028 援軍
最終的にドワーフは四人投げ込まれ、それぞれ一撃加えたあとは、足元をガンガン殴り始める。
打撃の度に輝くハンマーはただの金属ではないだろう。
動くたびにチェインメイルがシャランシャランと音を立てている。
こんな心地よい音が鳴るものか?
そう、二十倍近いサイズ差の巨大スケルトンに蹴り飛ばされてもシャランと。
マジカルナックルは吹っ飛んだドワーフのもとに回り込んで受け止める。
「おお、すまんな、投げ返してくれるかの」
「えぇ……? こう?」
見た目よりずっと重い。ハンマーを含めてもだ。
マジカルナックルはドワーフの腰を掴んで、ハンマー投げのようにぐるんと一周した勢いで巨大スケルトンの顔面に向けてドワーフを投げる。
着弾を確認。激しい音がして、巨大スケルトンはわずかにのけぞった。
「あれ、あの高さから落ちたら危ない?」
大丈夫そうな気がするし、まずい気もする。
が、落下中にもハンマーを巨大スケルトンにぶつけ、そのたびに落下速度が落ちている。
空中戦の得意なドワーフだ。
「大丈夫ですか!? と声をかけようとしたのだが。なかなかのパワーですな」
「お怪我はありませんか!?」
思わず様子を見守っていると、若い男が一人と女性が一人、マジカルナックルに近づいてくる。
さらに、女性が三人、ドワーフたちの側に向かっていた。
彼らはドワーフではなく、人間のように見えた。この世界に来て人間と呼ばれる種族がいることはわかっていたのでどこかで会うことになるとは思っていたが。
ひとまず体格と、耳の位置が地球人と同じなのできっと人間。
チェインメイルの上に胸甲をつけ、キャップのような金属のヘルメットをかぶっている。そして白いマントが風になびいていた。
胸甲とヘルメットには同じ意匠の飾りがついていた。
ペアルックというわけではなさそうだ。
なぜなら、聖なるものを意味すると、マジカルナックルが認識しているからだ。
はじめて見るのに確信がある。おそらく、いつもの謎翻訳機能だろう。
男性も女性も美人だが、男性の方は目つきが鋭く三十前くらいか。女性の方はミドルティーンくらいで優しい子が誰かを心配して厳しい顔をしているような印象だ。
「聖光教の神官戦士団ですかッ!」
いつの間にか横に来ていたエルエルヴィがそう尋ねる。
「そんなことより治療を!」
「あ、大丈夫です。怪我ひとつないので」
「えぇっ!?」
魔法少女衣装がボロボロになっているが、中身は無傷である。
人間の男の前でこの格好は少々恥ずかしいが、戦闘中だ。
「本当に傷ひとつない……?」
マジカルナックルに近寄って本当に怪我がないか確認した女性がマントを外す。
「これを」
そしてそのマントを羽織らせてくれた。
これは見た目通りの優しい人に違いない。
「我らは中央諸国同盟のドワーフ帝国支援合同部隊である。私は副長にしてこの分隊の指揮官。彼女たちは聖女、彼らはドワーフだ。不死者どもを追ってきた」
眼鏡が似合いそうな男はそういう話は無視して情報共有を始める。
「こちらは新緑の森の者ですッ」
対して、エルエルヴィは名乗りを上げず、ただそれだけを返した。
そんな話をしている間にも、巨大スケルトンとの戦いが進んでいる。
ドワーフ四人と鈍器を持った聖女一人が前線にたち、聖女二人が魔法で支援しているようだ。
五方向から、がつんがつん足を叩いては蹴られ、殴られ、動くが鈍くなると後衛の聖女が使う魔法で元気になってまた突っ込んでいく。
パワフルかつ原始的な戦い方である。
巨大スケルトンはマジカルナックルと戦っていた時と比べて動きが鈍い。
あたりを照らす光のせいか。
それとも追加で動きを妨げる魔法を使っているのか。
巨大スケルトンは打撃されるごとにわずかに黒い煙を漏らし、しかしすぐに破損部分は修復されている。
再生しているようだが、少しずつ削り取られているように感じる。
本当に少しずつ。
「これ以上の話はあれを倒してからにしましょ。逃げた敵もいるんだ」
「なんと。早く言いなさい。では我々は警戒をする。クロエ君、照らす範囲を広げるのだ」
「はい。聖なる光よ」
副長はそう言って周囲に視線を配り始め、クロエと呼ばれた聖女は魔法を使う。
