034 大空洞
到着したトロッコから、マジカルナックルは降車してから、変身を解除した。
「わぁ、すごいねこれは」
大空洞だ。
野球のドームなどよりもはるかに広いように感じる。
天井に輝く結晶が多数、星々のようにきらめいている。
地上にも、照明が配置されている。
平行に線を作るように点々と設置してあるので、このあいだが道なのだろうと思わせる。
さらに、光の色もいくつかあった。配置と合わせて何かしらの規則性を感じる。
全体では満月の夜に街灯があるような場所、あるいはイルミネーションの近くくらいの明るさだ。
「人間がよく出入りするようになって張り切って装飾したんじゃ」
「人間は暗いと見えんのじゃろ」
「人間は不便ですよねッ」
暗くても困らない種族が貧弱な人間の視覚を揶揄している。
「これはどうやって光っているの?」
「発光合金と呼んどるんじゃが、叩くと光るんじゃ」
「ほうほう」
しゃがみこんで足元にあるものをツンツンしてみるが、特に変化はない。
「強く叩くと、より明るくなるぞい」
「強すぎるとわれますけどね」
聖女スカーレットが手振りをしながら教えてくれる。
失礼だが、割ったのかなとヒスイは邪推してしまった。
「天井のものも叩いているのですかッ?」
「いやいや、届かんし」
「あれは外の明るさを伝える結晶と伝わっておるのう」
「じゃあ、昼間はもっと明るいってことですか?」
「そうじゃぞ」
「便利じゃろ」
どういう意味で便利と言っているのかわからないが、すごい技術ではあると思う。
綺麗だし。
ここまでで分かったこととしては、ドワーフはよくわからない技術と比較的理解できる技術を使っているらしいということだ。
門とトロッコの間には大変な技術の隔絶を感じる。
トロッコは労力をかければできそうな気がするが、あの門はどうすればいいのか見当もつかない。
発光合金と天井の光源はどちらもヒスイにはわからない技術だが、ドワーフたちの反応からすると、天井のものはよくわからないもの、発光合金は自慢の技術と言った自負を感じた。
光を伝達するといえば光ファイバーくらいしかわからない。
そんな話をしているうちに、後続のもう一台も到着し、残りの聖女たちとドワーフも合流した。
「ふらふらしてるけど大丈夫?」
「まだ慣れませんわね……」
慣れない人はつらそうだ。
エルエルヴィは魔法で身を守っていたし、ヒスイは変身して安全を担保したら平気になった。
シートベルトもロックバーもないのは危険だと思う。
「さて、わしらは親方に話しに行くからの」
「自分も部隊に連絡をしてきますので。二人、彼女らに付いてくれるか」
「わたしが」
「ではわたくしも」
聖女クロエと聖女ビアンカが残り、ヒスイたちを案内してくれることになった。
それぞれがヒスイたちについて報告と対応を検討する間ということだろう。
「慣れないうちはもう少し明るいほうがよろしいでしょう」
光の聖女であるビアンカが、明かりを増やしてくれる。
シャッター付きのランタンの中に、魔法の光源を入れた物を用意してくれたのだ。
これで懐中電灯のように使える。
「細かく見たい時に便利なのね」
「魔法と何でもない道具を組み合わせるとは」
「ああ、そうですわ。わたくしたちはよろしいですが、気にする方もいます。良ければ神の加護とお呼びになってね?」
「魔法はまほ……」
「わかったわ。聖女の神様の加護ね」
エルエルヴィの口を押さえて、ヒスイは答えた。
魔法にしても、神の加護にしても、道具と組み合わせるというのは面白い発想だと思った。
エルフの森に合ったお風呂の魔法の道具はただの道具ではなく、魔法を再現するための道具だ。
本来魔法は万能であるという視点だと、魔法を道具によって制限することで利便性を増すというのは本末転倒に見える。
なんなら手抜き、怠慢と取ることもできるかもしれない。
しかし、実際的にそれで楽ができるなら充分だろう。
その時使えない魔法より道具で補えるならそれでいいはずだ。
人間はそうやって道具を作り、楽ができるように技術を発展させてきた面もある。
そして魔法と神様の加護。
ヒスイの目にはどちらも同じ延長上のものだと感じている。
しかし、別の言葉として扱っているのなら、その意味があるのだろう。
学術的なものだろうと、宗教的なものだろうと、呼び分ける必要があるというのなら尊重しておくほうが丸い。
それがよくないことに繋がる場合もあるだろうが、今回の場合はヒスイとエルエルヴィがよそ者なのだ。
郷に入らば郷に従えだ。
聖女ビアンカもここまでは口に出さずにいたのに、あえて今告げたのだ。
言葉通り、気にする人が居るのだろう。
この後しばらく協力するだろう相手と揉めることもない。
聖女ビアンカもそう考えて忠告してくれたのだろう。
視点と、こだわりのラインの話だ。
エルエルヴィも気にするところなのだろうが、味方組織と殴り合っても仕方がないので我慢してもらおう。
「お姉様、エルエルヴィさん、案内したいところがあるんですが、どうですか?」
ジト目で見てくるエルエルヴィをまあまあとなだめていると、聖女クロエが提案してくれる。
「なになに?」
「わたしが管理を任せていただいている場所があるんです」
「ああ、そこもある意味すごい場所ですわよ」
「いいね、是非見せてもらいたいな」
どうせ今は暇で、案内してもらう時間なのだから、おすすめに乗るのが間違いがない。
いいよね、とエルエルヴィを見ると、やれやれ、と機嫌を直してくれたのだった。
「おー、聖女ちゃん、おかえり」
「あら皆様。ごきげんよう」
途中、出会ったドワーフたちが声をかけてきた。
気さくで楽しそうで、鉄の髭たちと似たノリだ。
会釈しながら聖女たちが手を振ってすれちがう。
関係はいいようだ。当たり前のように受け入れられていた。
「ドワーフさんたち、どれくらいいるの?」
「さて、詳しい数は存じ上げませんが、この帝都には数万、各地の坑道にその十倍以上は散らばっていると聞きますわ」
「そんなに? どうやって食料を確保しているんだろう」
「あら、鋭いですわね」
「その答えの一つを見に行くんですよ。びっくりさせようと思ったのに、もう気付かれちゃいました」
「なるほど?」
食料の答えと豊穣の聖女。
案内先にあるものが、想像できた。
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