031 申し出
「ところで、地下の戦況はどうなっているの? 地上に部隊を出してるのは普段からのこと?」
「お姉様たちはドワーフ帝国を通過しようといらしたのですわよね?」
「そうなの。こちらの事情に詳しくなくて。通れないと思ってなかったの。おまけに第二候補のルートも潰れていたし」
目的地は山脈の向こう。
しかし、現状通れる道がないので大きく戻らなければならないのか。そんな状況にあるのだ。
「崩落した通商路はそれほどひどいのですか」
聖女ビアンカが小首をかしげて尋ねる。
まだ確認できていないらしい。
「大規模に崩れてて、鳥みたいなドラゴンみたいな大きいやつがいっぱいいたわ。うちの相棒がワイバーンだって」
「ワイバーンですか」
「ワイバーンとは、大型の飛行魔物です。行動半径は広く、高速で飛行し炎のブレスを吹きかけてきます。尾には毒を持ち、先端のとげを射出してきます。牛や馬を捕獲し持ち帰った記録があり、中央大山脈の奥地のほか、各地に生息地が確認されています」
「へえ、詳しいのね」
「知識の聖女として当然のことです、お姉様」
聖女セレナが教えてくれた情報で、実際に見たワイバーンの解像度が上がった。
あれで飛び道具まであるのは厄介だ。
「高度を取られて一方的に攻められると打つ手がないね。魔法は魔力に限度がある。繰り返し襲撃して削るしかないか」
聖女スカーレットはヒスイと意見が近いようだ。
大型の生き物は一度に多く生まれず、育つにも時間がかかるものだ。着実に数を減らすことが出来ればいつか一掃できるだろう。
あるいは、すべて倒す前に巣を棄てて逃げ出すかもしれない。
「わたしたちは外にアンデッドが出るようになったとの報告を聞いて調査に来たんです、お姉様。同時に崩落地点の様子も確認しようと」
「そうなんだね。万年宰相とか名乗るやつがいたわよ」
「万年宰相!?」
「ノイン・ツェーンですか!?」
「そうそれ。あの大きいスケルトンを作って逃げたやつ」
ざわつく聖女たち。
やはり大物だったのだろう。自称不死皇帝の一の臣だったか。
「待ちたまえ、聞き逃せない話が聞こえましたぞ。万年宰相がいたのか、ここに?」
エルエルヴィとドワーフと話していた副長が翡翠たちの話に口を挟んできた。
「そう名乗った杖持ちのアンデッドは居ましたよッ!」
「そちらの初撃を受けて撤退した二体がいたでしょう? あいつがそう名乗っていました」
「ううむ、やつは慎重じゃからのう」
「わかっていればそちらを狙ったんじゃがのう」
「おったかの?」
「はじめはぼろ布を纏っていたけど途中でなくなったから、それでわからなかったとか?」
「おお、それじゃ!」
「なるほどのう」
「やつを脱がせたのか! やるのう!」
脱がせたというのは人聞きが悪い。
「しかしそれでやつを逃がすことになるとは。残念ですな」
恨めしそうに見てくるがそんなことを言われても困る。
「そういう敵が地上に居たのはどういうことなのかしら」
困るので話をそらした。
「戦力補充のためかと思います、お姉様」
「あたしたちがいっぱい倒しているからね」
「我々聖女はアンデッドの天敵ですので、着実に敵戦力を削っているのですわ。相応に被害も出ていますが……」
「南方への打通のためには追加戦力が必要なのですよ。だから中央諸国との連絡を取らねばならないのですが」
「もう少しなんじゃがのう。防衛にも戦力が必要なんでな」
「もう少しなんですかッ?」
「もう少しだが、取り戻した分だけ防衛地点が増えるのです。駐留している聖女の数が限られている。今のような事態のために遊撃戦力も確保しなければならないわけでして」
敵が戦力を補充する必要がある程度に戦況が有利な一方、味方も前線が増えて拘束されている。