宙に光源を設置する魔法らしく、詠唱の通り聖なる力がありそうな雰囲気だ。清浄な、と思わずつけたくなる、なんらかの影響力がある。
巨大スケルトン戦は、マジカルナックルの時とは別の意味で膠着している。
お互いダメージを受けてもすぐに回復しているので。
だが、蹴り飛ばされたり叩き潰されたりしながら果敢に立ち向かっていく前線の戦士たちの姿はマジカルナックルの心を熱くする。
「やるよ」
「足元を沈めますッ」
マジカルナックルは、エルエルヴィと視線を交わすと駆けだした。
ダメージは蓄積している。だが、前衛が来てくれた。
魔力は消耗している。それでも、勇敢な戦士たちを助け、巨大スケルトンを早く倒すことは意味があるだろう。
「全員、三歩下がって!」
そう叫ぶと、合同部隊の皆さんはわずかに逡巡すると後ろに下がろうとした。
「底なし沼」
そして下がる前にエルエルヴィの魔法が発動する。
だが、下がらずとも、前に出ようとするのを止めるだけで充分だった。
エルエルヴィの魔法は巨大スケルトンの直下だけを粘度の低い沼に変える。
ノイン・ツェーンがマジカルナックルの足を取ろうとしたものと似た魔法だ。
巨大スケルトンは、すとんと腰辺りまで沼に沈んだところで肘が引っかかる。上半身を残して身動きが取れなくなった。
「おお!」
「殴りやすくなったぞい!」
「よぉぉおおおし!」
口々に歓声を上げる戦士たちと聖女。
「聖水をッ!」
エルエルヴィの指示が響く。
その間にマジカルナックルは跳躍していた。
つる草を伸ばし広げながら。
腰から上の巨大スケルトンを飛び越えると、つる草が巨大スケルトンにかぶさり、そこから一気に伸びていく。
肋骨に、背骨に、腕骨に、どんどん巻き付いて沼面までたどり着くと、そこからさらに根を伸ばした。
『聖なる雫よ』
二人の聖女が両手を掲げ、シャワーのように水を降り注がせる。
植物は光と水を与えると成長していく。
魔法のつる草は、聖なる光と聖なるシャワーを浴びて聖性を帯びた。
さらに、沼に降り注いだ聖なる水が、沼に浸透していく。
前衛の五人は巨大スケルトンの肘をガンガン殴り始めた。
巨大スケルトンは可動部位が減り、前腕部をさければこちらの被害はほとんどなくなる。
さらに、バラバラになって自由落下する攻撃は下が沼となったことと、つる草が巻き付いたことで有効性を失っている。さっきから使っていないのでそれ以前からできない理由はあったかもしれないが。
無理に体を動かして反撃しようとする巨大スケルトン。
しかし、態勢を変えようとするとさらに沼に沈み込む。
人型を模していることによる構造的な限界だ。
胸まで沈めばどうにもならない。巨大スケルトンもそれをわかっているのか、どうにか態勢を維持しようともがく。
そこを殴るのだから、もはやこちらが圧倒的に有利。
聖なる光と聖なる雨を受け、つる草に巻き付かれている巨大スケルトンは、しかしまだ、十メートル近くが地上に残っている。
マジカルナックルはその背後から見上げ、両手を合わせる。
背後への攻撃は、もはやないだろう。
安全な位置から、最も有効な攻撃を考え実行しよう。
狙いは脊髄から頭蓋骨にかけて。
「燃《萌》え上がれ勇気。マジカルジュエル、力を貸して」
マジカルジュエルが輝いた。
酷使して消耗した新緑の魔力が増幅していく。
燃料として組み込む新緑の魔力が不足するかと思ったが、これならいけそうだ。
このまま一気に。
「マ~ジ~カ~ル~ゥ……波ァァァァァァァァァァァァ!!!!」
つる草を通じて聖なる力と生命の力が満たされる。
そして浄火の力と混ざり合い、死者を清め、送り出す光となって放たれた。
光の柱が巨大スケルトンの頭蓋骨を貫いたところでつる草に伝播し、巻き付いたつる草が光を帯びる。
そしてその光は沼の中まで浸透していった。
「――爆発っ!」
マジカルナックルが宣言すると、光は爆発を起こし、しかしなんの殺傷力もない優しい風が流れ。
あたりは色とりどりの花が咲き乱れ、巨大スケルトンは跡形もなく消滅し。
ドワーフたちと聖女たちはぽかんとして立ち尽くすのだった。
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