026 波
“万年宰相”ノイン・ツェーン。
さっぱり知らないのは仕方ないとして。
ついでにエルエルヴィも知らないらしいのもいいとして。
名乗りを信じるなら、結構な大物ではないだろうか。
不死帝陛下とやらはアンデッドの帝国のトップなのだろう。
その一の臣を名乗っている以上ナンバーツーということだ。
「あのノイン・ツェーン!? なんでそんな大物が!?」
「えっ?」
とりあえずふんわり話を合わせて情報を引き出せないかと、マジカルナックルは試してみることにした。エルエルヴィがついて来れていないが、一旦気にしない。
しかし、最初の爆裂魔法弾とは違う火の玉がマジカルナックルに向けてばらまかれることが最初の返事であった。
言葉選びに失敗したか。
マジカルナックルが伸ばしたつる草をぶつけると火の玉は膨れ上がり数秒その地点を焼き尽くすようだ。
つる草を敵の炎が登ってくるので切り離す。燃えないようにできないだろうか。
「ククク。適当に話を合わせて時間を稼ごうという企み、実に小癪。実に愚か。実に小賢しい!」
バレていたらしい。
ダメもとだったからいいけどもね。じゃあ戦うか。
マジカルナックルがそう思ったところで話が変わる。
「だがよかろう。汝らに絶望を与えてくれよう。そうあれは四千年前のこと」
杖の先から青い光線が伸びてきたので大型獣スケルトンに駆け寄って遮蔽にするが穴が多くて遮蔽にならない。
と思ったら、青い光は大型獣スケルトンに命中し、ビキビキと音を立てながら氷が膨らんでいく。
大型獣スケルトンの表面は氷に包まれたが、動きを止めることはなく氷の大型獣スケルトンとなった。しかも、先ほど爆砕した頭蓋骨側部が氷に埋められている。
青い光線が攻撃なのか味方強化なのか不明だが、大型獣スケルトンに氷の魔法はダメージにならないとみてよさそうだ。
マジカルナックルが受けると動きを止められるかもしれない。
膨張する氷に触れるのも危険な予感がする。
地面に氷が広がっていく。
質量が増加した氷の大型獣スケルトンが寄ってくるので炎のムチを再度作り出し、地面にはわせ、足をからめとろうと狙うが、氷と炎が拮抗する。
そうしている間にも、ノイン・ツェーンは四千年前にいかに自分が活躍し、生きとし生けるものを恐怖に陥れたのかを語っている。
ここでなにをしてるのか聞いたのに。自分が語りたいことを語るだけである。
そしてその合間に、マジカルナックルを囲むように土の壁がせり上がるが、これを飛び越え、氷の大型獣と距離を取る。
「最近の若い者は身体能力が高いようだ。妬ましい」
壁の向こうからそんな声が聞こえる。
「解呪の魔法陣、発動ッ!」
エルエルヴィの声と同時に、壁の向こうが光る。
すると、土の壁が崩れていき、一拍遅れて編み上げた炎のムチを上からたたきつけた。
氷の大型獣スケルトンにたたきつけられた炎のムチはその瞬間にほどけて全体を押し包む。
「マジカル爆砕連続パンチ!」
氷の大型獣スケルトンを解呪できていなかった。
魔法の強度でエルエルヴィが負けていたのか。しかし土の壁は解呪できている。
個別に違いがあるらしい。
そしてあの氷を受けると解除できない可能性があるということでもある。
しかしこれで氷の大型獣スケルトンは全身粉々になって動かなくなった。
氷の侵食も止まる。
もちろんこれで安心できるわけはなく、ノイン・ツェーンは今度は黒い矢を無数にその周辺に生み出していた。
相変わらず四千年前にいかに生物を傷めつけ絶望させたかを語り続けている。
ここまで一度も魔法を使うのに言葉を介していない?
さすが四千年前を自慢するような魔法使いは老練だ、ということだろうか。
言葉をかければかけるほど魔法は安定し効果を高められるらしい。言葉である必要はないが、意味を持たせることが重要であるから言葉は非常に使い勝手の良い媒体。
エルエルヴィの教えだが、ノイン・ツェーンは魔法に言葉を使って来ていない。
それだけ手加減されているということだ。
それは絶望を与えようという宣言に由来するのか。
だがそういう状況は、慣れている。
相手が強敵という程度で魔法少女を絶望させようなんて、一億万年早いのだ。
マジカルナックルは石を拾って熱を込めてから投げつけた。
先ほどから射撃攻撃が来ないのはエルエルヴィが武器持ちのスケルトンを排除してくれているおかげだが、遠隔攻撃の材料は欲しかった。
石はやはりノイン・ツェーンに命中するが、その運動エネルギーを失ったかのように地面に落ちる。
ただ熱くしただけの石ではただの矢と変わらないようだ。
そして逆に、浮かんでいた無数の黒い矢が動き出す。
無数の黒い矢が飛来するのを横に動いて避けていく。
回避できない軌道の矢には炎のムチをぶつけると、ムチ全体が消えてしまう。ぶつけた矢は消滅したが、採算が合う気がしない。
当たると魔法が消えるのか? 対消滅?
