清明
「今日は特に何もないや」
カレンダーを見ながら、井野嶽桜がつぶやいた。
「ん…これぐらいかな」
その横で、双子の弟の幌が、料理の味見をしていた。
「今日は誰も来ないし、学校もないし。一日ゴロゴロしておこーっと」
「姉ちゃん、それはいつものことだろ」
そう言っている桜に幌がすぐに突っ込む。
「そんなことないってば~」
桜がソファーに座ってテレビゲームをしながら、幌に言っていた。
「そういや、明後日学校だったっけ」
「そうだよ。宿題はやったか」
幌が寸胴を弱火にして、ふたをした。
それから桜の横に座る。
「…そろそろ桜が咲くかなぁ」
「してないんだ」
「梅はもう散っちゃったよね」
ため息をついて幌がカレンダーを見ていった。
「そうだよ。今日は清明だからね」
「清明ってなに?平安時代にいた陰陽師?」
「安倍清明じゃないよ。二十四節季の一つの清明。太陽黄道が15度の瞬間が含まれる日のことをいうんだ。暦便覧という書物によれば、「万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれるなり」という説明になっているんだ」
「太陽黄道?なにそれ」
「まあ、そう言う定義なんだと思っていて。黄道というのは太陽の通り道のこと。詳しくは定気法と平気法というやりかたで日付がかわったりするんだけど、そのあたりは説明したら頭痛くなると思うからやめとくよ」
「ふーん」
ゲームも佳境に入っていて、もう少しでラスボスが登場すると言った感じだ。
「まあ、ポカポカ陽気になって、花見に最適な雰囲気になるという感じなのが清明って時期なわけ。それが清明っていう時期のことだね」
幌が説明をしているが、桜はもうゲームに集中しているようだった。