049 出発
「魔法少女マジカルナックル!」
出撃の日、集まってからマジカルナックルに変身すると、ぱちぱちと拍手が贈られた。
マジカルナックルが所属する部隊は十名。
通商路の確認に向かったメンバーにマジカルナックルとエルエルヴィを加えたそのままだ。
聖女が四名もいる贅沢な構成と言える。最も危険と見られる場所を担当することになるためだ。
案内兼前衛のドワーフが三名。鉄の髭、赤斧、古鉄。
部隊の指揮役兼責任者として副長。
前衛もできる正義の聖女スカーレット。
使い勝手が良い、聖なる光の第一人者、光の聖女ビアンカ。
回復に向いている豊穣の聖女クロエ。
知恵の聖女セレナはインスピレーションに優れているのと、魔法解除が上手い。
ここにマジカルナックルとエルエルヴィが加わる。
「これを用意したぞ。移動中だけでもつけとくれ」
ドワーフたちが差し出したのはヘルメットだった。地球の安全ヘルメットに近い形だ。紐であご下で固定する仕組み。
「移動中に頭を打ったり石が落ちてきたりしますからね」
「軽装が良くてもつけておいたほうがええぞ」
なるほどと思って受け取ってかぶると安全第一魔法少女と化した。
エルエルヴィはエルフ特有の長い耳が飛び出てしまっている。
「軽いね」
「防具としては使えない程度じゃからあてにはせんでくれ」
「了解。ありがとう」
プラスチックほどではないが、鉄と比べるとかなり軽い。アルミ系合金か、それに近いのかなと感じた。
「それからこれも」
「なぁにこれ。盾?」
次に差し出された物は、鍋の蓋のような、取っ手が着いた鉄板、をもう少し複雑にしたモノだった。穴や鋲のようなでっぱりがある。
「ここがパカパカするんじゃ」
取っ手があるのとは反対側に、開閉できる扉のようなものがついている。
「この中に明かりの魔法をかけると便利なんじゃ」
「ランタンバックラーじゃな」
「これは戦闘に耐える強度があるぞ」
「このあいだのランタンを盾に付けたみたいなのね」
「邪魔なら落とせばええ。落としても壊れんし」
「手で触りたくないもんをつっつくのにもええぞ」
「おお。じゃあ使わせてもらおうかな」
聖女ビアンカに聖なる光の魔法をかけてもらって、光の窓を閉じると光が漏れていないように見える。匠の技だ。攻撃を受けたりすれば歪んでしまうだろうが、開戦してからなら問題ないだろう。
「それからこちらは、クロエとお姉様からの補給ですわ。魔力ポーションです」
聖女ビアンカが取り出したのは、空いた時間を使って原料を用意した魔力回復用の水薬だった。
ポーションを調合できる聖女に加工を任せたのだが、間に合ったらしい。
「飲むか、かけるかすれば魔力を回復できますわ。ここにあるものは全部持って行っていいそうです」
十本のガラス瓶だ。ちょっと持ち運びが不安だが癒しのポーション用の鞄があるらしい。マジカルナックルたちも貸してもらった。
聖女が多い構成なので、一部魔力用に置き換えてもよさそうだね、と相談して魔力ポーションも用意してもらったのだ。
「いつのまに」
「魔法の練習のときにちょっとね」
エルエルヴィを驚かせたので、マジカルナックルは胸を張った。
回復量はそこまで多くはないが、ちょっとした魔法を何度か使うくらいはできるだろうということだ。
「ヒスイちゃんの場合はあまり足しにならない」
雑だからと言いたいらしい。マジカルナックルは頬を膨らませた。
「さて、準備は出来ましたかな」
その他、食料などに荷物も確認して、副長が声をかける。
「諸君。ドワーフ地下帝国の現状を鑑みれば、今回の作戦は存亡にかかわる一大事である。力を尽くし、成し遂げよう。出撃」
『おう!』
打ち合わせはなかったが声が揃った。
マジカルナックルは気分よくトロッコに乗り込んだ。
そのために変身したのだ。
そのためにヘルメットを受け取った面もある。ちょっと心もとないけれど。ないよりましだろう。
今回の移動は三時間ほどだという。
マジカルナックルはみんなが消耗しないように祈ることにした。
到着後三十分ほど休息して行軍を開始した。
マジカルナックルの身長で天井ギリギリの坑道を進む。幅は二人がすれ違うのに十分なだけあるので、やはり問題は高さだけだ。
「大丈夫です?」
「慣れてますので」
副長は腰か膝を壊しそうだなと思う。
なんならドワーフと入れ替えてもよいのではないかと思い、それとなく尋ねたのだが、大人の事情だということだった。
つまり何か問題があった時、聖女に責任が行かないようにする役目だ。
聖女は人類共有の宝である。
ドワーフの元でなにか起きても責任を取る役目を負わせるわけにはいかない。
現地にいない物ほどそういう問題を言い立てるのだ。
特に、聖女が命を落とすような事態が起きた場合に。
またドワーフ側に責任を押し付けるわけにもいかない。
隊長や副長たちは人生経験が少ない聖女に代わって調整役と、何かあった時に責任をかぶるためにいるのだ、と、これを教えてくれたのは聖女ビアンカである。
それで撤退時の足が鈍るのは本末転倒に思えたが、そんな場合は置いて逃げろということらしい。
そこまで覚悟が決まっているとマジカルナックルには何も言えなかった。
どこか裏がありそうにも思えたタイミングもあったが、やるべき役割のためなのだろう。
マジカルナックルも地球ではどちらかと言えばそういう立場でいたのだ。
聖女ビアンカの言葉もあって、マジカルナックルはおじさん組に少々同情的になっていた。
「背を小さくする魔法とかないの?」
「やめてくれ」
嫌がられた。
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