007 魔法
「なるほどッ! この暗緑の石がッ! 大解呪魔法を受けても機能しているところを見ると非常に安定した強力な魔法の道具であるようですねッ!」
「え、壊れるかもしれなかった?」
「並みの魔法道具なら消し飛んでましたねッ! よかったですッ!」
魔法少女に変身するためのマジカルジュエルは光をほとんど失っていた。
ドラゴンとの戦いで消耗していたのは間違いない。
ヒスイの心の力を集めて力に変えてくれるアイテムであり、寝ている間はあまり回復しないとはいえ、ヒスイの感覚からするともう少し光っていてもよいはずだと感じていた。
「ではその力を大解呪魔法が開放してしまったのかもしれませんッ! すこし解析させてもらってもよろしいですかッ!?」
ヒスイが頷くと、エルエルヴィが早口でなにかをもにょもにょ言った後、目が光り出した。
ヒスイの手の上のマジカルジュエルをじっと見つめている。
「魔力の源を限定することで、その力を増幅するようです……。そしてヒスイ様と強く結びついていますね……。しかし……」
これまでの勢いが消えた口調でエルエルヴィがつぶやくように語る。
「ヒスイ様の魔力と循環する構造のようですが…機能不全と言ってよいですねこれは……」
「壊れたの?」
「い、いいえ。これはヒスイ様の側の問題ですねッ! おそらくですが、ヒスイ様がいらした世界は魔力が希薄だったのでは?」
「そう言われても。確かに魔法を使う存在は極めて限定的にしかいなかったけれど」
エルエルヴィの目の光が消え、元に戻った森色の瞳がヒスイに向けられる。
「魔道の深淵に片足でも踏み込んだ者ならば、ヒスイ様の魔力の器が尋常ではないことはわかりますッ! それがこの石との合い様が悪いようですねッ!」
「ど、どういうこと?」
この歳になって、異世界にきて、魔法少女と相性が悪かったなどと。
そんなことは聞き捨てならない。
「魔法の基礎なのですがッ!」
エルエルヴィが言うには。
魔力は自ら生み出すものと世界から取り込んで得るものを合わせ自身に充溢させることでその力を使えるのだという。
合わせてとは言うが、どちらかでも構わないが、どちらもごく自然に行っているのだそうだ。
そして、一般的に魔法使いは両方を効率化する訓練を行い、使用できる魔力を増やすらしい。
「ヒスイ様の場合は魔力が枯渇状態になっておりますねッ! 基礎代謝で全部使ってるようなッ! すべてを吸い込まんとするような底なしの穴のように感じたのはこれが原因でしょうッ!」
ヒスイ自身が魔力を必要としており、回復が消費に追いついていないのだと。
マジカルジュエルは心の力を変換して、その一部をヒスイに供給しているのだが、それでも追いついていないらしい。
「魔力の扱いが、えー、伸びしろしかない状態なのもそれが理由かとッ!」
「というと?」
「魔力を水に見立てると、ヒスイ様の器はカラカラに乾いた布のようなものですッ! 魔法を使うにはここから魔力を絞り出さなければならないですねッ! ですがいくらでも吸い取るカラカラのままの布ですッ! しっかり濡らさないとなにも出ませんから魔法も使えないわけですねッ!」
ヒスイがずっと抱えてきた悩み。
魔力を体外に出せないこと。
魔法を一つしか使えないこと。
そしてもしかすると、ヒスイだけ強化フォームに変身できなかったことも。
そこに原因があった?
「魔力を満たすにはどうすれば?」
「それは魔力の回復のための修練を積むことですねッ! 簡単なのは呼吸法でしょうかッ!」
エルエルヴィに教えてもらって呼吸法とやらをやってみた。
魔力を意識して呼吸するだけだ。
世界は魔力がある程度の濃度で存在しているので、正しく呼吸するだけで緩やかに魔力を取り込める。魔法使いにとって初歩の技術だという。
「んっげっほっぐえっうぐっ!」
言われるままに試してみたところ盛大にむせた。
「うーん、体がびっくりしたんでしょうかッ! 意識しすぎないよう浅く呼吸してみましょうッ!」
前途は多難そうだった。
「生まれ落ちて十年もすれば自然に魔力を扱っているものですッ! 意識して修練するなら二、三年もあれば慣れるのではないですかッ!」
うん、多難。
すぐにはどうにもならないのであればと切り替えて移動を再開する。
「この都市の跡はどういう由来のものなんですか?」
地上には建造物の痕跡があちこちにみられるようになってきた。やはり、城下町が広がっていたのだろう。
森に侵食された石造りの街。
石の色よりも緑が多い。
ヒスイには判断ができないほど途方もない時間が経過しているのだろう。
木々が道を開けてくれてもそれらは動かない。
気付けば石畳のあとを通ることになっていた。デコボコでなかなか歩きづらい。
「ここは六百年ほど前に滅んだ人間が作り上げた都市ですねッ! この地に魔王が生まれるという予言があり、しばらくすると人間同士で戦になって滅びましたッ! その後、この都市に縁があったエルフが近隣に根付き、それが我々新緑の森のエルフですッ!」
「六百年……」
そんなに昔なのか、という気持ちとそんなものなのか、という気持ちを、ヒスイは覚えた。
地球の六百年前と言うと室町時代だろうか。
それだけあれば何が起こっていてもおかしくないなと思った。
エルフとは時間間隔がずれているが、この世界の人間が地球のそれと近いなら。
もちろん、地球人類も技術発展の前に何万年かあったわけだから、ちょうどその時期に当たるかはわからないけれど。
「見渡す限り森だったようだけど」
「滅んでからは人間は寄り付かなくなりましたねッ! 時折遺跡漁りの類が来ることもありますがッ!」
人類が滅んでいるわけではないらしい。
なにかしらの理由でこの地域を棄てたのだろう。
理由がわからないのは不気味に思えたが、まあ直ちに影響はないだろう。
「見えてきましたッ!」
お話ししながら進んでいくと、木々の向こうに塔が見えてきた。
ヒスイが最初に目覚めた場所、のはずだ。
ほかに近い高さの場所は見ていない。
さらに進むと、異常を発見する。
ヒスイとエルエルヴィは大きめの廃墟の影に入って顔を見合わせた。
「ねえ、あれって」
「あの赤は見間違えるはずもありませんッ」
ごくごく最近、エルフの森とヒスイを追い込んだ暗い赤よりも鮮やかな真紅。
あのとき、魔法陣の発動のあと気を失ったヒスイは直接目にしていないのだが。
飛び去るのを見送ったエルエルヴィが見間違えるはずもない。
轟炎竜が木々の向こうにチラ見えしていた。
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