落ち着く牢獄
計画は失敗した。
それだけは確かだ。
あれだけ考えて、あれだけ計画を練り、あれだけ慎重に動いたのに。
何年考えていただろう。
少なくとも最も古い記憶に既にその考えはあった。
何年計画を練っていただろう。
間違いなく中学生の頃にはもう計画を始めていた。
どれだけ慎重に動いただろう。
他者に分からないように、それでいて他者の負担にならないように。
そう思っていたのに。
私の考えていた死への渇望。
私の練っていた自殺の方法。
そして慎重に動いていた決行日。
そのいずれもが失敗して。
私は今、牢獄の中にいる。
人ひとりが辛うじて入り切る男の腕に今日も抱きしめられながら。
私は今日も死ぬことができないのだと実感する。
随分としっかり抱きしめるものだ。
人をぬいぐるみのように強く、これまた強く。
『もうしないよ』
そんな嘘はあっさり見抜かれているのだと実感する。
この狭い牢獄の中で、私は自分が幸福であると実感せざるを得ないくらいに愛されているのを理解させられる。
無理やりに。
この人は言った。
『何があっても君の味方だ』
それはつまり。
何があっても死ぬことを許さないという宣言でもある。
指輪が重い。
外したいほどに苦しい。
この人の妻にならなければ良かった。
そう心底思う、午前2時。
夫が死ねば私の自殺を止める者はいなくなる。
だけど、この男が死ぬのに後どれくらいの時間が必要なのだろう?
十年?
二十年?
三十年?
それ以上……?
めんどくさ。
思考を切り捨てて夫の身体に身を寄せる。
無意識のままにそれを感じた相手の腕が強く体を抱きしめる。
あぁ、この牢獄は。
今日も意思を弱めさせ、今日も奇妙な程に居心地が良い。
けれど、考えを変えるほどのものではない。
未だ失せることのない希死念慮。
あくび一つをして、まとわりつく眠気に身をまかせ、どうしょうもない本心を切り捨てる。
明日、また笑顔で夫におはようを言うために。
そう心に決めて牢獄の中で私は寝息を立てた。




