023 夜
野宿は交代で見張りを行う。
安全なキャンプ場と違い、なにか現れるかもしれないからだ。それが敵性のものなら寝ている間にお亡くなりもありうる。
轟炎竜ですら、自宅で寝ている間に被害に遭ったのである。
睡眠中の無防備さがわかるというものだ。
一人旅の時はどうするのかと尋ねると、リスクか睡眠を我慢するらしい。
つらそう。
ヒスイは、日本は文明に守られていたのだと実感するとともに、エルエルヴィのありがたさとこの世界への不安を感じるのだった。
独りである。
見張りである。
空からくる明かりはあるが手元もあやしい。
月は三つある。時期の都合で見えないがまだあるらしい。
地球の月と比べると一つ一つは小さく感じる。
木が葉っぱで隠してくれているというのは外が見えにくいということでもある。
エルエルヴィは隣で寝ている。
暗い中で独りとなると不安が寄ってくるもので、思考も暗くなりがちだ。
大人になろうと、魔法少女になろうと、不安がなくなることはない。なくなったとすれば生命として機能不全だろう。
不安があるから勇気がある。
不安を感じる心が無くなったら勇気はどうなるのだろうか。
魔法。
ヒスイは魔法を覚えた。
間違いなく一歩も二歩も進んだと言える。
しかし、変わっていないところもあった。
結局のところ、接触した部分からしか魔法を発揮できていない。
この点は是非改善したいところだが、贅沢を言うなと、この十年間の自分が言う。
満足しておけと。
できることが増えたならそれに習熟して応用を身に付けろと。
借り物の力で本来の自分は変わっていないのだ。
できる範囲でできることをすればいいのだと。
十年前の自分が言う。
魔法少女になった直後。
魔法という存在に触れ、全能感に身を任せ、現実にぶつかる前の自分。
あきらめるな。
望みを広げろ。
可能性は無限にあるぞ。
夢を、希望を取り戻せ。
大人になった自分が言う。
現状はまるで足りていない。
仮想敵は正体不明の、推定であるが轟炎竜よりも格上だ。
仲間たちが戦った最終決戦の敵か。
あるいは歴代の魔法少女がともに立ち向かった超強敵か。
そんな相手に立ち向かうことになるのなら。
いくら力があっても足りないだろう。
力を求めろ牙を研げ。
牙?
気が付くと右腕から燃えない炎が立ち昇っていた。
これはよくない。
ヒスイは意識して轟炎竜の魔力を抑える。
自分の中に、自分とは異なる魔力が二つ息づいている。
その事実は、ヒスイの魔力知覚能力に発展をもたらした。
気づいてしまえば自身の魔力も理解できた。
マジカルナックルに変身したとき当たり前に感じていたもの。それも魔力。
変身していない今もわずかに感じられるこれも魔力。
エルエルヴィによればこの気づきが初歩中の初歩、一歩目の途中くらいだという。
どうにも先は長いようだが、気が付くことが出来れば、干渉もできる。
つたないとはいえ、魔力の出力の強弱を調整した。
つる草を操った。
まだまだこれからだ。よーし、がんばろう。おー!
思考が一段落した間隙に、なにかの生き物の声がスーッと耳に入ってくる。
梟か、カエルか、正体を知らないが聞いたことがあるような何か。
家の中なら風情があるとかうるさいなとか、そんな感想を抱くところだが、アンデッドやワイバーンがいるような場所だと思うと不気味さ先に立つ。
自然には生き物が住んでいる。
当たり前のことだが、轟炎竜が荒らして混乱しているかもしれないという話はどうなったのか。
その結果が今なのか。
普通の状況を知らないヒスイには比較もできない。
そもそも普通とは何だろう。
轟炎竜でないとしても、強力な生物が闊歩しているこの世界。
アンデッドの三角巨獣ももとは生きていたはずだ。
強力な生き物が多数いて、食事のために活動しているとすれば轟炎竜がどうとかなくたって混乱するのではないか。
それなら混乱するのが普通なのではないのか。
いい感じにばらけて、均衡がとれるものなのか。
そしてこのカシャン、カシャンという音はなんだ。
普通なのか、普通じゃないのか。
さっきから一定ペースで聞こえる。
と思ったらどんがらがっしゃんとリズムが崩壊した。
ヒスイはその音で気を取り直し、エルエルヴィを起こした。
△▼△ △▼△
「骨です」
「うーん、骨だねえ」
二人のテントの木の周囲は、骨に囲まれていた。
ヒスイはすでにマジカルナックルに変身済みだ。
人型の骨が多く、武器を持っている。
小柄の、子供のような大きさのものもいる。
他に、大きな獣の骨と思われるものもそれなりにある。
「離れたところには肉付きもいる」
「ゾンビはこっち来てほしくないな」
囲まれているが、どうも骨、スケルトンたちは二人を認識していないようで、周辺をうろうろしている。
おそらくは目立ちまくりのヒスイの魔力にひきつけられて集まったのではないか、というのがエルエルヴィの予想らしい。
正確には生命に満ち溢れた新緑の精霊の魔力と、圧倒的強者である轟炎竜の魔力形質を持つ、ヒスイを取り巻く魔力である。
それは変身しても変わらない。
気づかないのは、テントの木による隠蔽効果。
このあたりに何かあるはずなのに、見つからない、といったところではないか。
それがエルエルヴィの分析だ。
絶対に部屋の中にスマホがあるはずなのに見つからずどこに行ったんだろう、みたいな状況か。
この暗さでも視認できる距離にいるのに気づかないというのは不思議である。
いや、それよりも考えるべきは。
「脱出する? 戦う?」
「朝、お風呂作り直すの面倒だから戦うなら移動したいですねッ」
エルエルヴィはどちらかと言えば戦う方に傾いているようだ。
「アンデッドなんていくら倒してもいい。それに、ずっと気づかれずにいるとは限らないし、そもそもこの状況で眠れる?」
「ああ、それはないね」
移動するたびに骨同士がこすれるのか、カチャカチャ音が鳴る。
ゾンビと違って肉がないのに動くのは不思議だが、それはもういまさらとして。
前提としてアンデッドは敵性存在であり、今気づかれていなくても気づかれたら戦闘になる。
そんな状況で見張りを交代して眠れるか?
眠れるわけがない。
「どっちに行く?」
「想定通り森側へ」
ワイバーンに近づいたり、ドワーフの石小屋に近づくという案はやめになった。
「了解、はぐれたくないから抱えるよ」
「わかっ――」
「GO!」
マジカルナックルはエルエルヴィを抱っこして、隠蔽された範囲を飛び出した。
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