036 観光メシ
ドワーフたちは、牛と豚と鶏を合わせたような家畜を飼っていた。
卵生で毎日卵を産み乳を出す、体高80センチほどの四足獣だ。
見た目は豚に近く見え、角や牙は見当たらない。
狭くても喧嘩をせず、一頭が動き出すとみんなついて行く。
一年で成熟し、腸詰にすると美味しいらしい。もちろん生肉を調理してもいける。
とんでもなく都合がいい生き物だった。
ドワーフたちは家畜と呼んでいたが、ヒスイの謎翻訳を介してそう聞こえたというだけだ。
ヒスイが知っている言葉に翻訳されていると思われることから、おそらくドワーフの中では家畜と言えばこれしかいないのでないだろうか。
一つしかいなければカテゴリーの名前がそのまま呼称になり、名前で呼び分ける必要がない。
世界が一つなら世界に名前は必要ないし、帝国が一つなら帝国に名前は必要ない。
世界、帝国で通じる。
人間だって、エルフや猫人、ドワーフが居ないから人間で通じるのだ。
地球にエルフが居たら人間にも何か呼び方があっただろう。
現代では人間は一種類しかいないので人間で通じるのだ。
「この家畜って世界中に居るの?」
「ドワーフ地下帝国以外では聞いたことがないですわ。わたくしも多くの地方を知っているわけではありませんけれども」
「連れて帰ったことはあるらしいです。でも飼育に成功した話は聞いたことがないですね」
地下帝国でしか飼えない理由があるか、隠されているか。
ヒスイはバリッと小気味いい音を立てて腸詰を食べながら世界の不思議について思いをはせた。
「チーズを溶かしてかけるとさらにおいしいですよ」
「絶対美味しいやつじゃん。エルエルヴィちゃん、これは食べないと損だよ」
遠くに行きかけた思いは目の前に返ってくる。
畑見学の次は牧場レストランでお食事であった。
みんな移動でお腹がすいていたので。
自作の箸を使わせてもらって舌鼓を打つ。
旅先、牧場の料理。
チーズフォンデュのようなものや、くず肉ハンバーグ、希少部位のステーキ。
ミルクも卵もふんだんに使える。
せっかくなのでヒスイも料理をさせてもらった。言うまでもないが、キッチンは火の使用が許可されていた。
ヒスイは時間があるときは自炊をしている。
週一、二回くらいだが。
腕の方は最低限だが、料理自体は好きである。
プレーンオムレツと目玉焼きチーズハンバーグ、お好み焼きと、鉄板の鉄板料理をさせてもらった。聞けば似たような料理はあるようだ。まあそうだろう。
エルエルヴィがソースを作ってくれたのでドワーフ式、中央諸国式、地球&エルフ式の味付けが並んだことになる。
ドワーフが好むイモはジャガイモっぽい素朴な味で、ソース次第でいくらでも応用が利きそうだった。
シンプルに塩を振ったり、あつあつの上にバターを乗せたり。
「このチーズ挟んだイモモチおいしいね」
「おや、お嬢ちゃん分かる口かい? 手間がかかるし男どもは蒸かしたので十分と言うんだよ」
ドワーフのお姉さんたちが嬉しそう……多分嬉しそうに言う。ドワーフは女性も髭がふさふさで、表情がわかりにくく個人の見分けがつきにくかった。
髭におしゃれしているのは女性が多いが、男性にもいる。動いていたり、声を聞けばなんとか判別できるくらいだった。
これはこの牧場のドワーフたちへの印象だが、男性ドワーフはシンプルで味付けの濃いものを好み、女性ドワーフは乳製品を活用した料理を好むような傾向があるようだ。
どちらも、ビールや蒸留酒をパカパカ開けて流し込んでいるのは共通だが。如何にもドワーフだ。
「この少し酸っぱくて辛いソースが良いですねッ」
エルエルヴィはマスタードソースっぽいソースが気に入ったらしい。
まったく同じではないが、辛味と酸味と甘みがあって、淡白な食材に合いそうだ。
銀のフォークに刺したハンバーグをつけて食べている。
これは聖女クロエの故郷の国の定番ソースだそうだ。
聖女ビアンカの国のソースはバーベキューソースっぽい感じで肉との相性が非常に良く、なんだかんだ一番消費が多い。ドワーフの口に合うのだろう。
ヒスイも、焼いただけの肉にはこれがよく合うと思う。
ヒスイの個人的な意見だが、異文化コミュニケーションにおいて最も嬉しいのは食文化の交流だろう。
知らない物を知ることの中でも最も直接的に嬉しい成果である。
知らない美味しいものとの出会いは一生の宝なのだ。
そして流通が発達して食材が手に入るようになれば新しく日常に定着するのだ。いつの間にか当たり前にあるアボカドのように。
まあ合わないものもあるだろうが、それは遠慮すればいいだけのことだ。
幸い今回はあまりに特異な受け付けないようなものはなかった。
何なら、日本で見た覚えがあるような料理が多かった。
これは日本がすごいのか、収斂進化のような現象か、なにか繋がりがあるのか、偶然か。
地球にもヒスイが馴染みがない食文化があることを考えれば何かありそうに思えるけれども。
まあ、現状で考えてもわからない問題だろう。
食事と言えば、エルフにはナッツと果物をふんだんに盛り込んだカロリーバーのような保存食がある。
エルエルヴィがエルフの伝統食として用意してくれたものだ。
味はおいしい焼き菓子で、栄養バランスは完璧という主張だった。
見た目以上にカロリーが高く、食べすぎると太ると言われて怯えたものだ。
森を移動する間は主にこれを少しずつ食べていた。量としては味気なかったのは否めないが、携行食としては理想的だ。
もしかするとこの世界、は言い過ぎとしても、この地域は、食に関しては非常に期待できるのではないだろうか。
理由はなんであれ、日本と食の感覚が近いのなら。
ヒスイはこの先の旅が楽しみになっていた。
たっぷり時間をかけて楽しんだ牧場食事会の後は、お風呂である。
ドワーフ帝国のお風呂は蒸し風呂が主流らしい。水を使える量の問題だろうとヒスイは考えていた。
しかし、農場には水をたっぷりたたえた水路があるくらいで、そうではないのかもしれない。
どちらにしても、設備がないので湯船につかることは出来そうになかった。
作るのは難しくないだろうが、郷に従え、だ。
そう思いながら、聖女二人に教わりながら試してみたところ。
ここのところの疲れが溶け出して、ふわふわになってしまった。
これを整ったというのだろうか。そうじゃないかもしれない。わからない。
二人で森を行く間は、エルフの不思議パワーがあるとしても見張りを立てていた。気を張っていたのだ。
知らず知らずのうちに疲れがたまっていたらしい。
そして、ふわふわのまま、エルエルヴィや聖女たちに寝所に案内してもらい、寝台の上で眠ってしまったのだった。
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体調を崩したので数日おやすみします。




