第六話「氷に封印されし化け物」・2
「ぐわぁッ!!!」
爪牙は肩から流れている血を押さえる様にして手を当てた。そして、残雪を強く睨みつけた後、力を使い果たし倒れた。
「「「爪牙ッ!!」」」
三人の声がたくさん連なるグレートイクール山に響き渡った。
「これで二人。もうおしまいッスか?」
残雪は舐めきったような口調で言った。
「くっ! ……次は私が行きます!」
葬羅が少し相手に怯えながら立ち上がった。
「でも、葬羅は氷の場所では相性的にも不利なんじゃ…」
心配そうに楓が言うと照火が前に進み出て口を開いた。
「こうなったら俺が行くしかないな!」
「照火!?」
「俺だったら氷のあいつにも相性的に大丈夫だ!」
照火が自信満々に言った。その瞳はやる気に満ちている。そんな照火のやる気に水を差すように葬羅が胸の前に手を運び残雪のことを事細かく説明した。
「でも相手は物凄いスピードですよ?」
「きっと、あれには何か秘密があるはずだ!!」
照火が何か思いついたように言った。すると、再び目の前に残雪が姿を現した。余裕の表情を浮かべてこちらを見ている。照火は武器を構え、戦う準備を整えた。
――なるほど。相性で自分が氷だから相性のいい炎を選んだんスね? おもしろい……自分、秘策があるんス! これを使って返り討ちにしてくれるッス!!
二人の間にとてつもなく冷たい風が吹く。すると、それを合図の様に互いに武器を構えあいその場から動き出した。一瞬の内に冷たい風が舞い上がり二人の動きは止まった。残雪の頬が切れ照火の腕に切り傷が入った。二人とも体から血を垂らしながら互いに相手を見ていた。照火は頭の中で考えていた。
――そうか! あれはスケート靴!! …ということは、この氷を溶かせばあいつもこの中を滑ることは出来ないはずだ! よぅし……。
照火が何かを決意していると、残雪が口を開いた。
「何か思いついたみたいッスけど、それも無駄ッスよ? そんなことをやっても自分を倒すことは出来ないッス!」
その言葉に反発するように照火が喋った。
「そいつはどうかな。お前のスピードの秘密はもう解けた!」
そう言って照火は武器を目の前の敵に向けて構えた。
「ならばその答えを聞こうじゃないッスか!!」
残雪は今までで一番早いスピードで照火に迫ってきた。
「今だッ!」
照火は体力的にも限界の状態なのにそんなことお構いなしに氷の地面に炎を打ち付けた。
その瞬間、灼熱の真っ赤な炎がツルツル光る氷の地面を溶かし、地面は水浸しになった。
「ぬわぁあぁああぁああっ!!」
ドシャッ!!
そのせいで残雪のスケート靴も意味を成さなくなり、スケート靴の先端部分が石に引っかかってコケてしまった。
「イテテ……! あんた何しやがるッスか! そんなセコい方法、使ってもいいと思ってるんスか?」
その言葉に反論するかのように照火が下目遣いで残雪に言った。
「お前こそ、真剣勝負にスケート靴なんて履いていいと思ってるのか?」
「ちょっ、二人とも待って!」
二人の言い争いを食い止めるように楓が二人の間に割り込んだ。
「今の二人の戦いを見て確信したわ! 残雪、あなたは間違いなく十二属性戦士の一人だわ! 照火もあの戦いを見たでしょ?」
その言葉に文句をつけるように照火が言った。
「こいつはスケート靴を履いていたから早いスピードが出せたんじゃないか!」
その照火の叫び声で雫と爪牙が目を覚ました。
「あっ! 二人とも気が付いたんですね?大丈夫ですか?」
それに気づいた葬羅が慌てて二人の側に駆け寄り心配そうに見つめる。
「ああ、もう大丈夫だ!」
爪牙が眉間に手を添えゆっくりと立ち上がりながら言った。すると、雫が周囲を見て何かを想ったのか、口を開き尋ねた。
「残雪は?」
「あそこで照火と揉めてるわ…」
その質問にやれやれと言った表情を浮かべて嘆息しながら楓が応えた。すると、その光景を目にした爪牙が楓に訊いた。
「勝負はどっちが勝ったんだ?」
「それが、私の見た感じ……絶対に照火が勝ったように見えるんだけど」
「だけど?」
偶然にも近くでその話を聴いていた雫がその先の言葉を早く言って欲しそうに楓を急かした。そのことに感づいたのか否か、楓が首を傾げながら言った。
「でも、残雪が負けたことを認めようとしないの…」
楓が不安気に言う。
と、その時、雫がふと辺りを見渡した。
「そういえば、残雪のお守り役の人は?」
それを聞いてハッとなった他のメンバーが辺りを見渡した。しかし誰もいないようだ。
ヒュ~ッと冷たい風が吹き荒れる。靡く髪の毛に霞む視界…。気温はますます低くなる一方だった。
「くそっ! 俺達が戦っている間にどこかに行きやがったのか?」
