029 ドワーフ帝国支援合同部隊
「お姉様! ご一緒してもよろしいですか?」
「クロエ、お姉様にご迷惑をかけてはだめよ?」
「お背中お流しします」
「パパッと交代で入りましょう!」
ヒスイはドワーフ帝国支援合同部隊の聖女たちに懐かれた。
一緒にお風呂を誘われるくらいにだ。
「お風呂はゆっくり一人で入りたいんだけど」
「もう一つ作りますかッ?」
「そうしようか」
『えぇ~』
なにがあってこうなったか。
巨大スケルトンとの戦い直後まで話を戻そう。
▽▲▽ △▲▽
マジカル波の威力は、聖女の魔法を巻き込んで増幅されていた。
ついでに気合を入れすぎたせいか、魔力を込めすぎたかもしれない。
想定外だがおかげで倒しきれたのでよし。
それよりも、万年宰相ノイン・ツェーンと、骨の騎士が潜んでいないかが心配、なのだが、聖なる光の中にはいないような感触がある。
マジカルナックルはエルエルヴィの元へ足を踏み出すと、エルエルヴィの方も駆け寄ってくる。
その動きを皮切りに、ぽかんとしていた“中央諸国同盟のドワーフ帝国支援合同部隊”たちも動き出す。
「すごいのう嬢ちゃん!」
「聖女ちゃんたちの魔法より派手じゃのう!」
最初に、ドワーフたちがウキウキで話しかけてくる。
「聖女の皆さんの聖なる魔法が予想外にこちらの魔法を強化してくれたみたいです」
「そうなんか! 聖女ちゃんたちもすごいのう!」
「さすが聖女じゃなあ!」
ドワーフたちは揃って小さな髭のおじさんに見える。
日本人ではあまり見ない、口髭も顎髭もたっぷり蓄え、鼻から下がだいたい髭に覆われているやつだ。
正直、マジカルナックルには見分けがつかない。
というか年齢も測れない。それはエルエルヴィたちエルフもだが。
ただ、ニコニコしてはしゃいでいる様はやんちゃなおじいちゃんのようだとマジカルナックルは感じた。しゃべり方に流されているかもしれないが。
次に動いたのは副長氏だ。
ぱち、ぱち、ぱち、ぱち。
手を叩きながら歩み寄ってくる。
それを見た聖女たちは彼の周囲を固めるように集合していく。
聖女たちは困惑が強いようだ。
「いやいや、素晴らしい力を持っていらっしゃる! 新緑の森は新たな聖女を確保したのですな!」
「聖女? いや私は違いますけど」
「なんと? しかし聖痕がこれほどはっきりと出ている」
「彼女のこれは精霊の加護を賜った証ですッ! ごきげんよう山の友ッ! そして中央諸国の皆さまッ! 新緑の森よりご挨拶申し上げるッ! あたくしはエルエルヴィ。エルエルの系譜、エルエルウィの子。我々新緑の森のエルフの守護者を務めるエルエルヴィ。そしてこちらは新緑の森の友」
「魔法少女マジカルナックル。それと、武装解除するので驚かないでくださいね」
そう告げて、マジカルナックルは変身を解除した。
『おお~?』
ドワーフたちが目を丸くしている。
現れたのはエルフ装束の花車ヒスイ。
「花車ヒスイです。先ほどの姿は戦う時のための姿です」
地球とは違い、現状で正体を隠す意味はないと、ヒスイは考えている。
なので、男性もいる中でぼろぼろの魔法少女衣装姿でいるのもよろしくないと思い解除したのだ。
変身解除による倦怠感がいつもより少ない。
聖なる光の力だろうか。体が軽いのはこちらの世界に来てからだから、わずかなり魔力の枯渇から回復していっている影響かもしれない。
ただやはり、今回は特にその感覚が強い。
変身解除によって、身長が伸びると、聖女たち全員よりも高くなった。
改めて聖女たちは全員、十代半ばから後半くらいに見える。
魔法少女姿のマジカルナックルは十四歳当時の姿で、彼女たちはそれより上だ。
もちろん異世界の人種である。
ヒスイの感覚がずれていることも大いにあり得るが。
その聖女たちは、ヒスイが変身を解除した途端に様子が変わった。
