021 右往左往
「迂回ルートは主に人間の国々を通って大回りする。人間は交易で広くつながっているから、情報を集めながら移動すれば目的地に近づける。はず」
エルエルヴィの歯切れが悪いのは、そんな遠くまで旅をした経験がないからだ。
道々尋ねればわかるというのは旅エルフからのまた聞きで、つまり長く生きていても経験していないことは断言できない。
さらに人間の社会はすぐに変わるので事情が違っているかもしれない。
最近の若者の変化についていけない方のおばあちゃんという言葉がヒスイの中に浮かんだが口に出さずにおいた。
さて、迂回と言っても候補は二つあり、一つは大樹海を戻って大回りするルート。
これは非常に残念で、なおかつ迂回する距離が大きくなるルートだ。
大山脈は星形、あるいは放射状になっており、現在地はそのでっぱり部分でなくへっこんだ部分に当たるらしい。
遠景を眺めてもそうらしいことがわかる。
であれば、もう一つの候補だ。
それが東方面に抜ける切通しルートだ。
切通しは人工的に作られた谷と道の合いの子のような存在だ。日本で言えば鎌倉への道が有名。
今回の場合、通商目的で昔に切り開かれた道が存在している。
こちらは道であるので、道なりにいけば人間の居住地域に自動的にたどり着けるのだ。
山中を迷わずに進めるルートなので迂回する距離は比較的小さくなる。
ドワーフ地下帝国の通商路だ。
重量のある金属製品を運ぶためのものなので道もしっかりしているはず。
などなど、前向きな要素が多いのがこちらのルートだ。
どちらを選ぶかといえばもちろん、切通しルート。
「駄目ですねこれはッ」
若干ヤケが入ったエルエルヴィの叫びは小さかった。
道は容易に発見できたのだが、切通しだったらしい場所が大規模に崩落していたのである。
しかもそれだけではなく、大型の鳥と爬虫類の中間のような生き物が群れていた。
見た目はそうだが、サイズ感はゾウが近い。
「ワイバーン」
名称も、該当しそうなものがあれば置き換えられているらしく、ドラゴンとは違う呼称が出てきた。
「ドラゴンとは何が違うの?」
「ドラゴンは前足がある。ワイバーンは翼が前足を兼ねている」
「なるほど」
収斂進化なのかな。それとも根本的に別の系統なのか。
地球では足が四本より多いのは虫が多かった。いや、魚介があるか。
哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類は四本だ。ヒスイが知らないだけで違うのもいるかもしれないが。
伝説の生き物だと例外があるかもしれない。ケンタウロスとか。
あるいは、足が六本の世界があって、イメージが混雑していたとか。
そんなことを考えていると、
「あれは腐肉も食べる」
「ゾンビ食べてくれるんだ。益獣だね」
「生きてる獣やエルフも食べる」
「害獣だね」
「ただ、こんな崩落を起こすような力はないように思う」
「隕石でも落ちたのかな」
「轟炎竜が暴れたとか」
崩落自体は様々な原因で起きるだろうが、山の一部がすり鉢状に崩れているのだ。
範囲は見えるだけで数百メートルに及ぶ。
そしてそのすり鉢がワイバーンの群れに占拠されているのである。
もちろん、発見した道はすり鉢に呑まれている。
「すり鉢を回りこんでいけば反対側に道はありそうだけどね」
「崩れやすくなっていそう」
ここだけなら山中を抜ければ問題ないように思う。大きめに回りこめば崩落の危険はそれほどでもないだろうし、尾根に出ればすり鉢自体が目印になるだろう。
この場所だけならともかく、向こう側まで崩落しているとは限らない。
「ただ、ワイバーンが妙にそわそわしているように見えるんだけど、あれは普通なのかな」
ヒスイたちは近くの木の陰から覗いているのだが、ワイバーンたちは落ち着きなくきょろきょろとあたりを見回している。
「ヒスイちゃんの轟炎竜の魔力を感じているのかもしれない」
「そんなに目立つ?」
「広場で肉を焼いているのがわかるくらい」
「よくわからないたとえだ」
木の陰だから、隠れられている。新緑の精霊とエルフの能力で。うまいこと隠蔽できている。その援助を受けても隠蔽しきれていないというべきか。
「そうすると、道を歩いてて急に空から襲われるかもしれない?」
「忌避されるか、狙われるか」
縄張り意識が強い生き物なら目立つと攻撃してくるだろうし、臆病なら逃げるだろうと。
つまり目立つだけで気付かれた後の反応は相手の性質次第であると。
「もっと魔力を制御できるようになれば隠すこともできますッ」
「他者に焼き付けられた魔力でも?」
「……」
「何か言って」
「がんばりましょうッ」
難しいらしい。
結局、一旦戻るということで合意した。
もともと、ドワーフ地下帝国で眠れたらいいなあという予定だったため、日暮れが遠くない。
森判定の場所まで戻れば安全に休むことができる。
相応の大樹があれば最高だ。エルフの家を即席で、一時的に大樹の中に確保してもらえる。
なくても外からわからないように隠してもらえる。
無料テントである。カモフラージュ機能付き。
エルフの森からの愛されっぷりがすごい。
今回はこの先の野宿のことも考えて、テント式で野営することにした。
危険が迫れば森に逃げ込めるので森の外の領域に出る前の保険付き練習というわけだ。
最大のリスクはワイバーンに発見されることと見積もる。
ワイバーンの行動半径は非常に広いらしい。
やはり空を飛ぶやつは違う。
上空から見えないようにすれば問題ないだろうということだった。結局森に頼っているが、平地だとどうするのか。
平地の旅に詳しい案内人がいてくれると助かるが、とりあえずいないものはいないので仕方がない。
ワイバーンが比較的近くにいるということは、逆にほかの敵性存在はそこまで気にしなくてもよい、と言い切れないにしろ、多少は安心していいという。
完全夜型なら活動時間で住み分けられている。
「夜は寝るタイプなのね、ワイバーン」
「多分」
おおっと?
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