020 分岐
アンデッドとは。
死んでいるのに動く存在の総称だという。
肉がついているとゾンビ、骨だけだとスケルトン、霊体だけだとゴースト、つまりおばけ。
この世界ではしばしば発生するらしい。
「しかし、知的生物以外のアンデッドは珍しい」
「そうなの?」
「生への強い執着や生命への嫉妬がアンデッドになる原因と言われている」
そういった強い感情を持っていないとアンデッドにならないということだろうか。
「まあ、考えても仕方ないか。じゃあさっきの三本角のゾンビは特殊な例なのね」
「そう。森は生命に満ちている。アンデッドは生まれても、淘汰される」
アンデッドは生命体に襲い掛かる。
そのため、通常は無駄な戦いはしない野生の生き物も応戦する。
そうするとだんだんダメージが蓄積して崩壊する。
ということらしい。
「肉が朽ちていないから比較的新しい個体。自然個体でないとすると、あまり情勢がよくないのかもしれない」
エルエルヴィが考え込んでいたが、ヒスイは魔法の練習の方に意識が向いており、この件が予兆であったことを後で思い知ることになる。
△▼△ ▽▲▽
「ここから山ですねッ!」
なんだか登り坂になってないか、そして木の種類が変わってきたなとヒスイが思っていたところ、エルエルヴィが宣言した。
「エルフの森歩き能力が通じなくなるって意味かな?」
「そう。あたくしの有利はここまで」
エルフは森に甘やかされていると感じるほどに有利である。
木々がエルエルヴィに都合がいいように動くのだ。木々ではなく森そのものか。
連れ立って歩くと、歩きやすい平坦で見通しの良い道になる。
わずかに離れてしまった時の経験からすると、森が動くというより、空間がゆがんでいるのかもしれない。
少し離れただけでエルエルヴィの場所もわからなくなるし、良かったはずの見通しは木々にさえぎられて方向感覚を失う。
そんな圧倒的有利がここまでということで、前方を見上げると、はるかな山々が連なっていた。
その先端は雲に隠れて見えず。
もちろん登山道が整備されているわけでもない。
後ろを見れば、樹海。
結構登ったとう自覚は正しかったようで、遠くを見れば、青々とした木々が視界の果てまで広がる美しい緑を見下ろせる。
まさに大自然のど真ん中。
エルエルヴィがいなければ遭難して絶望と判断するような場所だ。
「南はこの山脈の向こう」
「そういうこともあるかあ」
ドラゴンは空を飛べるが、ヒスイたちは徒歩だ。
目的地ははるか南としかわかっていない。
南にいって轟炎竜の棲み処というワードで調べればわかるかなという雑な計算でむかっているのだ。
最悪一度の呼び出し権利を使って位置を確認してもいい。
ただ、目の前の山脈のような障害があるだろうことは考えていた。ほかにも海とか大河、砂漠などもあるかもしれない。
新緑の森の住人はそういった地理の情報をあまり持っていなかった。
他のエルフの森の場所だとか、伝説にあるような場所の大まかな方角だとかその程度だ。
轟炎竜は方角を示しただけで、ヒスイたちはその方角を参考に進んできた。
「どうするのがいいと思う?」
ヒスイはここまで頼れるガイドであったエルエルヴィに意見を求める。
「ひとつは、この大山脈を超える。が、現実的ではない。あたくしは遭難する自信がある。ヒスイちゃんは山歩きは得意?」
「あっはっは、その案は一旦保留だね」
「では残りはあと二つ。地下と、迂回」
エルエルヴィが指を立てながらヒスイを見る。
三つも選択肢を用意していたエルエルヴィに感謝しつつ、ヒスイは尋ねる。
「地下? トンネルがあるの?」
「大山脈の地下にはドワーフの地下帝国がある。それともう一つ、アンデッドの帝国も。地下でずっと昔から争っているらしい」
「ドワーフ! と、アンデッド?」
エルフ基準のずっと昔からというのはなかなか聞き捨てならないが、それ以上に気になったのはアンデッドである。
「さっきの巨獣のアンデッドも関係あるのかしら」
「その可能性はある。断定はできない。ともかく、ドワーフに話をつけて通らせてもらうのが一案。連中はカネと金属と宝石と酒以外のことには無頓着だから、通してもらえるはず」
「なるほど。エルフと仲が悪いとかはないの?」
「お互いに喧嘩するほど興味を持っていない。必要なものを交換するくらい」
この世界ではドワーフとエルフの関係はドライらしい。
まあ森と地下帝国では住み分けが出来ていて争いにならないということか。
木を切って燃料にするなどすれば……化石燃料を使っているのかな?
鉄を加工するなら木炭より石炭、コークスの方が向いているはずだ。
「最短距離で抜けるルートなので有力な選択肢だと思ってここに来た」
「理解しました! ごめんね、頼っちゃって」
「いい。森を出るまでは任せて。この先は一緒に考えましょうッ!」
「もちろん!」
いえーいと手を打ち合わせる。
「それで、ドワーフとはどうやって接触するの?」
「この近くにドワーフの拠点があるはず。人間の使う道もあるので近くまで行けばすぐわかる。探そう」
エルエルヴィも二度ほど来た経験がある程度だが、どちらもすぐに見つけたため今回も同じだろうという。
森との境に沿って、東方向に進むと、尾根の影に隠れてそれは見つかった。
「石の小屋?」
「あった、これだ。この近くにドワーフ地下帝国への入り口があるらしく、ここで見張りが……いませんねッ! おおいッ! 山の友人ッ!」
全く知らなければ気づかなかっただろう石の小屋は、回り込んで正面から見ないと大きな岩のように見えるものだった。
扉だけは木でできていてやたら凝った彫刻が施されている。幾何学模様の一種だろうか、複雑で無機的だが不思議と面白みを感じるデザインだ。
エルエルヴィが声をかけても返事がない。
扉を叩いても同様で、開けようとすると鍵がかかっているようで強固な引っ掛かりがあった。
「……もしかしたら時期によっては誰もいないのかもしれない」
見張りが常駐しているはずというのはエルフ側が思っていただけで、ドワーフたちは別のルールでここに駐在していた、というのはありそうだとヒスイも思った。
例えばエルフなどが交易に来る時期だけだとか。
ともあれ、実際に居ない以上、どうしようもない。
「入口を探して勝手に入るわけにはいかないよね」
「あたくしたちが見つけられるかはともかく、無断で入ると侵入者として攻撃されると思う」
「じゃあ誰か来るまで待つか、迂回ルートに行くかだね」
エルエルヴィが肩を落としたので、ヒスイは肩を叩いて励ました。
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