046 和解
謁見の間。
「正直すまんかった」
「黒鉄千百十三世陛下からの謝罪を受け入れる。山の友」
「森の友」
握手。
ドワーフとエルフの歴史的和解が行われた。歴史的断絶から三日ぶりである。
頭の中でそんなナレーションを流しながら、ヒスイは話が無事に収まったことに安堵していた。
黒鉄陛下も笑ってエルエルヴィをたたえており、遺恨はなさそうだ。
神前決闘は結局手加減に手加減を重ねたエルエルヴィによって終わったと言っていい。用意した触媒もほとんど残っているし、泥に埋もれて窒息の危険はあったが直接傷つける魔法を使わずに封じ込めてしまった。
そして最後の一対一は実質茶番である。
ヒスイたちは邪悪な存在に当てはまらないし、聖女はヒスイを認めているのだから正邪を断ずる加護による攻撃を受けても、あの鎚矛で殴られただけで終わるのだ。
いや、あんな殺意の塊のような金属の塊で殴られたら、普通は痛いではすまないけれども。
正面からすべて拳で迎え撃ち、マジカルパンチで打撃力を相殺した。
身体強化されているとはいっても、人間が出せる打撃力程度ならマジカルパンチでなんとかなる。
失敗していれば拳が砕ける痛みと同時に手袋がはじけ飛んでいただろう。今回は無事だったが。
最終的には間合いの内側に踏み込んで足を刈って押し倒し、降参を引き出した。
戦う前に、エルエルヴィが轟炎竜を引き合いに出したが、ドワーフの精鋭や聖女の集団よりも、轟炎竜の方がやはり脅威であった。
重戦士と巨大生物は強さの方向性が近い。もっと別のアプローチがあれば違った結果になっていたかもしれない。
「いや、おめでとうございます。一安心ですな。これで今後の話ができるというものです」
支援部隊の隊長が話しかけてくる。
このおじさんが神前決闘を持ちかけて場を取り持ってくれたわけだが、その前の疑惑のところから仕込みではないかとヒスイは疑っている。わざわざそれを表に出す気もないが。
「ええ、なんとかなってよかったです」
「ご謙遜を。お二方とも、全力ではありますまい。特にあのエルエルヴィ殿。まさかエルフの偉大なる魔導士にして幻術士、正体不明の『万軍崩し』に出会えるとは」
「万軍崩し? なんです? 彼女が森の外でどう呼ばれているかには詳しくないのですけど」
ひどく仰々しい呼び名である。
「なんと、ご存じない? 偉大な英雄の話ですぞ。二百年ほど前、大戦乱の時代、たったひとりで数万の軍を撃退した大魔導士」
「それはあたくしの師ですねッ! あたくしそんなに年取って見えますかッ? 二百年前だとまだ生まれていないのですけどねッ!!!!!」
隊長の話を聞いていると、怒れるエルフがやってきた。
「えっ、あっ、これはこれは……お師匠どの? ははあ、なるほど、聞いた話よりは若く見えるなと……ええ……ほ、本当ですとも……」
エルエルヴィが隊長を詰め始めたので、そっと離れる。
君子でなくとも危うきに近づくべきではない。
すると、副長と聖女たち、そして陛下も避難してきた。
「魔法少女殿もすまんかったの。ドワーフは興味がないことに関しては無頓着でな。よく騙されるんじゃ」
「それに関しては我々の国の詐欺師どものせいですから申し訳なく」
どうやら歴史的な積み上げがあるらしい。
「先ほどの握手で終わったことです。……魔法少女殿?」
「いやあ、あの名乗りは格好よかった。きっと明日には国中の娘が真似をするじゃろう」
「ちょっとセクシーでしたわね」
「でも綺麗でした」
「あれにはどんな意味が?」
「ええ? どうもありがとう?」
変身すると身体能力の強化やダメージの服への転嫁、変身前の状態を守れるので戦いで汚れたりぼろぼろになっても元に戻ることができることなどを伝えると、皆感心していた。
特に聖女セレナが、ダメージの転嫁について気にしている。
「なるほど服に。別のものにダメージを移し替えるというのは身代わり人形などがありますが、使い捨ての魔力製の服でそれを行うのは素晴らしい発想ですね」
「そんなマジになって追及するやつ?」
「それはもう。実用化できれば生存率が大きく上がるでしょう」
「それは別途研究していただいて。今後の話をいたしましょう」
早口になる聖女セレナを抑えて、聖女ビアンカが話を戻す。
「お姉様は、南を目指しており、予定外にドワーフ地下帝国を通れなかったので、何か助けられることはないかとお声がけしてくださったのですわよね」
「そうだよ」
遠回りすれば、何か月か追加でかかる。それならなにか、障害物の排除でも、道の復興でも、ついでの連絡役でも、請け負って、結果早く進めるか、最悪でも大差ないだろうからという見通しで言い出したことだ。
「そういえば、南に何しに行くんじゃ?」
「陛下、それは関係のないことでは?」
疑問を口に出した黒鉄陛下を、副長が遮る。
しかし、黒鉄陛下は気にせず続けた。
「急ぐんじゃったら関係あるじゃろ」
「隠しているわけではないのでいいですよ。実は、新緑の森に現れ、森を焼き尽くしそうになった黒い魔力に操られたドラゴンがいまして」
「なんですと?」
「それは収めたんですが、その危険な操り手の手がかりがそちらにあると。そのドラゴンの棲み処ですね。そこを目指しているんです」
「ドラゴン」
「ドラゴンですか」
「ドラゴンと戦ったんですか!?」
「ひえぇ……」
「そりゃあすごい話じゃのう」
「黒い魔力……?」
「ええ、ドラゴンを操るような力があって、ドラゴンは結構な距離を飛んできているわけで」
「大山脈を超えてきたのか、回り込んできたのかわかりませんが、もしかすると地上はひどいことになっているのでは?」
「ドラゴンの移動の余波で魔物が活性化しているかもしれないですね」
「ドラゴンを操れるというのもにわかには信じがたいですが。お姉様が嘘をついていたりはしないですよね」
「もちろん」
「新緑の森が目的地なのか、通りすがっただけなのか、無差別なのか。いずれにしても地上の情報を確認したくなりますわね」
聖女たちは不安材料を挙げる。
それぞれの故郷が心配なのだろう。
「じゃが、現状地下帝国は孤立しておるからの。連絡を取るにも時間がかかる。アンデッドどもは地上のことなど関係なく襲ってくる。じゃが、どうにか人員を抽出せねばな」
現状の地下帝国の問題を黒鉄陛下がまとめてくれた。
アンデッドとの戦いは聖女たちの存在込みで拮抗している。
地上との連絡は連絡路が潰れているので容易ではない。
地上の不安を持ち込んだのはあまりよくなかったか。具体的に何が起こっているのかもわかっていないのに。
しかし、何か起きているとすれば、知らないより知っていた方がいいだろう。
そういうことにしておく。
「やはり、地上との連絡を重視するべきですかな」
「じゃがのう、そうなると残る者の負担が大きくなるじゃろ」
副長と黒鉄皇帝では意見の相違があるようだった。
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