006 エルエルヴィ
謎の汁は砂糖入りのお茶っぽい飲料だった。カフェインの作用を感じる。
おかげでヒスイはすっきりと目が覚めた。
「ヒスイ様は、戦っていたところまで覚えがあり、気づけば異世界にいて、声が聞こえたから助けていただけたということですねッ!」
「はい、そうですね」
「なんとおせっかいなお方ッ」
「んんん~?」
「あッ!献身的!」
「異世界とか、あっさり信じてくださるんですね」
改めての状況の確認をしている。エルエルヴィはなんというか、そう、気さくなエルフであった。それと威勢がよい。ちょっと頑張ってる感はあるが。
「あたくしの師匠が異世界はあるよと言っていたのでッ!」
「そうなの!? そのお師匠様は?」
「ここ百年くらい見てないですねッ!」
「百、そ、そうですか」
ヒスイはエルエルヴィとの感覚の違いを改めて感じていた。
そもそも年というのが地球と同じとも限らないが、百という数字が簡単に出るのはいかにもエルフといったところか。
そしてそれとは別に、一つ気づいたことがある。
「しゃべっている声と口の動きが違う……」
思わずそれを口にすると、エルエルヴィも驚いた顔になった。
「翻訳の魔法ではないのですかッ?」
「そんな便利そうなものがあるの?」
理由はわからないが、エルエルヴィが使う言語とヒスイが認識している言語は違うようだ。
エルエルヴィが魔法を使っているわけでもない。
「まあそうですよねッ! あの程度の魔法技術でそんなこざかしい魔法を覚えてるわけがッ!」
このエルエルヴィの謎の語彙も翻訳によるものの可能性があると考えると、印象が変わるかもしれない。どうだろう。何度も言い換えているからそうでもないのかも。
「元の世界に帰る方法などはわかりませんか?」
「さっぱりですねッ!」
はっきり言いきられてしまった。
「あッ、でもッ! ヒスイ様が最初に目覚めた場所にいけば手掛かりが見つかるかもしれませんッ! あとは師匠ならなにか知っているかもッ!」
行方不明のお師匠さんはあてになるまい。
だが調べると言っても、ヒスイに何かわかるなら、あの時目覚めた時点で気づいていそうなものだ。
ドラゴンに気を取られていたとはいえ、なにも気づかなかった。
「よろしければッ! 調べに行きましょうッ!」
ヒスイが不安を覚えながらそれでもほかにないかと考えていると、エルエルヴィがそう言って立ち上がった。
「我々は恩を受けたら返すのですッ! 人間のような忘恩の種族ではないのでッ! 少なくとも、この森にいる間は不便をかけることはないですよッ!」
ヒスイはエルエルヴィを生暖かく見つめた。心強いような不安が増したような。
△▼△ △▼△
外に出ると、ヒスイたちが大樹の中にいた事がわかった。
部屋に空いた穴から出ると、木漏れ日が差し込む森の中の広場と、巨大な木々が広がっていた。
「出かけてくるよー」
「おーう」
エルエルヴィが声をかけると、どこからか声が返ってくる。
ヒスイには分からない場所に部屋があるのだろう。
この森の木はエルフたちの意を汲んで動くらしい。
エルエルヴィが前に立って歩き出すと、にゅるにゅると巨木が避けて道を作る様子はまさしくファンタジー。
ドキドキと少しのワクワクを感じつつ、ついて歩く。
すぐに、焦げたにおいがしてきて、ドラゴンの炎で焼かれた木々がいまだくすぶっていた。
交戦地点はエルエルヴィたちの住居のすぐ近くだったらしい。
燃えてしまった炭は自分では動いてくれない。
ヒスイたちは迂回して進む。
「そうだ、あのドラゴンはどうなったんですか?」
「轟炎竜閣下は魔王の支配を脱したようで、どこかに飛び去って行きましたよッ! あの時は時間を稼いでくれてありがとうございましたッ! 咆哮で耳が終わってましたがッ! 伝わっていたようで良かったッ! 頑丈ッ!」
「あ、はい……轟炎竜閣下というドラゴンなんですね」
戦闘中、エルエルヴィが離脱するとき何か言っていたようだったのは、時間を稼いでほしいみたいなことを言っていたのだとヒスイは気づいた。
まったくわかっていなかったということを指摘しても仕方がないのでスルーしておく。
「世界でも屈指の強大なドラゴンですねッ! 支配されて随分弱体化していたので助かりましたッ! 全力なら森ごと消えていたでしょうッ!」
「そうなんですか。あれ、魔王に支配されていたんですか?」
魔王と間違えられたヒスイとしては少々聞き捨てならない。
「魔王くらいでないとかの方を支配するなど不可能でしょうッ!」
「私を魔王と勘違いしていたのは?」
「うーん? ああッ! 魔王は複数居るものですからッ! 魔王同士の諍いに我々が巻き込まれたのかとッ!」
魔王が複数いるというのは衝撃だった。
しかし同時に、ヒスイを殺そうという意見が出た理由も理解できた。
ヒスイにとってはエルフが襲われていたわけだが、魔王が争っていたところにエルフが巻き込まれたということであればそういう話になってもおかしくないだろう。
「そういえばッ! ヒスイ様の変装はしなくともよろしいのですかッ!?」
「変装?」
「小柄な姿に偽装しつつ器を隠しているのでは?」
「えっ、あっ、魔法少女は戦うための力を貸してくれる姿で、偽装などでは……」
「戦うための力をッ? えッ!?」
まだまだ認識の齟齬があるようだ。
エルエルヴィに何が見えているのか。
異世界と、エルフとヒスイの間の認識の違いがあることは理解できるため、あまり追求せずそういうものかと受け入れていくつもりだった。
しかし、ヒスイ自身についての認識が大きくずれているらしいことは看過すべきではないだろうと思った。
面白かった、続きが気になると思ったら、いいねと評価をお願いします。




