044 出番
『勇敢なドワーフの戦士の皆さん!』
エルエルヴィの魔法で天井近くに浮遊して、エルエルヴィの魔法でアリーナにヒスイは声を響かせる。
『数多のアンデッドを相手にする力を、アンデッドなどよりはるかに勇敢で強力な戦士の皆さんを相手に示したと、認めていただけただろうか! 認めていただけたのならば、伸ばした根を掴んでいただきたい! 掘り出して観客席へ運ばせていただく! 次の予定はアリーナを水に沈めるというものだ! 十分に認めてもらえたようならこの手順を飛ばして正義の聖女を相手に個人武勇を示し、我々が邪悪な存在でないことを示そう!』
歓声と、怒声と、ブーイングが同時に沸いた。
同時に飛来した矢の軌道が、あらかじめかけてあった魔法で逸れて天井に当たって落ちて行く。
そして、空中に大きな水の玉が浮かべられて行く。これもエルエルヴィである。
大きいと言っても、一つ一つはお風呂一回分ほどだ。これを、聖水を触媒に十個。これだけではアリーナを沈めるにはまるで足りないが、一瞬で顕れたことで、余力を印象付けた。
一方今回、ヒスイはつる草ではなく、根っこをのばしていた。
ドワーフ一人一人に向けてである。
根っこを手に取った者と、手にとれず動けない者を掘り出して観客席に移動させ始める。
聖女はそもそも埋まっていなかった。水上歩行の加護をかけているのだとエルエルヴィが見抜いている。
はじめつる草を伸ばしていたのは、なんとなくよく伸びるイメージと、ファンタジーゲームなどで見た、いばらのムチからの連想だった。
そのせいか、この世界にも存在せず、地球にも存在しないイメージ上のつる草を生み出していたらしい。
植物で伸びるものというと、もっとわかりやすく、ほとんどの植物がもっているものがあることに、今回準備期間中に考察を深める中で気が付いた。
それが根っこである。
これにはつる草よりも有利な点がある。
地下にあること、土の中を伸びることという、地下という環境に適した点だ。
それだけではないが、この二つの特徴はなかなか勝手が良かった。
そして、つる草ではない植物にも根っこがあるということ。
これによって、新緑の魔法の自由度は大きく上がる。
ヒスイはこの点をこの戦いで試そうと思っている。
そうしているうちに、ドワーフ戦士の大部分の救助と輸送が終わった。
根っこは太くても伸びるものだ。土に埋まった戦士たちを掘り出して運び出せる強度があった。
しかし通常根っこは動かない。それは、エルフの森歩きから発想を得た。森は自分で動いてくれるものだと。ならばヒスイの魔法の根っこが動いても不思議ではない。そういうことにした。魔法は万能という言葉の意味を理解した心地だ。
残ったのは結局、ドワーフ五人と、聖女二人。
埋まった状態からの救助を拒否し、自力で脱出した。
七人で集まって話をしているようである。
「こんなに残ってるか」
「全部合わせても轟炎竜より強いとは思えない」
「それはそうだね」
そう言いながらヒスイは天井に触った。
「マジカル・お日様の魔法」
轟炎竜の魔力を使った、春先の日差しを再現した光源を天井に張り付けた。これも新緑との合わせ技だ。新緑と言えば春。
『十分に認めていただいたので沈めるのは止めにしよう! そちらの準備はよろしいか?』
『戦巧者を見せてもらった! 魔法防御が意味を為さない組み合わせによる歴戦の戦士の無力化。その手腕見事! 魔法反射を仕込んでいたのに用をなさなかった! しかしそれだけでは収まりがつかない戦士もいる! 正義の聖女に加えて相手をしていただきたい!』
聖女セレナが答える。
知恵の聖女である彼女も性質は魔法使いに近く、エルエルヴィの魔法を複数まとめて解除するなど、エルエルヴィも驚く手腕を見せている。近いことをやったエルエルヴィは百年以上魔法使いをやっているので確かに年季が違う。
さすがは知恵の聖女。知恵の神に愛される素養と力を与えられただけはあるということか。
それはさておき。
聖女スカーレットと、ドワーフ五人を相手にするように、ということだ。
聖女セレナは手を出さないと言っている。
魔法反射を仕込んでいたという、危ない情報がサラッと示されたが、これも置いておこう。
六人相手は予定よりも多いのだが。
「轟炎竜の手、手、口、翼、翼、尻尾、合わせて六つ」
「そういう問題? まあやるけどね」
ヒスイは、エルエルヴィと頷き合った。
『受けて立とう!』
落下する。
ヒスイと、すでに生み出されていた水玉が、数十メートルの天井付近から落ちていく。
落ちていきながら、魔法少女へと姿を変える。
その落ちる先には、地面にしっかりと根を張った大輪の花が開いていく。
車輪のような花のふわふわな中心に着地する。
「愛と勇気よ燃え《萌え》上がれ。魔法少女。マジカルナックル」
水しぶきが舞い、花が光になって散華する中、マジカルナックルが立ち上がった。
「か、かっこいい……!」
「綺麗……」
「なんじゃ、落ちるだけで派手派手しくしよって!」
正面にメイスを構える聖女スカーレット。
その横に黒鉄皇帝陛下がハンマーを。
二人の左右に四人のドワーフがいつでも飛び出せるように構えている。
銀に輝いていた鎧は土埃にまみれ、隙間に泥だった土が入り込んでいる。
「動きにくくないんです? 待ちますよ?」
「やったのはお前たちじゃろうが! 戦いの最中に汚れるのは当たり前じゃ」
「まあ、また汚れるから同じか」
落下した水の影響で周囲は少々、地面が濡れていた。
この足場でやり合えば、まあ汚れるだろう。
「武器はもたないのですか?」
「私は徒手と魔法が武器なので。それと今はこれもね」
聖女スカーレットの言葉に、左腕から、つる草のムチを伸ばして見せる。
「わかりました。遠慮はしませんよ!」
「どうぞ。……マジカル活性」
重心を下げ、いつでも動けるようにマジカルナックルは構えを取った。
右半身を前に出し、つる草のムチがある左腕を引く。
人型の敵との交戦経験もあるし、少しだけ格闘技を習った経験もある。しかし、身長一メートルほどの重戦士とは、なかなか戦うことはなかった。
聖女スカーレットはともかく、はじめは黒鉄皇帝をはじめとするドワーフたちの動きに注意が必要か。
「正義の神の御名において。正邪を審判する。邪な者に裁きを与える」
聖女スカーレットの全身が光を帯びて。金属鎚矛がバチバチとスパークを帯びる。
「参ります!」
宣言と同時に、聖女スカーレットが踏み込んできた。
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