050 ドワーフの宝
「がんばって!」
「武運を」
「無事帰ってこいよ」
採掘拠点をいくつか経由して、前線基地に至る道を行く。
拠点を出る時には激励の声をかけてもらえる。
各拠点には基本的にはドワーフがいる。
彼らにとってはアンデッドとの戦争は日常だ。
気軽な声色の応援だった。
一部の拠点間の通路は天井が高い。
ドワーフたちも荷物を山積みにして運びたいので、道やトロッコを整備する。
ただそれは主要な幹線で、近道用や鉱脈探しのための試掘、昔の誰かが深く考えずに掘ってみた穴などは最低限でしかない。
そういう場所では背の高い副長が苦労していたが、それは予定通りであり、道中は何事もなく進んだ。
歩くのに合わせて鳴る鎧の音だけが響くのを聞いていると、やはり緊張してくる。
バックラーの持ち方を試したり、穴に指を入れて下げるように持つと明かりとして運びやすいと気づいて感心したりもした。ちょうど光を斜め下に向けられるのだ。
また、そんな時は雑談が生まれるもので、マジカルナックルはその中で、気になっていたことを尋ねていた。
「アンデッドたちが狙っているの、ドワーフの宝ってなんなの?」
「失われしドワーフの宝か」
チェインメイルの音を鳴らして半分振り返りながら、ドワーフの“鉄の髭”が答える。
「えっ? 失われてるの?」
「失われていたんですか?」
「どういうことです?」
マジカルナックルのほかに、聖女たちも食いついた。
「三代前のころに行方不明となったんじゃ。宮殿まで攻められたらしい」
「じゃあアンデッドが持って行っちゃってるの?」
「持っていくことは出来んじゃろ」
「というと?」
「ドワーフの宝というのはの」
「宝というのは?」
「場所なんじゃ」
「場所?」
もったいぶって話す鉄の髭に、聖女たちも引き込まれている。
「ドワーフの方にとっての宝と言える場所といいますと」
「特別な者が惚れる場所とかですかね?」
「そんなのすぐ掘り終わっちゃいそうだけど」
「無限に掘れる場所!」
「それは聖地に指定されそうな場所ですわねぇ」
「じゃあ無限に鍛冶出来る場所?」
「それは……なくもないのかな?」
「……正解じゃあ……」
ワイワイ予想する中で正解が出たらしい。ドワーフの表情は髭のせいでわかりにくいが、声が沈んでいた。
「ええと、無限に鍛冶ができる場所が宝だと」
「ちょっと違うんじゃがの。どんな金属でも鍛えることができる炉、まあ鍛冶場じゃと伝わっとる」
「どんな金属でも、かあ」
金属は熱によって柔らかくして加工するわけだが、種類によって融点が違う。
だから例えば、銅より融点が高い鉄の方が加工しにくいわけだ。
そう考えると、必要なのは加熱手段と、その熱に耐える設備ということだろう。
金属を加熱する炉を耐熱煉瓦で組むのを動画で見た覚えがある。耐熱材料が重要だと語られていた。
どんな金属も、ということなら数千度は耐える炉と加熱手段があるのだろうか。
魔法によるものだったり、神様が関わっているのかもしれない。
マジカルナックルにとっては、この世界ならそっちの方が現実的に感じる。
「夢のようじゃなあ」
「うむうむ」
「作りたい物なんて無限にあるからの」
頷き合うドワーフたち。
声が楽しそうである。
「では、その鍛冶場は占領されたのですか?」
「いや、それもわからんのじゃ」
「親方と選ばれた一名しか使えなかったんじゃ」
「当時の親方が伝えぬまま戦死したからの」
「伝説の鍛冶場の場所はわからんようなってしもうたわけじゃ」
ドワーフたちが呼ぶ親方というのは皇帝のことだろう。
特別な炉を使う権利は皇帝だけが持っていた。
だから場所も秘匿されていた。
伝承が途切れてわからなくなった。
「それって、よく三代前までよく途切れずに伝わってたね」
「親方は前線に出ない掟があったんじゃ」
「親方は作り手の長じゃからな」
「戦士の長じゃないんじゃよ」
「で、それがわかんなくなったと」
「おかげで誰も親方になりたがらなくなっての」
「傑作じゃよな」
「雑用ばっかり背にゃならんもんな」
「世襲じゃないんだ?」
「一番腕がええもんが親方になるんじゃ」
「そうでもなけりゃあ、伝説の炉の独り占めは許されんよなあ」
「今は昔ほど腕を誇る鍛冶師が出なくなったの」
「悲しい話を聞いちゃった」
「親方になりたくないからみんなこっそりやっとるんじゃ」
「陛下かわいそうじゃん。どうやって決めてるの?」
「立候補がおらんようなったから、クジじゃな」
「決まったらみんなで祝うんじゃよ」
それは当たらなかったことを祝っているのではないか。
マジカルナックルは聖女やエルエルヴィと渋い顔を見合わせた。
ドワーフ地下帝国が不利に傾いているのはその当たりに理由があるのではないか、などと思ってしまう。
「でも、アンデッドは鍛冶場を欲しがらないでしょう?」
「アンデッドによく効く金属で武器を作っとったからの」
「普通の炉では温度が足りんのじゃ」
「その金属も貴重じゃしの」
その話は聞いた覚えがあった。
聖女が来たので温存しているという武器の話だ。
「これじゃな」
「おお?」
ドワーフ地下帝国は、今がここぞという時と判断したらしい。
鉄の髭がもっていたハンマーを覆っていた布を取ると、光るヘッドが現れた。
「光ってるのね」
「ゴーストにも効くぞ」
「へえ」
みんなで覗くように観察する。
マジカルナックルはハンマーの良し悪しはわからないが、よく見ると小さな傷が多く使い込まれているように見えた。
「わしらも今回は持っとるぞ」
「自分で作りたいのう」
柄の部分は別の金属を使っている。打撃部分だけ光る金属だ。
「魂光鋼という、伝説の金属の一つじゃな」
舌を噛みそうな名前である。
魂の光の鋼。
「いかにもアンデッドに効きそうな名前だね」
「ゴーレムには普通の鋼くらいなんじゃがな」
そうすると、その炉を破壊したいのだろうか。
そして場所を見つけられていない。
とすると、両者わからなくなった場所のために戦っていることになる。
マジカルナックルが想像でなんだかなあと思っていると、今までとは違う音が耳に入った。
歩くときに鳴る鎧の音とは別の音だ。
「もう少しすれば目的地じゃ」
「これ戦闘してない?」
のんびりした鉄の髭の声にそわそわしながらマジカルナックルが尋ねると。
「最前線はいつもですよ」
「不定期に攻撃されるんです。こっちの気が休まらない程度に」
「力の入れ方も毎回違いますから……これくらいならたいしたことはないですね」
想像以上に殺伐としているようだ。
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