爪牙が歯がゆい気持ちを抑えながら辺りを見渡していると、葬羅がグレートイクール山の入口の奥深くを指さした。
「あそこに入って行ったんじゃないですか?」
「自分もそう思うッスね!」
「うわぁぁああああっ!! 脅かさないでくださいぃ~」
突然現れた残雪が口を挟んできたので、葬羅が涙目で体を震わせながら文句を言った。
「……っていうか、照火と話はまとまったの?」
楓が残雪に尋ねた。
「もちろんッスよ!」
残雪は自信満々に腕組しながら言った。
こうして五人、いや六人はグレートイクール山の入口から内部へと入って行き、封印の解かれた地下への入口へと進んでいった。
――▽▲▽――
【モグモグ……この匂いは。何者かが我が敷地内へ入ってきおったな? グフフフ…、この匂い。何と懐かしい匂いだ。今度こそ我が恨み、晴らしてくれようぞ!!】
薄暗く不気味な空間に響く怪物の声。怪物は死肉を食い荒らしながら不気味な笑みを浮かべた。
――▽▲▽――
その頃、十二属性戦士は怪物の居場所を探しながら文句を言い合っていた。そう、照火との言い争いは終わったのだが、今度は爪牙や雫達と揉め合っていたのだ。
「はぁ、ちょっと二人とも……いい加減認めなさいよ! 残雪は間違いなく十二属性戦士なんだから……」
「例えそうだったとしてもいまいち納得がいかねぇんだよ!!」
爪牙がポケットに手を突っ込み楓に言った。すると、その言葉を聞いていた残雪が爪牙に言った。
「一体、自分の何に納得がいかないんスか?」
「その声だよ!! んだぁ、そのふざけた喋り方は? いちいちメンドクセェんだよ!!」
爪牙は残雪に掴みかかった胸ぐらを掴みグイッと上に持ち上げる。
「うぐぅッ!!」
残雪は苦しそうに爪牙の手を掴み必死に抵抗した。すると、それを見た楓が二人の間に割って入った。
「ちょっ、二人とも何やってんのよ!!」
「うっせぇ!」
「きゃっ!」
爪牙は楓を軽々と吹っ飛ばした。体格差のせいで体重の軽い楓は爪牙に吹っ飛ばされてしまい、背中を氷の壁にぶつけた。すると、あまりにもの痛みに堪忍袋の緒が切れたのか爪牙に掴みかかり、争いを止めるどころか争いに加わってしまった。
「ちょっと、三人ともやめてください!!」
葬羅がオドオドしながら三人の争いを止めようと割り込む。
「はぁはぁ…いい? 残雪は間違いなく十二属性戦士なの! これは絶対っ! 間違いないっ!!」
「ヘッ! 俺は認めねぇからな?」
そう言って爪牙はさっさと先に進んで行った。それからしばらくして、ようやく六人は広い場所に辿り着いた。しかし、その場所は少し薄暗く不気味な雰囲気が漂っていた。だが、漂っているのはそれだけではなかった。
「うっ! 何この臭い……すごく臭い!!」
楓が咄嗟に腕で鼻を覆い言った。すると、雫が暗がりの空間の端に転がっている骨を見て顔を真っ青にして言った。
「もしかして、この骨って人の骨なんじゃ……」
それを聞いて爪牙以外の全員の血の気が引いた。
「じゃあ、フリーム=ヨトゥンっていう怪物は人間を……、食べるん…ですか…?」
葬羅が声を震わせながら不安そうな顔で言った。
「ケッ! アホらしい……。どうせ殺すんだ、んなこと関係ねぇだろ?」
爪牙は葬羅の言葉など気にも留めずさっさと先に歩いて行った。そこからさらに進んだ十二属性戦士は、今までで一番広い場所に辿り着いた。そこは少しばかり今までの空間と違い、外からの光が差し込んでくるためか明るかった。すると、日の光に当たって何かが見えた。それは、何かが山積みになった物のようだ。よく目を凝らしてみると、それは人骨の山だった。そう、ここはヨトゥンの食事場だったのだ。そこら中に散らばっている人骨や血肉……そして充満する生臭い悪臭にさすがの爪牙も少し引いているようだ。
と、その時、照火が口を開いた。
「もしかしたら、数分後には俺達の骨があの骨の山の中にあるかもな…」
冗談半分に言う照火だが、今のこの状況でそんなことを言っても誰も相手にしてくれるはずもなく、ただ静かな沈黙の時が流れるだけだった。照火は少し不満な気持ちになった。
その時だった。大きな足音のような地響きと共に奥の通路から黒い影がとてつもない悪臭と共にやって来た。
【グフフフ……ようやく来たか、十二属性戦士。……待ち侘びたぞ?】
物凄く低い声音で話しかける怪物、フリーム=ヨトゥン。すると楓が尋ねた。
「なぜあなたは私たちが十二属性戦士であることを知ってるの?」
ヨトゥンは光に反射して光る大きな歯を見せながら答えた。
【グフフフ…、今のお前達では人数が足りんが、我を封印したのは紛れもない十二属性戦士だからだ!】
