ躱し武器を使って反撃した。すると、攻撃を受けたアンタレスの体から謎の液体が噴き出した。紫色のその液体は放物線を描きながら楓に向かって飛来した。


「あっ!?」


 咄嗟に防御魔法を展開しようとするが、思わぬ展開に焦ってしまっているのか上手く魔法が発動しない。

と、その時――。


「危ないッ!!」


 と言って、そのギリギリの状況下で雫が楓を(かば)った。

 雫は腕と足に大量の液体を被った。それと同時に雫の服が溶けていった。どうやら、敵の体液には酸性の特性が含まれているようだ。


「なにこれぇぇえええ!!」


 雫は自分の身に起きた謎の現象にびっくりしながら叫んだ。


「気を付けて! それも毒よ!!」


 菫がアンタレスの攻撃を防ぎながら雫に忠告した。それを聞いて、雫は慌てふためいて菫に尋ねた。


「し、ししし死んじゃうの!?」


「それほどの致命傷はないけど、あまり受けすぎると危険だわ! 急いで洗い流して!」


 菫の説明で、死ぬほどの効果はないものの少しは危険性があるとのことなので、雫は自分の属性が水属性であることを存分に活かし、急いで洗い流した。その間にも敵の攻撃は続いており、照火が火の魔法を使ってアンタレスにぶつけていた。しかし、敵は全くビクともせず、お返しとばかりに尻尾から毒を吹きかけた。


「くっ!」


 照火はサッと後ろに飛びのき攻撃を躱した。その毒はさっきの毒よりも強力なようで、大きな岩がシュ~! と音を立てながら白い煙を上げてあっという間に溶けてしまった。それを見た葬羅が(おび)えながら後ずさりした。

 そして、ついにアンタレスが行動を開始し、前に歩き出した。アンタレスはそのご自慢の巨体を動かし十二属性戦士に向かって攻撃した。


「くそっ!! これでもくらえ!!」


 やけくそになった爪牙がハンマーを勢い良く振り下ろし、敵の背中? の辺りに攻撃する。しかしその攻撃はアンタレスにはほとんど効いていなかった。


「なんて硬い殻…。一体どうやって倒せば?」


 楓が腕組みをして考えていると、菫が何かを思いついたのか楓に伝えた。その内容の全貌を聞いた楓は困惑して暗くなっていた表情を一気に明るくして口元を緩ませながらその作戦を使用することに決めた。

 その作戦とは、まず残雪が毒の沼を凍らせそれを破壊し、何もなくなったその場所にありったけ熱量を上げた照火の炎攻撃でマグマを溜め、そこにアンタレスを落として溶かして倒す……という何とも分かりやすくてグロテスクなシンプル作戦だった。しかし、実際にはそうも上手くはいかなかった。毒の沼を凍らせそれを破壊しマグマを溜めるという所までは上手くいったのだが、その後のアンタレスを落とすという行為が大変で、苦戦を強いられていた。

 だが、そこで勘が働いたのか、それともただの偶然なのか、葬羅と楓が互の技を合体させて『木の葉の舞リーフ・ウィングストーム』を使い、相手の動きを止めた。さらに足元を凍らせた残雪のフォローにより、アンタレスはようやくグツグツと煮えたぎるマグマ溜りへと落ちた。


ドボンッ!!! ブシュゥゥゥウウウウウウッ!!!



【グギャァァアアアァアアアアアア!!!】


 アンタレスは悲痛な叫び声をあげた。あんなにも硬かった紫色のゴツゴツしたトゲだらけの殻が溶けていき、アンタレスは元の姿が分からない状態まで溶けていた。まさに原型を留めていない。

 とそこへ、さらに爪牙が追撃し、地割れによって深く穴が開いてアンタレスは漆黒の暗闇へと落ちて行った。そして、その穴を塞ぐために再び爪牙が力を発揮し、菫と協力して完全に穴を塞いだ。

