025 新魔法
エルエルヴィの分析と教えをマジカルナックルなりに噛み砕いて解釈したところ。
花車ヒスイは意味がわからないほど大きな貯水タンクであり、その表面に、五百リットル分食い込むように千リットル分の轟炎竜の魔力が貼り付いているような状態らしい。
同様に、五十リットル分食い込むように百リットル分の新緑の精霊の魔力もだ。
一部が追加タンクで、一部が内容量を圧迫している状態だ。
あくまでイメージである。
そしてそれぞれの追加タンクには専用の蛇口がついている。
追加タンクにはそれぞれの色のついた魔力が蓄積し、専用の蛇口からはその色付き魔力を出すことができる。
さらに、専用の蛇口は放水の形状を変えられる散水ノズルのようになっていて、この切り替えで一部の魔法を使いやすくしてくれている。
これでわかりにくければ、お風呂のシャワーが切り替え式だとか、蛇口設置型の浄水器だとか、そんな感じで。
しかし、これの使い方について、マジカルナックルはまだ一種類しか持ち合わせていない。
その方法が、接触したものに魔法効果を与えるというものである。
これはマジカルジュエルが与えてくれた魔法行使手段であり、唯一慣れている方法だ。
マジカルジュエルもまた追加タンクだった。
ただノズルの前に自動でいろいろやってくれていた。変身やダメージ転嫁、身体能力強化機能などだ。
その上で水量が足りなくて、わずかにぽたぽた落ちていた分を無理やり使って魔力打撃を使っていた。なんならノズルで殴っていたようなものかもしれない。
そして現状は、独立したタンクに水が溜まっていて、蛇口、ノズルから取り出せるようになった。
それが轟炎竜と新緑の精霊の魔力だ。
これをどう使うのか。
正直に言えば、加減を間違えることを恐れている。
炎が危険であることはよくよく知っている。新緑の森の焼け跡も見た。あの程度ではすまない轟炎竜の力を感じ取った。
新緑の精霊の力は、どちらかと言えば持て余している。つる草にこだわっているわけではないが、発想が限定的なのも自覚している。
失敗したらどうなるかを考えている。
リスク管理は大事なことだが、怯えているだけではないか。
やってみたらどうだ。
踏ん切りをつけなければ進歩はない。
マジカルナックルは左腕から伸ばしたつる草のムチでスケルトンを破砕しながら駆け抜ける。
右腕を使わなければいけない。
違う、使いたい。
「マジカルライト――あっつ!」
灯火の魔法を考えた。イメージはろうそく。
すると右手が燃える熱さが生まれ、魔法少女衣装の右腕部分が一瞬で燃え尽きた。
とっさに魔法が解除される。
「光る円より後ろに下がって。解呪の魔法陣、発動ッ」
マジカルナックルが飛び退くと、エルエルヴィが魔法を使う。
半径五メートルほどの光の円が生まれ、内部のスケルトンが塵になっていく。
解呪は魔法的効果を解除する効果があるらしい。轟炎竜の時に使ったものの小規模版だ。あの時はマジカルナックルの変身も解除されていた。
今回はマジカルナックルにできた隙を埋めてくれたらしい。
「魔法使いが自分の魔法で傷ついてどうするんですッ! 燃えない炎を出していたでしょうッ! あの要領です!」
アドバイスまでくれる。なんて親切な先生だろう。
だが、燃えない炎なんて意識して出したことはないのだ。
あれは気づいたら出ていたものである。
無意識に出せるのか。
常識と現象に囚われてはいけない?
自分の魔法は自分を傷つけないのが当たり前と思え。
「マジカル・バーニングハンド」
掌に炎が生まれる。
熱くない。
そうだ。もともと、やっていた。魔力打撃は反動がない。それと同じだ。
魔法の理は物理とは違うと知っている。
「マジカル・火炎放射」
手のひらから炎を放射、薙ぎ払う。
あまり効果がない。
乾いた骨にちょっと火を浴びせた程度ではだめか。
左腕のつる草のムチに燃え移る。
移るな移るな。つる草のムチは私の一部だ。マジカルナックルがそう決めると、炎はムチを燃やさず、しかしムチを覆い、炎のムチとなった。
「予定外だけどいいか」
炎のムチを振り回して進む。からめとったスケルトンの末路が破砕から爆砕に変わった。
魔力打撃が炎を介して魔力爆砕になったのだ。
ムチを振り回しているのはだけというのは変わっていない気がするが、少しハイになってきた。
こちらから敵集団の核を探す。
どうせ有象無象なら向こうから寄ってくるのだから、逃げたり隠れたりするそぶりをするものがいればそいつが敵の中軸だ。
下がりながら戦っていた時は手薄なほうに向かっていたが、逆に手厚い方へと進路を取る。
こちらから前に出始めると、大型の獣のスケルトンが現れるようになる。
「あっちにいるのかな?」
大型獣スケルトンはより重厚な音を立てながら正面に立った。
かと思うと駆け出してくる。
体当たりか、それとも牙で噛みつこうというのか。
骨の形で元の獣がわかるほど詳しくないが、牙があるなら肉食獣だろう。
生憎、猫科のような動きをする何倍か大きな相手とやり合ったばかりだ。
マジカルナックルは束ねて振り回していた炎のムチを前方に投網のように放った。
そして自身はその陰で横に移動する。
目くらましと絡み取りを兼ねた一手。
絡みつきからの魔法爆砕。昼間の三角ゾンビ獣にも使った手を少しアレンジした迎撃だ。
しかし、大型獣スケルトンは止まらなかった。
爆砕攻撃を受けながらも前進し、炎のムチを引きちぎった。
「威力が足りてない? そんなに硬いの?」
「込められた魔力で強さが変わると言いますがッ――!!」
「!!」
爆音が二つ。
マジカルナックルの炎のムチではない。
ひとつは少し離れた場所の樹上に。
ひとつはマジカルナックルの背中に。
投じられた炎の玉が、樹上とマジカルナックルの至近で炸裂した。
吹き飛ぶマジカルナックル。
しかし、空中で体勢を立て直し手着地する。その瞬間、頭上から氷の壁が落ちてきた。
「マジカル爆砕パンチ!」
殴り壊したと思いきや、横から降り注ぐ電光がマジカルナックルの目の前で光の盾にさえぎられる。
「無事!」
自身の生存をエルエルヴィに宣言したマジカルナックルはつる草を地に這わせる。
しかし途中に炎の壁が現れ邪魔をする。
「チッ! 何者!?」
飛来する槍を打ち払い、陰にあった矢をつかみ取り突撃してくる大型獣スケルトンの横っ面に爆砕パンチ。掴んだ矢を持ち替え燃やして投げつける。
その先には、豪奢な杖とボロボロのローブ姿の何者かがたたずんでおり、暗い昏い眼窩の奥からマジカルナックルを見つめている。
燃える矢はその者に命中したが何事もなかったように炎は消え、矢は地面に落ちていく。
「くくく。エルフも人も殺せぬとは嘆かわしい。おお嘆かわしい。不死帝陛下の一の臣たるこの我が、その程度も為せぬとは!」
「不死帝陛下の一の臣? 知ってる?」
「知らないですねッ!」
「これだから最近の若い者は!」
光の盾の援護でわかってはいたが、エルエルヴィも無事のようだ。
一安心して考える。
戦況が変わった。
勝てるか?
「我は“万年宰相”ノイン・ツェーン。我が主よ! 素晴らしい獲物に出会わせてくださり感謝いたします! ククククククク」
十九なのか九と十なのか。まあそれはどうでもいいか。
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