楓達は驚いた。さらに質問を重ねる。
「どういうこと?」
【あれはもう随分前のこと……。我が邪悪な魂を集め悪事を働いていた時のこと…不思議な武器と魔法を使い、我をこのグレートイクール山に封印した。それが噂に聞いた十二属性戦士だった。その後、我は深い眠りに就いたがここに散らばる人骨の一つが言った。「十二属性戦士は、ある敵との戦いの際に全員死んだと…」我は悔しかった。この我を倒し、封印した奴らが戦などで負けるとは…。しかし数年後、再び十二属性戦士が誕生したことを知った我は、こうして力を溜め……貴様らをあの者達の代わりに殺すということにした!!だが、封印を解くことはできない。そんな時だった……ある人間がここにやって来てこう言った。「お前を封印から解き放つ」と! こうして我は手始めにあの都を襲ったのだ!だが、所詮は力を持たぬただの人間…。我の恨みは晴れん! だからこうして貴様らがここに来るのを今か今かと待っていたのだ! そして、今こそその時ッ!!】
そう言ってヨトゥンは大きな爪の生えた手を振りかざし攻撃した。その攻撃の真下にいた雫と照火の二人はその攻撃を上手く躱した。しかし、敵は図体がでかい上に力も強い。おまけに体が天井の氷柱に当たって地面に降り注いでくる。十二属性戦士はどう攻撃すればいいのか途方に暮れていた。
人間の肉を食い荒らして今まで生活していたヨトゥンは、ぶよぶよの肉体をくっつけ、顔には別の生き物の頭蓋骨を被り、体にこれまた別の生き物の表面の皮を巻きつけていた。これだけで目の前の醜い怪物がどれほど悪に染まっているかは丸分かりだった。
そんなヨトゥンに武器を構え、攻撃のタイミングを見計らう十二属性戦士。
と、その時、楓がヨトゥンの足元の氷の地面にヒビが入っていることに気付いた。
――あれは!? そうだわ! 敵は体が重すぎてスピードは遅い……だったら――。
楓は先頭に立って戦っている爪牙をそのまま戦わせ、雫に相性的に悪い草属性の葬羅を守らせ、残った照火と残雪と一緒に円陣を組み、その中で作戦を伝えた。
「――分かった?」
「ああ!」
「了解ッス!」
二人がコクリと頷き了解の合図を送る。まず照火はヨトゥンに向けて大きな火の玉を投げつけた。
【ぐぅうううわぁぁああッ! ……ぬぅ、こしゃくな】
「今よっ!」
「うらぁああああッ! これでもくらえッス!!」
今度は残雪がヨトゥンの頭上に大きな鋭い氷柱を作り出した。そして、その氷柱は勢いよく真下に落ち、ヨトゥンの体に突き刺さった。
【ぐぅううううぁぁぁぁああああッ!!!】
ヨトゥンは苦しみながら叫び声をあげた。すると、ヨトゥンが地面の上をさらに暴れたため、氷の地面にさらにヒビが入り、ついに分厚い氷の地面が割れた。
【な、ぬぅあぁあああにぃいいいいッ!!?】
「てめぇら、俺様を忘れんじゃねぇ!!」
爪牙は、暴れまわるヨトゥンに向かってさらに追撃を繰り出した。
【ぐぅがぁぁぁぁあああッ!!!】
苦しみながら呻き声をあげ、ヨトゥンはそのまま暗闇の穴に落ちて行った。
ドォオオオオオオオオオオンッ!!
水煙が舞い上がり、一瞬だけだが景色が霞んだ。
「見ろ!」
爪牙が声を張り上げた。他の五人がその方を見ると、爪牙の指さす方向にキラリと光る石板があった。
「残雪! あれは君の石板だよ!」
雫が言った。その言葉を聞いて楓は、雫も残雪が十二属性戦士であることを先ほどの戦いぶりで認めたようだと思った。残雪は、他の皆を一瞥すると、小走りで石板を取りに行った。
「おぉ、すごいッス! 石板が輝いてる」
その様子を横目で見た爪牙もさすがに認めざるを得なくなったのか、チッと舌打ちしてグレートイクール山の外へと歩いて行った。
「改めて一応自己紹介しておくッスね…。自分の名前は『氷威 残雪』。六代目十二属性戦士の氷属性戦士ッス!」
「こちらこそよろしくね、残雪!」
楓達がニッコリ笑顔を浮かべて残雪に挨拶し返した。こうして十二属性戦士は、六人目の十二属性戦士である『氷威 残雪』を新たな仲間に加え、氷の都を後にした……。
というわけで新たな十二属性戦士であることが判明して無事に残雪を仲間にすることに成功した十二属性戦士。これで六人。残る人数は六人です。
また、今回はあまりにも敵が弱すぎましたね。まぁ、こちらが強いというのもあるかもしれませんが。あんなに強気でいきがっていた怪物があっさりと。恐らく、今後出てくる敵を考えても恐らく今回の話に出てきた怪物フリーム=ヨトゥンが一番弱いと思います。
次回は大きく移動して岩の都の隣にある毒の都へ向かいます。
また、登場人物のあらゆる設定などもその内載せたいと思います。
それではまた次回。




