004 苦戦
翼の内側を通り抜けざまに打撃する。
「翼の付け根ッ! 駄目か! んもうっ!」
戦闘は膠着しつつある。
マジカルナックルは苦戦していた。
有効打を与えられない。
ドラゴンの耐久力が高い。
いいとこ探しをするのであれば、聴覚が完全に戻ったくらいか。
頑丈な相手の倒し方といえば。
同じ場所を繰り返し攻撃する。
弱点を探る。
あとは関節を狙う。
そんなところだろう。
マジカルナックルは戦闘開始前から消耗していたこともあり、弱点がないか探りつつ省エネで戦闘していた。
全力に近い力を込めた初撃の手ごたえからして、正面からドラゴンの耐久力を突破することはできないだろうと判断していた。
そうなると勝ち筋は弱点を見つけ出すくらいしか思いつかない。
弱点に攻撃を重ねるのだ。
しかし、弱点らしい弱点が見当たらないのだ。
魔法少女として、ファンタジーの知識をいくらかは仕入れている。
ドラゴンといえば逆鱗だ。弱点だったり、ブチギレポイントだったり、両方だったりするやつ。
逆向きに生えている鱗は今のところ、見つけ出せていなかった。
「喉もだめ、胸にもない。肩の後ろの二本の角のなんだっけ。そのあたりにもなかったしッ!」
前足の爪がかすめる。
動き続けなければ直撃をもらう。だが動き続ければ疲れもたまる。
背中側や脚部は鱗に覆われているので、おなか側はどうかといえば、こちらも手ごたえは違うが鱗が生えていたのだ。
背中側は固く、おなか側は弾力と柔軟性が高い。打撃に関していえばおなか側のほうが強いかもしれない。
考えてみればこのドラゴンは空を飛ぶのだから、下方に対する防御もがら空きということはないのだろう。
四肢の構造は猫科の獣に近いように感じる。足のつき方が猫っぽい恐竜に翼が生えている、みたいな印象で、動きも柔軟で大きいのにすばやい。
特に回転からの尻尾によるなぎはらいが危険だ。
高さで見てマジカルナックルの十倍くらいのサイズ差があるので余計に打撃の威力が届かないのかもしれない。
前足の内側に入り込む動きを見せすぎたのか、体で押しつぶすような動きもしてくるようになった。
なんでもない岩やコンクリートの下敷きになるのは耐えられるが、魔法の力を感じる巨体が攻撃としてのしかかってくるのは危険である。
相手の攻撃が直撃すれば前足だろうが尻尾だろうが噛みつきだろうが、消耗している今は危険なダメージにつながるだろう。
こちらの攻撃は前足の関節を狙うと少し嫌がるそぶりを見せるが、そもそも前足を奪ってもドラゴンが止まるかというと怪しいところだ。
かといって胴体は、より手応えが薄い。
あとは目や口の中を狙ってみるかだが。
マジカルナックルはドラゴンの目が気になっていた。
ドラゴンの目は相変わらず敵意に満ちている。
相変わらず、である。
敵意を感じるなら感情がありそうなものだが、それがまるでぶれないのだ。
前足の爪の付け根にマジカルパンチを打ち込んでとっさに前足を引っ込める時も。
背中にしがみついて振り回されているときも。
そういう生き物だから、異世界だからかもしれない。
しかし、十年の経験のなかに、似たような事例があったのだ。
それは意思を封じられて支配されている存在だ。
魔法少女が支配され、同士討ちすることになったことがあった。
その時は仲間みんなで根気強く語りかけ、心を揺さぶり励ましながら戦って、結局は本人の心の力と浄化や癒しを得意とする仲間の魔法の力を合わせて敵からの干渉を振りほどいた。
このドラゴンの固定化されたような敵意は、その時の、敵に回った魔法少女の目に似ていたのだ。
とはいえ、もしも同じ状況だとしても、見ず知らずの、それも異世界のドラゴンの心を揺さぶるような言葉は思いつかないし、言葉が通じている様子もなかった。
全然関係ない偶然で、ドラゴンは人間に対して不快な害虫を排除するような目を向けるのが当たり前であるだけかもしれない。
もう一つ気づいたことがある。
弱点を探すために観察していたから気づけたのだが、黒のマーブル部分が心なしか増えているような気がするのだ。
もしもこの黒がドラゴンを支配しているなんらかの要素なのであれば……。
いや、だとしても、浄化の魔法少女がいればともかく、マジカルナックルには打つ手はない。
だとしても、だとしてもか。
「あなたは強い! とても強い! それなのに!」
マジカルナックルは限りなく薄い可能性に手を伸ばすことにした。
言葉は通じていないかもしれない。
支配されているというのは大外れかもしれない。
だとしても。
万が一そうであったならば、事態がマシになるかもしれない。
勘が外れていたらマジカルナックルが滑稽なだけだ。問題ない。
「あなたは今の状況をよしとするの!?」
マジカルナックルはドラゴンに呼びかけながら黒いマーブルに意識してマジカルパンチをキックで打ち込んだ。
やはり効果は感じられない。
特殊効果のない魔力打撃ではダメージを与える以外のことはできない。
キックの反動を移動に使う。魔力打撃に反動はないが、キックにはある。ドラゴンの背中を駆け上がりながら踏みつけに合わせて魔力打撃を打ち込んでいく。
やはり、効いてないことはないが効果が薄い。
ならやはり目か。
できることは全部する。
マジカルナックルはそのまま首を駆けあがり頭部に辿り着く。
ドラゴンは頭を振るって振り落とそうとするが角にしがみついてこらえると左前脚がつかみに来たので――
「離れて!」
――跳ぼうとした瞬間、理解できる言葉が聞こえ、一瞬気を取られてマジカルナックルは掴まれた。
「あっ! は、発動!!!大解呪魔法陣!!!」
『応!』
女の子のものに聞こえたその声とそれに応じる複数の声が聞こえると同時に、あたりの空気が切り替わるように変化した。
光の帯が大地から立ち上がる。似たようなものを知っている。
魔法陣。
魔法少女の一部が似たような魔法の使い方をしていた。
マジカルナックルはドラゴンに掴まれたまま、全身からマジカルパンチを発しようとした。
しかし。
「出ない!?」
絶望的な気分になりながら首から上でどうにか動いて見回すと、周囲の樹上に光に包まれた何人かの人影が見えた。
そのうち一人は、はじめにドラゴンの攻撃を受けていた少女に見える。
そして、光はどんどん強くなり。
ドラゴンとマジカルナックルを包み込んだ。
「GYUOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
ドラゴンの絶叫が轟く。
マジカルナックルの耳がまた聞こえなくなり。
そして、光が消えたとき、深紅のドラゴンがヒスイを投げ捨て、翼を広げていずこかへ飛び去っていった。
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