解呪の光とは違うアプローチなのだろうか。
地面を蹴りながら魔力打撃。土砂を巻き上げるが直撃した一部しか止まらず貫通してくる。
全部避けるしかないかと判断する。
どうやら一度射出してしまうと直線にしか動かないらしい。
巻き上げた土砂程度は貫通してくる。
現在位置を狙ってくるだけなら移動を続ければいいが、偏差を入れてくるとそのうち捕まるだろう。
こちらも魔法を射出して迎撃しなければ厳しいか?
しかし、まだマジカルナックルはそれに成功していない。
ノイン・ツェーンを中心に円を描くように駆ける。
半径を縮めて直接殴ろうと機会をうかがうが、黒い矢の量に押されて近づけない。
「ふぅむ、我に手も足も出ておらぬようだが闘志を失わぬか。最近の若い者は何と愚かなのか」
「最近の若い者はって何千年も前から言ってる人がいるんだってね。まるで変わんないな」
四千年語りの合間に挟まる、今への感想に、言い返しながら駆ける。
目の前に氷の壁が出現。爆砕パンチ。
足元が突然ガタガタになる。躓いたが地面に手を突き前転の要領で立て直す。
黒い矢と別に魔法も使い始めた。
一方で四千年語りが止まる。
本気を出してきたということか?
「我は進歩しておる。四千年前よりもな」
その言葉と同時。周囲の砕かれた骨たちが動き出した。
宙に浮いたかと思うと集まり始める。
ノイン・ツェーンの四方。四か所に固まっていく。
「スケルトンがバラバラになってそっちにッ!」
稼働中のスケルトンも同じように集まっているようだ。
無視するのはよくなさそうだが、黒い矢が止まらない。
こちらもなにか、打開策が必要だ。
集った骨は徐々に形を成していく。
マジカルナックルは賭けに出た。
いや、賭けではない。
やれる。当然のように可能。できて当たり前。
炎の右手と新緑の左手を合わせる。
新緑。生命。植物。
炎。燃焼。浄化。
死者は炎で焼いて送るものだ。マジカルナックルの認識ではそうだった。
生命は死とは逆の力だ。死の力、アンデッドに対抗できるはず。いや、できる。
そう考えればアンデッドはむしろ相性のいい敵と言える。
「命の力。不浄を焼き尽くせ。マ~ジ~カ~ル~ゥ」
力の放出のイメージ。合わせた手を開いた中で混ぜ合わせる。
植物は燃えて炎を強くする。
マジカルナックルはノイン・ツェーンの周囲を円の軌道で動いている。
集った四つの骨たちのうち、二つとノイン・ツェーンが直線状にならぶ瞬間、それを放った。
「波ァ!」
マジカル波。火炎放射を改良した魔法と言える。手から伸ばす感覚と合わせて、炎と新緑の合わせ技である。
生命の力を燃料に浄火の炎が一本の線となって放射される。
線は一気に太くなり、二つの骨の集合と、ノイン・ツェーンを呑み込んで直進していく。
さらにマジカル波に呑み込まれた黒い矢は、蒸発するように消え失せた。
しかし呑み込まれなかった黒い矢は、続けて飛来する。
足を止めたマジカルナックルに降り注いだ。
だが。
光の盾がマジカルナックルを守る。
一、二、三。三発防いだところで敗れるように消滅するが、次々に盾が新しく生まれ出る。
エルエルヴィの援護だ。この機会を逃せない。
そう思ったマジカルナックルは、魔力の蛇口をさらに開いた。放出される浄火のマジカル波がさらに太くなり、直径がマジカルナックルの身長に匹敵するほどとなる。
しかし、それで終わりとはならなかった。
範囲外の二つの骨の塊が、完成したのだ。
一つは巨大な人骨。頭だけでマジカルナックルより大きい。
一つは全身甲冑に覆われた騎士のような姿。屈強な成人男性くらいの大きさだが、使われた骨の量は同じくらいだったはず。
それらが同時にマジカルナックルに攻めかかってきたのだ。
巨大スケルトンは上から骨の拳を叩きつけるように。
骨の騎士は、骨でできているだろう大剣を構え、全身で突き出すように突っ込んできた。
マジカル波を中断し、巨大な拳を避けたところに突きこまれる大剣を横にずれるように避ける。
突きで伸び切った剣が横に払われたので、白刃取りの要領で受け、そのエネルギーを使って距離を取る。
マジカル波を受けた骨の塊と、ノイン・ツェーンは消滅した。黒い矢も消えている。
しかし。
「グ・ク・ク・ク・ク。そんな魔法を隠し持っていたとは。魔法とも言えぬか。力任せの下品で野蛮な技よ。今ので我を滅ぼせなかったこと、後悔させてくれよう」
ノイン・ツェーンの声が未だ途切れていなかった。
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