042 神前決闘
『それではこれより、神前決闘裁判を執り行います』
魔法で増幅された、聖女ビアンカの声がドワーフ地下帝国中央闘技場に響き渡る。
観客席のほとんどはドワーフで埋めつくされ、実況席の周辺に人間が五十名ほど集まっていた。
人間の大半は男性で、女性は四分の一ほど。聖女と、その周辺を固める人員だ。
前線を離れていて観戦に来ることができる休息中の聖女は四人ほどしかいないとのことである。
神前決闘などというものは滅多にあることではないらしい。
ざわつく観客たちが見守る中、儀式の手順が進められていく。
『不正があれば光の神の御名のもとに明るみに出るでしょう。それでは正義の聖女スカーレット。疑いについて述べよ』
聖女ビアンカの言葉のあと、聖女スカーレットが聖女セレナを伴い、闘技場の戦う場所、アリーナの中心に進み出る。
二人とも完全武装である。
チェインメイルに兜、聖女スカーレットは鎚矛を手に、聖女セレナは杖を手に。
聖女スカーレットは三百六十度を見まわした後、口を開く。
『正義の聖女スカーレットが宣言する。ドワーフ皇帝黒鉄千百十三世陛下により申し立てられた疑惑につき、新緑の森のエルエルヴィおよびハナグルマヒスイ両名を神前決闘にかける。正義の聖女スカーレットおよび知恵の聖女セレナが試練として神の御名のもと両名に相対する。勝利の暁には正義の御名にかけて潔白の証明がなされるものとし、敗北すれば疑惑は真実だったものとみなす。試練を受ける両名は闘技場に立つべし』
「ご武運を」
聖女スカーレットの指示を受けたヒスイとエルエルヴィは、聖女クロエの応援に見送られ、並んでアリーナに姿を現した。
二人ともエルフの旅装で外套姿だ。
いつもと違うのはエルエルヴィは目に見えて大量の触媒を持ち込んでいる。
手には鳥の羽で作られた扇。腰には多くの袋を下げ、ポケットも埋まっているはずだ。
ヒスイの方も、エルエルヴィの仕込みのための触媒を預かっている。
自分用には用意できていなかった。
ただ、別のアプローチを試す予定だ。
観客たちのざわめきは、二人の姿を見てどよどよと強くなった。
困惑しているような気配を感じる。
『続いて、疑惑を持つ者は闘技場にて相対すべし』
アリーナの反対側の入り口からドワーフの戦士たちがあらわれた。
鎖を編んだチェインメイルのほかに鱗のような金属札を重ね合わせた鎧や、札を縫い合わせたような鎧、鉄板を体に合わせたような西洋の甲冑と言えばこれ、みたいな鎧まで、小柄な身体にまとっていた。等身が人間より小さくがっしりしているのでデフォルメしたキャラクターのようにも見える。
また、それぞれ意匠を凝らした兜が特徴的だ。ツノを生やしたりモヒカンみたいになっていたり、てっぺんがとがっていたり丸かったり。頬まで隠れていたり、バイザーがついていたり。
そして武器として、鎚や斧、ツルハシなどを携えている。
ドワーフは十名。聖女二人と合わせて十二名だ。
「桁が足りない」
「どれだけ自信があるの、エルエルヴィちゃん」
『原告である陛下より冒頭陳述』
聖女ビアンカが告げると、十人の戦士の中心にいたドワーフが前に出た。
「え、皇帝陛下も参加してるの?」
「言い出したものが参加しないと筋が通らないでしょうッ」
「そうだけどさあ」
『この二人はあの万年宰相を相手にし、無傷で撃退したと主張しておる! 戦ってみたい者はおらんか! おるならば降りてこい! 共にその力を試してみようぞ』
ウオオオオオオオオオオオオオ!
観客席が一気に盛り上がる。
そして、あちこちから闘技場内に飛び降りるドワーフたち。
観客の数からすれば微々たるものだが、アリーナ内のドワーフ戦士の数が十倍以上に膨れ上がった。
「これが冒頭陳述……? 何人増えたの?」
「二百四十六人か。全部で二百五十八人」
「よくわかるね」
「手の届かない範囲まで魔法を伸ばすなら、慣れる」
アリーナの向こう側半分の人口密度が一気に上がった。一、二メートルくらいしか隙間がない。武器を振り回す邪魔になりそうな距離である。
『し、試練に挑むお二人、弁明があれば』
楽しそうなドワーフたちの勢いに呑まれそうになったか、やや引いている聖女ビアンカの言葉に、エルエルヴィが前に出た。
『参加する戦士たちにあらかじめ防御魔法なりをかけてやっていただきたいッ! 以上ッ』
ウオオオオオオオオオオオオオ!
観客席がまた盛り上がる。
アリーナ内のドワーフたちは腕を振り上げ、足を踏み鳴らしている。お怒りだ。
聖女セレナが呆れたような顔でこちらを見た後、祈りを捧げると、ドワーフたちの一部が淡い光に包まれた。それを何度か繰り返し、ドワーフたちは皆、光るドワーフとなった。
「魔法による負傷を減らす強力な加護」
「魔力打撃が効きにくそうね」
「ヒスイちゃんは聖女の相手だから関係ない」
作戦は決めてある。
特に、戦闘開始直後の動きを入念に指示されていた。
あとは流れで。
エルエルヴィは相変わらず自信を崩さないが、さすがに人数が多い。
ヒスイはものすごく頑張らなければいけないかもと内心覚悟を決めていた。
『両者、位置に』
始めは定められた位置より前に出てはいけない。
中央に居た聖女二人がドワーフ側に下がっていく。
ヒスイとエルエルヴィは認められた一番前まで足を進めた。
『聖女スカーレット』
『正義の神の御名において、試練を!』
『三、二、一、はじめ!』
戦闘開始。
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