 毒の沼を菫が元に戻している間に、傷を負ったメンバーを葬羅が治療していった。葬羅は草属性を持っているため治癒能力も持ち合わせている。

 全てが元通りになったところで、十二属性戦士達はラボに戻るのだった。

 ラボに戻ると、そこには死んだはずの研究員達が十二属性戦士の帰りを待っていた。それを見た菫は目を見開いてその場に駆け寄った。


「大丈夫か菫!!」


「ちょっと、どうしてあなたたちが? 死んだはずじゃ……!?」


 菫が研究員達を指さしながら信じられないと言った顔でどういうことなのか理由を尋ねた。


「いろいろあってな……」


「生きてたんだ……! よかった。でも、アンタレスの毒牙に侵されて――」


 アンタレスの毒の恐ろしさを知っている菫は不思議そうにもう一度研究員達を一瞥する。


「ああ…。その後、俺達は自分たちで薬草を使って解毒薬を調合して注射したんだ。そしたら、調合が正しかったみたいで毒抜きに成功したんだよ!」


 それを聞いて、菫は納得の声をあげつつ調合が成功して嬉しさのあまり飛び上がって嬉し涙を流した。

 十二属性戦士と菫、そして研究員たちはラボに入って話の続きをしていた。すると、今度は研究員たちが質問をしてきた。


「なぁ、それよりも当のアンタレスはどうしたんだ?」


「私たちが倒したわ」


 目尻に溜まる涙の滴を人差し指で拭い取りながら菫が言った。その言葉を聞いて研究員たちは目を丸くした。


「菫がアンタレスを倒したのか?」


「違うわ」


 菫は完全に泣き止んで訂正した。そして一度深呼吸すると口を開いて説明した。


「私だけじゃなくて十二属性戦士全員で戦ったの」


「そうだったのか……。って、この子達があの伝説の戦士なのか!? 驚いたな、六代目はまだ年端もいかない子供ばかりとは……。しかし、まさかあの有名な十二属性戦士が…」


 研究員たちはそう言って椅子に座ったり飲み物を飲んだりして休憩した。すると、一人の研究員がパンパンに膨れ上がった荷物の中からあるものを取り出した。


「実はある物を拾ったんだが、これが何か知ってるか?」


 言われるがままそれを見てみると、それは手頃なサイズの石の板だった。


「これって……石板?」


 菫のその“石板”という言葉に十二属性戦士は反応した。


「石板って……まさか十二属性戦士の石板っ!?」


 楓が石板を持った研究員に近寄りその目で確かめた。形、色、質的に間違いないようだ。


「じゃあ、これは菫の石板ってこと?」


 雫が研究員の机の横からひょっこり顔を出しながら楓に訊いた。


「ええ……おそらく」


「私のってどういうこと?」


 イマイチ理解出来ていない菫が首を傾げながら二人に説明を求める。


「十二属性戦士がいるそれぞれの都で十二属性戦士を見つけたらこの石板が手に入るのよ! だから何か関係があるのかもってね…」


「まぁ、その石板を触ってみればわかるッスよ!」


 楓の説明に付け加えるように残雪が言い、菫を誘導した。菫は無理やり残雪に手を引っ張られ石板の側に連れてこられた。すると、菫の気配――いや、魔力を感知したのか石板が淡く紫色に光り出した。


「ああ……手が引っ張られる」


 まるで何かに吸い寄せられるように菫の体が石板に近づけられポンと石板に(てのひら)が触れた。それと同時に石板は先程よりも凄まじい光を放ち、その場に浮かび始めた。


「本物の様です!!」


「どうやらそうみてぇだな……ということは、これで七人目の十二属性戦士ということか…」


 爪牙が指折り数えながらそう言った。


「これで残り五人……」


 楓は皆の顔を見ながらそう呟いた。

 こうして十二属性戦士達は、新たなる仲間『猛毒雲(もうどくうん) (すみれ)』を仲間に加え、研究員たちに別れを告げて彼らに見送られながら毒の都を後にするのだった……。

というわけで、無事に巨大蠍――アンタレスを葬り去った十二属性戦士。そして、ここで七人目の十二属性戦士である『猛毒雲 菫』を仲間にすることに成功しました。父親が『氷威 雪崩』という、残雪の苗字と偶然同じだという彼女。一体これが何を意味するのか……。残雪と菫との間には何か関係があるのか?

また死んだと思われていた菫の仲間の研究員たちが生きていました。さらに、彼らが発見した調合薬により、このデス=ジャングルに霧散している毒の霧に対する解毒薬が作れるようになりました。これを機に都で生活する住人が平和に暮らせるようになるといいですね。

次回は、毒の都の隣にある雷の都へ向かいます。ここにもまた環境問題が関連しています。残る戦士も後五人です!

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