047 敵を知り味方を知れば
「アンデッドどもの恐ろしい点として、戦力が無尽蔵であることだった、と伝わっています」
「過去形なの?」
「聖女が投入されてから事情が変わりました。聖なる光に浄化されたアンデッドは容易に再生しなくなったのです」
「再生か……」
「普通に破壊するだけだと、元に戻っていくんですよ」
ヒスイとエルエルヴィを組み込んで現状を打破するための戦略を検討するということで、一旦話し合いは中断した。
二人がフリーになったところで、聖女セレナと聖女スカーレットがドワーフ地下帝国と敵対するアンデッドたちについてレクチャーしてくれることになった。
その前に他の聖女も何人か紹介してもらったが、すぐに別行動になった。
基本的に聖女はみんな忙しく、もともと通商路の件で別動隊として抽出されていた四人がそのまま関わるのは自然な流れである。すでに馴染んでいるメンバーであることだし。
敵はスケルトン系が主力だが、幽霊タイプのゴースト系や、犠牲になったドワーフのゾンビなどが混じったり、特別に編成されていたりと、明らかに戦術的、戦略的な動きをする点でほかの地域のアンデッドとは一線を画する。
それは指揮官個体が存在するからだ。
敵はアンデッド帝国であるのだ。
先日の万年宰相のような幹部が何体かいて、アンデッドの皇帝も存在する。
歴戦の指揮官が率いる不死の軍隊。
そんなものに狙われ続けるなんて。
想像を絶する歴史がある。魔法少女としては少し年上というだけのヒスイなど、まだまだ若輩者だ。
「なんでアンデッドはドワーフたちを襲っているの?」
ヒスイには想像もできないほど長い時間戦争しているらしい。
それほどの目的があるはずだ、とヒスイは考えた。
「ドワーフの秘宝を狙っているらしいですよ」
「詳細は陛下に尋ねなければわかりませんが、ドワーフは最高の採掘地を守るため、アンデッドはずっと襲い続けているので、いまだに目的を達成できていないということなのでしょう」
「ドワーフの秘宝かぁ」
目的を達成した場合、アンデッド帝国はどうするのだろうか。
そんな疑問がヒスイの頭をよぎったが、考えても仕方ないことだとすぐに忘れた。
「我々聖女が応援に来てからは状況が変わりました。聖女はアンデッドに対し圧倒的に有利なのです。不死なる者を浄化し、永遠の眠りに戻すことで戦力の消耗を強いることができるようになりました。ドワーフの神官もやっていたことですが、聖女は最上級の神官より強力な神の加護を受けていますので」
「そうなると今の状況は有利なの?」
「残念ながら膠着しています」
「敵にアンデッド以外の戦力が現れたんですよ」
「え。何か別の勢力が参戦したってこと?」
「いえ、いわゆる魔法生物、魔法兵器の類です。ゴーレムなどと呼ばれる者の類型」
「ゴーレム」
ゴーレムというと、頭文字を一字削れば動かなくなるという設定で有名な人造生命で、ファンタジー作品でもよく登場する。
土や石、金属など、様々な素材から作られる。
というのがヒスイの認識で、謎翻訳がゴーレムと翻訳したのだから大筋違わないと考えられる。
「核になる魔法文字があるとしても、簡単には識別できないように処置してあると思う」
なるほど、エルエルヴィの言うことに一理ある。
「骨を材料にしたスケルトン型のゴーレムが初めだったそうです」
「うわ!? それはなんというか、えげつないわね。スケルトンだと思って戦ってたら、聖なる光で倒せない骨ゴーレムが混ざってるなんだ。それは不意を突かれたでしょう」
「聖女を組み込んで前線を押し上げていた勢いを一気に止められたらしいですね。その後、岩や壁に擬態したゴーレムが混ざるようになり、ドワーフの倉庫から奪った金属のゴーレムも使うようになり。ゴーレムとアンデッドの混成部隊と戦っているのが現状です」
「金属ゴーレムには刃物は通じないんですよ。だから鈍器や、刃がついていても斧とかで対抗してます」
「殴って壊すの?」
例えば自動車に刃物で挑んでも傷はついても倒せないだろう。
だからと言ってハンマーで殴ってどうにかなるかというとそれはそれで疑問だが。
