003 ドラゴン
マジカルナックルは自由落下で箱型のトラックの尻に向かって飛び降りた。
荷台の扉がひん曲がってマジカルナックルを受け止めると同時、飛び出す。
向かうはもちろん声が聞こえた方向だ。
ドラゴンがいるであろう、破壊の中心。
山林を駆けるのであれば初めてではないのだが。
しかし、このような森は初めてだった。
何もかもが大きく感じる。
広葉樹であり、何の木だろうかと少し気になったが、樹木にはさほど詳しくないのですぐに考えるのをやめた。
方向を見失わないように高い位置にある枝を足場にして飛ぶように駆ける。
強く踏んでも折れない太さの枝が頼もしい。手応えならぬ足応えからしてもう少し力を入れても大丈夫、もう少し、もう少しとだんだん加速していった。
時間にして一分ほど。
見た目よりも遠かったのは、木々大きさを見誤っていたせいだ。
そしてそんな大きな木々が消し炭になっているエリアに飛び込んだ。
熱を感じる開けた焼け跡の中。
目の前に見えたのは巨大な赤黒いドラゴン。鮮やかな赤に黒いマーブル模様で、翼が生えたトカゲ、いや、トカゲと呼ぶには違和感があるが、かぎづめの生えた前足を叩きつけるように。
そう、光の盾でドラゴンの右前足を受け止めている少女がいた。
ドラゴンの十分の一以下の大きさでドラゴンの攻撃を耐えている。
「待ちっ! なさいっ!!!」
なんで飛んでないのだとか、火を吐いてないのだとかは置いといて、マジカルナックルはひとまずドラゴンの横っ面をひっぱたいた。
マジカルナックルの攻撃は厳密には拳ではない。
魔力打撃である。
マジカルナックルに接した場所から魔力の打撃を打ち込むのだ。
これは魔力を体外に放出するのではなく、マジカルナックルが使える唯一の魔法攻撃である。
魔法少女が戦う敵は魔法少女同様に物理的なエネルギーではほとんど影響を受けない。
逆に魔力打撃は物理的な打撃力も伴うので、大質量を受け止めたり押しのけたりもできる。
力いっぱいぶん殴っても、そっと触れていたのだとしても、魔法的には同等の威力になるため、既存の打撃系格闘技では効果的ではない手打ちが有効だったりする。
しかし今回は全体重を乗せていた。
移動でついた勢いをぶつけて自身の勢いを止めるためだ。
当然魔力打撃も十分乗せて。
ドラゴンが軽く浮いた。
硬い。
マジカルナックルはその手ごたえに舌を巻いた。
魔法少女として戦った決戦級の敵の手応えにも似た強さを感じたのだ。
魔法的存在か、魔法的防御を纏っているか。
だが、マジカルナックルは体勢を立て直しながら着地。すぐにドラゴンを見据えて声をあげる。
「なぜ暴れているの!? 森を焼――」
「GUOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
マジカルナックルの声を打ち消すようにドラゴンが吠える。
至近距離だ。
全身がびりびりと痛いほど震え、逃げ出したくなる心が芽生える。
痛みを感じるほどの咆哮、ただの音ではない。
魔法少女の力が守ってくれなければ、それだけで倒れていたかもしれないし、耐えても恐怖に逃げ出していたか、動けなくなっていたかだろう。
あと耳がジーンとして音が聞こえなくなった。
ドラゴンが敵意だけがこもった目でマジカルナックルを睨みつける。
わずかな視線の交差。
振り下ろされる左前足をかわして手を添える。
「マジカルパンチ!」
パンチではないが魔力打撃を打ち込んですぐに移動するとそのあとに右前足のかぎづめが空を裂く。近くで見るとより怖い。
思わず距離を取り、ついでに先ほどの少女の姿を探すと。
いない。
いや、先ほどの場所にはいなかったが、離れた場所に移動していた。そしてマジカルナックルを見ながら口をパクパクさせてから木の向こうに消えた。
「よかった、逃げてくれたわね」
マジカルナックルはドラゴンが首を伸ばして噛みついてきたのを飛びのいて避けると距離を詰める。
こちらの射程でなければ勝負にならない。
こちらの攻撃は効いていないわけではないが、有効打には程遠い。
なぜか使ってこないが相手は炎も吹くし空も飛べるのだ。
接近戦距離を保ってダメージを蓄積させるしか勝機はない。
怖いけど!
「やっぱりいきなりひっぱたいたのがいけなかった? ごめんね? 謝るから一旦やめよ? だめ?」
そもそも言葉が通じていないような気もするが、声をかけながら前足を避ける。
避ける。
避ける。
噛みつき。避ける。右前足。左前足。
体がグルんと横に回って尻尾が壁のように、
「マジカルパンチ!!」
迎え撃った。
受け止め、切れずに弾き飛ばされそうになったが尻尾表面の凸凹をつかんだ。
尻尾につかまって一緒にまわりドラゴンの視界から消える。
離れてはまずいと反射的にドラゴンの背中に移動すると、相手も気づいたようで体を揺さぶって振り落とそうとしてきた。
必死に背中にしがみついていると気づく。
この黒いマーブルは模様ではない。
それは例えば絶望の闇の力のような。しかし直近に受けたそれとは違うもの。
と、気を取られた途端にドラゴンに振り落とされてしまう。
受け身を取って立ち上がり、すぐにまた接近しようとして気が付いた。
におい。これは、硫黄のような?
ピンときたマジカルナックルはドラゴンのあごの下に飛び込んだ。
そしてあご下から喉にかけて、
「マジカル乱打!」
魔力打撃を連打する。
「GUEHHO」
するとドラゴンはせき込むようにして口の横から炎を漏らし、嫌がるように飛びのいた。
「火を吐くのは時間がかかるのね――音が戻ってきた」
追随しながら疑問が一つ解消したと納得するマジカルナックル。
とすると、飛ばない理由はドラゴンからも攻撃が届かなくなるからだろうか。
よほどこちらを攻撃したいのか。
ドラゴンの瞳を満たす敵意の光は揺らぐ様子がなかった。
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