困惑や警戒から、好意的なものにである。
急な変化に、ヒスイの方が戸惑った。
その変化を知ってか知らずか、副長が言葉を紡ぐ。ちなみにこの副長はアラサーくらいに見える。
「ハナグルマ殿。いや、姿を変えるほどの魔法お見事です! それで、どういった事情でこちらに? よろしければ力になれるかもしれません」
「我々は南を目指しているのですッ! 山の友ッ! よろしいですかッ? 山の友の帝国を通らせていただきたいと参ったのですッ!」
「おおう、森の友、驚きが勝り返事が遅れた。すまんかったの! わしらの帝国を通りたいと。大いに結構! だが少し待ってくれんか! 今困ったことが起きておってなあ!」
「“鉄の髭”殿、エルフの力を借りれば道が出来ませんか」
「ううむ、どうだろうな! 返せるものがあるだろうかな?」
「ドワーフ帝国の製品は誰もが求めるものでしょう。我々からも、礼を出せるでしょう」
副長と、ドワーフの一人が話し始める。
ヒスイとエルエルヴィは顔を見合わせた。
ドワーフ帝国に何か問題が起きていると。
それには心当たりがあった。
「ワイバーンのことかな?」
「人間が関わっているならそうかもしれませんねッ」
「おお、森の友よ! 知っておるなら話が早い。実は通商路が潰れてしまってな!」
「崩落し、ワイバーンが住み着いているのは見てきましたッ! 山の友、修復は可能なのですかッ?」
「まあ、時間がかかりそうでなあ、森の友。アンデッドどもも活発で、困っておるのよ」
「中央諸国までの道が必要なのです。エルフの方々の案内があれば確保できないだろうか」
「それより南を開通させたいんだがなあ!」
「南?」
「うむ、実は五十年ほど前から南への経路が占拠されておってな! なかなか取り戻せていないんじゃ」
「え、じゃあ通れないんですか?」
「うむ、聖女ちゃんたちの力を借りて取り返しておるんじゃ!」
地下通路も通れない状態らしい。
それなら引き返すしかないのだろうか。
「ドワーフの武具がなくなれば、中央諸国は魔物と戦っていけないのだ。どうにか森を抜けて通商できればと考えるのだが」
「どうなの?」
どうせ引き返すなら連絡を引き受けるくらいはできる。
荷運びについていくことも可能だろう。
恒常的にやれと言われると困るが、一回やった先で話をつなぐくらいなら、そこまでの手間にはならない、いやどうだろう? たぶん大丈夫?
「通商というのは、荷車に山と積んだ武具でしょうッ? エルフでは大量には運べませんねッ!」
「そうなの?」
「エルフと共に森を行ける大きさに限度がある。すべてをエルフが運ぶくらいでないと運べる量は限られますねッ!」
「ああ、大きい荷車とかはあの範囲に入りきらないのか」
エルフの森のほうが避けるように見える森歩きは、エルフから離れると普通の森になってしまう。
ヒスイが経験した限りだが、その範囲は二メートルほどだ。お互い手を伸ばして届くくらいだろうか。
それではたくさんの荷物を運ぶのには適さないだろう。
中央諸国というからには複数の国の集合体のはずだ。
通商をというくらいだから結構な量を運ばないと、元が取れないのではないだろうか。
「エルフに利権をと?」
「山の友と人間の商いに興味はない。純粋に能力の話ですッ」
「ああ、これは大変失礼した。ただ我々が願うのは魔物に脅かされる母国の――」
うすうす感じていたが、エルエルヴィ、人間という種族のことは、あんまり好きではないらしい。
ドワーフを優先して話をしている。
副長はそれでも頑張っているが、まあそれはよいとして。
ヒスイは聖女たちの方が気になった。
先ほどからずっとチラチラ見てくるので。
好奇心もあり、こちらに話を聞いてみることにした。
面白かった、続きが気になると思ったら、いいねと評価をお願いします。




