048 作戦会議
神前決闘から二日後。
ヒスイは聖女クロエの農場で作物とにらめっこしながら復習をしていた。
エルエルヴィは一人で結界の聖女のところに行くと言って別行動だ。
「あれだけうまく戦えるのに、反省点があるんですか?」
作業の合間に聖女クロエが話しかけてくる。
「エルエルヴィ先生からすれば私はまだまだ初心者なのよ」
「エルフの魔法使いからすればそうでしょうけど」
「例えばあの時、私は太陽の光を模した魔法を組み合わせて植物の魔法を後押ししたんだけど」
「あれにはそういう意味があったんですか」
さらに言えば地面と、エルエルヴィがばらまいた水も利用した。
植物の成長に必要な要素を外から揃えて、触媒として使ったのだ。
これによって魔力消費の低減と効果の向上を狙ったわけだ。
「でも、それなら一つの魔法として使うことができると言われたのね」
「というと?」
「つまり、光の要素を植物の魔法に組み込めば、一度の魔法で同じ効果を得られたというのね」
「二回魔法を使うか一回で済むかみたいな話ですか?」
「というよりも、より高度な魔法の使い方。それから、邪魔が入りにくくなるという利点も言っていたかな」
二回魔法を使う必要がある場合、魔法の邪魔をする機会が二回あるし、一度目の準備にあたる魔法を無効化されたり、何を狙っているか読まれる恐れもあるという。
そんなことができる敵がいるのかと問えば、できない相手のことは気にしなくてよいという。
格下は正面から倒せばよく、格上に対抗できる手段を増やすためであると。
「それは確かに言い返す言葉もありませんね。ですが、光の魔法は目つぶしにも使っていましたよね」
「そうだね。それで足止めになっていた部分はあるよね。だから使い分けも含めて考えろって」
「なかなか難題ですね」
「ただまあ、一回やっていることだから応用を覚えろってことかなと」
「そうなんですか?」
ドワーフ地下帝国に来る前に使ったマジカル波がそれだ。
魔法として形にする前の段階で燃料とすることを意識して放射した。
効果自体は力技で雑と呼ばれるかもしれないが、やったことは一段高度な技術だったわけだ。
「それと、狭い場所で、崩落とか気にしないで使える戦い方ももう少し詰めないといけないんだ」
「強力な魔法は余波も大きくなりますからね」
「避けるスペースがないのも困るね。あとは継戦能力かなあ」
懸念を挙げればきりがない。
マジカルパンチで全部なんとかするという考えが浮かぶが、あの魔法を使う万年宰相とかいう個体はそれだけで対処できるかというと厳しいと思う。
「相手も数の利を生かすために、比較的広い場所で戦いになることが多いですよ」
「そうなの?」
「資材や道具を置く場所や、大規模に採掘した跡は広くなっています。狭い場所での遭遇戦はもちろんありますが」
「なるほど……」
聖なる魔法で下級のアンデッドは問題にならない。
一方で、聖なる光を維持し続ける必要があり、それなりに聖女たちの負担になっている。
強力なアンデッドが聖なる光だけでは滅ぼせないのは巨大スケルトンとの戦いで証明されており、かといって物理攻撃だけでもなかなか倒しきれない。
逆にドワーフもタフだし聖女もいればなお堅固。
お互い耐久力が高い。
必要なのは突破力か。
だが、強力な攻撃魔法は崩落を招く。
別のアプローチを考えるべきだろう。もっとコンパクトで、効果的な手段。
「ねえクロエちゃん。魔力について聞きたいんだけど」
「わたしにですか?」
「例えばこういう――」
一つ思いついたことができるかどうか。
ヒスイは聖女クロエに協力してもらい、試すことにしたのだった。
▽▲▽ ▲▽▲
「これを見てくれるかの」
会議室に主要なメンバーが集まった。と言っても、陛下とドワーフ数人、聖女がいつもの四人、支援部隊の隊長と副長という、恒例となりつつあるメンバーだ。
そして見せられたのは大量の線が書き込まれた紙である。
「これは?」
「現状の前線の坑道を図にしたものなんじゃが」
「申し訳ないんですが、さっぱり理解できません」
つまり地図のようなものなのだろうが、線が多すぎて入り組んでいる。
しかも重なっているところも多く、ヒスイにはぐちゃぐちゃな線にしか見えなかった。
エルエルヴィをちらりと見ても、首を横に振っている。
「ううむ、やはりほかの種族にはわかりにくいのかのう」
「立体の坑道を紙に落とし込んでいるのではどうにもこうにもですな」
隊長も読み取れていないようである。
「ともあれ、協議の結果、戦線を整理して動かせる人数を抽出しようということになりまして。陛下をはじめ、ドワーフの皆さんに動かす場所を選定していただいていたわけです。その、我々には把握しきれておりませんのでね」
「戦線を下げるということですか?」
「逆じゃよ。要所を奪い返す」
複雑に入り組んだ坑道が戦場である。
この地形を最も理解しているのがドワーフだ。アンデッド側はわからないが、掘ったのはドワーフである。
坑道によって設備が繋がれている。小さな居住施設、倉庫、鍛冶施設から、採掘場所から遠くなったので使わなくなった都市跡まで様々だ。
通りやすいように整備されている坑道もあれば、ドワーフ一人分の狭い穴もある。
それらを込みで大きな迷路というわけだ。
そして、迷路には要所が存在する。
簡単に言えば多くの通路が合流する場所だ。
一か所を抑えれば複数の場所へ行けなくなるという場所。
現状でもそういった場所に防衛線を張っているわけだが、お互いにこういう場所を取り合っている。
それが地下での戦争らしい。
「こことここ、それからここを一掃してここまで進めば、この線からこっちは安全になるじゃろ。防衛に必要な人数を二か所分減らせるわけじゃな」
「全然わからないけど、そうなんですね」
「それからここからこう掘り進めれば、この地点の裏に出る。ここを抑えればここからこっちを孤立させられるから一掃してしまえばいいわけじゃな」
「さらに通路を増やすの!?」
きっとドワーフは空間把握能力が高いのだ。特に地下の構造に強い。そうやって生きてきたからだ。人間もエルフも理解しようと頭をひねっているのにわかっていないのだ。ヒスイだけ理解が追い付いていないわけではないのだ。
「つまり、いくつか部隊を同時に動かせれば、奪い返せる要所があって、そこを確保できれば外と連絡を取りに行くにしても、さらに攻めるにしても、動かせる人数を確保できると、そういう理解でいいのかな」
「そう言うとるじゃろ」
ふん、と鼻息を鳴らす黒鉄陛下。
「その理解で充分です。作戦はドワーフが主導し、我々は戦力として同行。集まってもらった人員で、今回の作戦で最も強力な敵拠点を強襲してもらいたい」
「陛下と隊長さんも?」
「陛下と私はそれぞれ別の場所で指揮を執ることになりますな」
「ですよね」
同行メンバーはドワーフ地下帝国の外で合流した顔ぶれのようだ。ヒスイたちへの配慮も込みだろう。
最も危険な場所に向けられるのも理解できる。
特に問題はないだろう。
「狭いところでは足を引っ張るかもしれないが、よろしく」
背の高い副長には問題なのかもしれない。まあそれも、広い場所に出れば問題ないだろう。
「了解、異存無しです」
「同じく」
ヒスイたちがやることをまとめると、拠点に攻め込んで占拠する。
わかりやすい。
こうして作戦が決定した。
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