その上で今回の通商路の崩落で、連絡が取れなくなったという。
勝つだけではすまないのか。
陣取り合戦となっている地下の戦いの様子を想像し、なるほど、長く続くわけだと納得する。
ヒスイは、これ何か協力した方がいいのではないかと思い始めた。
現実的に可能なのは、連絡役になるか、戦力になるかの二つだろう。
目的からすると南方への打通を目指す戦力としての協力がいいかもしれない。
しかし、維持のための滞在はできないので……。
そこまで考えて、ヒスイは考え直す。
材料がないここで考えても仕方がないだろう。
「エルエルヴィちゃん、いいかな?」
「ヒスイちゃんならそう言うと思った」
二人で頷き合う。
どうせ何もしなければ遠回りするしかないのだ。
それなら何かして助けになるほうが良い。
「よかったら、何か手を貸そうか。やるべきことがあるから、長くは居られないけれど」
『お姉様!』
嬉しそうな聖女たち。
副長はドワーフたちに目をやり、ドワーフたちは目をぱちくりさせる。
「おお? よいのかの?」
「たいした礼は出来んぞ」
「それも親方次第じゃなあ」
「最近はなぜか、ほかの種族が手を貸してくれるのう」
ドワーフはよくわからない反応だった。
異種族と協力すること自体を純粋に不思議がっているのだろうか。
異世界人のヒスイの感覚が違うのか、ドワーフたちの感覚が違うのか。
ともかく。
ヒスイの申し出に対する返事は保留。
ドワーフの帝王と支援部隊の長と相談する必要があるということになった。
そこで、崩落地点の視察とヒスイたちの荷物を回収してからドワーフ地下帝国を目指すこととなった。
その過程で、お風呂タイムとなったわけだ。
残してあった湯舟が無事だったのである。
ドワーフ帝国のお風呂文化はサウナらしく、湯船のお風呂にはありつけないのだそうだ。
そのため、聖女たちが羨ましがり、交代で入浴することになったのだ。
夜が明けるまで時間があり、視察は明るくなってから行う。アンデッドの横槍をさけるためだ。
とはいえそこまで危惧していなかった。
聖なる光で明かりを取れば、入浴できるだろう。
聖女たちの圧力に負けた副長も入浴の許可を出した。
入浴の様子は割愛するが、聖痕というものがそれぞれ違う模様であることと、ヒスイの全身に出ている、炎と葉っぱの模様に驚かれたことは新たな情報だろう。
聖痕からは独特の魔力を感じ取ることが出来た。よくよく注意すれば違いも認識できるだろう。
そして、聖女クロエによって全員の身体のケアが行われた。
豊穣の神は再生もその権能の中にあり、四人の中で最も回復魔法が得意なのだそうだ。
休息の際には、聖女クロエがみんなを癒し、継戦能力を支えているという。
視点が戦いに寄っているのは環境のせいだろう。
青春時代を地下での戦いに費やす聖女たちに、ヒスイが同情的になるのはおこがましいだろうか。
この状況に口を出したいが、それは聖女たちと、その先達の誇りを傷つけることだと感じていた。
自身も、十年の魔法少女生活の中には後悔もあるが、それでもやってきたことは誇らしいと言える。
どうにも聖女たちに自分や後輩たちを重ねてしまうヒスイである。
「新緑には豊穣の加護と近しいものを感じます。お姉様もきっと扱えますよ」
エルエルヴィの教えでは生命、成長、活力は新緑の要素らしい。
確かに回復は出来そうだが。
「それなら、練習したほうがいいか」
医療方面はイメージ面で不安があるが、アンデッドを攻撃するためだけに使うのも違うように思う。
「できることを広げるのはいいこと」
エルエルヴィ先生のお言葉もあり、ヒスイは聖女たちからも魔法を学ぶことになったのだった。
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