時間をかけて、可動部が変形して動かなくなるまで殴るとかだろうか。
あるいは、異世界なりの魔法的な身体能力強化が合わされば金属も壊せるのか。
「私の場合は動かしている魔法を解除する方が時間がかかりませんね。魔払いの加護に強い聖女はそうしています。それでも、魔力と時間はかかりますが」
「動かしている魔法を解除すればいいのね」
「それはそれで難しい。ヒスイちゃんなら破壊するほうが早いだろう」
「エルエルヴィちゃんはゴーレムを作ったり、解除したりできないの?」
「できる。が、ゴーレムを作るのは得意分野ではない。このくらい。かりそめの魂を持って動け」
エルエルヴィが懐から石炭を取り出して魔法をかけると、石炭は……特に何も変わらなかった。
「跳ねなさい」
エルエルヴィに命じられると、石炭が手のひらの上でぴょんと跳ねた。
「あら。どうやって動いてるの?」
石炭ゴーレムは手も足もない。
「魔力を消費して自分をはじき出すように動く。三回動いたら力尽きる」
「石炭さん!? 無理しないで!?」
石炭ゴーレムは三回跳ねて石炭に戻った。さようなら、石炭さん。ヒスイは手を合わせた。
「普通は時間をかけて作る。一時的に動かすだけなら即席でも可能。術者がいないならそれなりに手間をかけて作っているはず。術者がいるなら動かし続けているかもしれない」
「そうすると、無尽蔵にゴーレムが湧き続けるということはないのですね?」
「ない。とはいえ、相手はアンデッドとはいえ歴戦の魔法使い。こちらの変化に対応してくる知恵も持っている。なにか抜け道を持っている可能性は否定できない」
「着実に破壊していくことが、無駄ではないとわかっただけでもありがたいです」
敵はアンデッドとゴーレム。どちらも、戦力の補充が効きやすく、長期戦に強い。だが弱点もある。アンデッドは聖なる力に特に弱く、ゴーレムと共通で魔法を解除されると力を失う。
もちろん歴戦の魔法使いの魔法を解除できる使い手も限られてはいる。
「話を聞いていると、ドワーフたちだけのころはよく耐えていられたね」
「アンデッドによく効く武器があったみたいです」
「ゴーレム相手に消耗するのを嫌って、最近は使っていないそうです」
「今はアンデッドへの主力は聖女で、ドワーフは対ゴーレムに寄せてるわけか」
戦いの歴史があった。
「そうすると、私たちが何を軸にするか、考えなきゃいけないね」
「そうですねッ。こちら側の戦術はどうなっている?」
エルエルヴィが味方の側について尋ねる。
敵と味方をよく知ることが大事だと昔の人が言っていた。
「現在は結界の聖女を軸に、要所に聖女を配置して防戦しています」
「結界というと」
結界は、境界を定めてその内外、あるいは境界そのものにルールを課すという運用をする魔法、加護らしい。
例えば出入り禁止であるとかだ。
アンデッド進入禁止、という結界を配置するとアンデッドは通れなくなる。
「すごく便利じゃない」
「便利すぎて頼っている状態です。ただ問題がありまして。彼女の試練の期間はあと一年ほどなのです」
聖女は五年ほどで授けられた力を失うということだから、すでに四年間活躍しているということだ。
そして活躍しただけ、引退によって戦力が減るわけだ。
「次はまだ見つかっておりません」
「見つかっても同じことができるとも限らないしね」
当代の結界の聖女は特に有能だと評価されているようだ。
そうすると、今が決定的に戦況を動かすべき時なのだろうが。
それが出来れば長年の争いは終わっているだろう。
「それと、注意点なんだけど。通路の天井が低いことなんですよね」
「どういうこと?」
聞けば、通路の多くはドワーフの坑道をそのまま利用しているのだという。
「人間にはちょっと低くて。あたしたちでもしゃがんで移動するんです」
「成人男性だとかなり腰に負担がかかるようです」
「なるほど」
課題はなかなか多いようだった。
「戦い方を考えないとね」
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