017 花車ヒスイは魔法少女になる
本日投稿3/4
ヒスイはすねた。
三角座りのヒスイをツタが覆ってドームになった。
葉っぱと花の装飾が追加されたマジカルジュエルが暗く染まっていく。
「ヒスイ様ッ! どうしたんですかヒスイ様ッ!? キモいのって何ですかッ!?」
慌てるエルエルヴィは追い打ちを行い、轟炎竜は距離を取って見ていた。
警戒する猫のような、前傾姿勢でいつでも飛びのくことができる体勢だ。
ぎろんぎろんと見つめられ続けたツタの塊が熱を帯び、燃え上がる。
「ヒスイ様ッ!」
「うわあっつ!!」
燃え上がった部分には次から次にみずみずしいツタが覆いかぶさり、瞬く間に消火された。
『精霊が守っておるということは、同じ存在か。ふん』
轟炎竜の鼻息ひとつでツタの塊が吹き飛ばされる。
三角座りで落ち込むヒスイだけが残った。
ヒスイは顔を上げてジト目で轟炎竜を睨んだが、ため息をひとつ、落ち込みモードを解いて立ち上がる。
社会人は切り替えが大事。
無条件で気遣ってくれるのは優しい家族や友達だけだ。
甘えている余裕はない。
気分によらず立ち上れる能力が大人の証。
大人になるって悲しいことなのだ。
『異界の者は皆そのようにキモいのか』
「キモいって言わないでもらえますか。傷つくので」
『お、おう』
「私の状況を認知したのがこの世界に来てからで、他の事例を知らないのでわかりませんね」
『そうか。皆同じなら異世界に行く気が失せるところだが、わからぬか』
わずかに轟炎竜が圧されたように見えたのは、轟炎竜が言うキモさのせいだろう。
ヒスイの不機嫌さを感じ取ってひるむような存在ではあるまい。
轟炎竜ほどの存在が思わずひるむほどキモいということだ。へこむ。
『まあよい、ひとまずそれをどうにかせよ』
「できるならやってるんですけど」
そう言ってから、変身すればいいかと思い直し、そうしようとした時だ。
『できぬならこうしてくれる』
轟炎竜がぎろんぬと上からヒスイを睨みつけると、ヒスイが燃え上がった。
「ヒスイ様ッ!?」
驚いて名前を呼ぶボットと化しつつあるエルエルヴィ。
ヒスイの身体をツタが覆う。しかし炎は消えない。
消えないがしかし、ヒスイの身体から炎がはがされそうになる。
「焼けてない?」
ヒスイの身体も、ヒスイを覆うツタも、炎によって燃えていなかった。
『精霊よ、無謀な真似はやめておけ。この者にとっても悪いことではあるまい』
轟炎竜がそう言って、炎の勢いが増す。
激しくなった炎は再びヒスイに張り付いて、押し込まれるようにツタもヒスイに押し付けられる。
「痛い痛い痛い痛い!!!」
物理的に痛いのでヒスイは悲鳴を上げた。
しばらくそんな地獄絵図が続いたのち、炎がひときわ大きくなって。
消えた。
「はあ、はあ、はあ……」
痛みで叫んで息が切れたヒスイ。
痛ましいものを見るようなエルエルヴィ。
『うむ、いくらかマシになったな。喜ぶがよい』
満足げな轟炎竜。
ヒスイはエルエルヴィに視線を向ける。
「どうなってる?」
「ええとそのッ……魔力の枯渇状態はわかりにくくなった。膨大な器も、知らなければきっとわからない。その上で精霊と、轟炎竜閣下の魔力が張り付いてそれはもう目立つことに。お顔も……」
「えっ?」
ヒスイはウエストバッグから手鏡を取り出した。
「ひっ……これじゃ銭湯に行けないじゃない……っ!」
鏡の中にはいつも通りのヒスイの顔、ではなく。
その肌には炎と葉っぱのような模様が刻まれていた。
よく見ると手鏡を持つ左手にもつる草のような模様が。
右手には炎のような模様が顕れている。
絵として見れば不思議と惹きつけられる素敵な模様かもしれない。
しかし。
最近、仕事の帰りにスーパー銭湯に行って付属施設のマッサージやボディケアを受けるという楽しみを覚えたところだったのに。
入れ墨・タトゥーお断りなのに……!
ヒスイは悲しみに暮れた。
轟炎竜は満足そうだ。
この価値観の違う生き物の自主性に任せるのは悲劇を生む。
ヒスイはそう学習した。
悲しみをくり返さないために、早急に気持ちを立て直して主導権を取らなければ。
「あ、でもこれなら炎の魔法や新緑の魔法を使えるかもしれませんッ!」
「そうなの?」
「練習すればですがッ!」
少しだけワクワクする心はひとまず置いておいて、ヒスイは改めて立ち上がった。
「轟炎竜閣下、お気遣いあ・り・が・と・う・ございます。痛かったですけど!」
『痛いのは知らぬ。精霊のやったことであろう』
轟炎竜に皮肉など通じないが、ヒスイはこれで気持ちを切り替えた。
悪いことばかりを見ていてはいけない。
話がなかなか進まない。
いまやるべきことを。
「ええ、新緑の精霊様。また助けようとしてくれてありがとう。さて」
轟炎竜もいつの間にか警戒態勢をといていた。きっとヒスイが叫んでいる間にだ。
だがそれもこれから提起する話でどうなるか。
「轟炎竜閣下、話を戻しますが。閣下が気づかない間に、閣下の意思を無視して閣下を動かした者がいるということですね?」
『おお、そうだ。不遜なり。余の宮殿はどうなっておるか』
「轟炎竜閣下の宮殿ですか。私にはどこにあるかもわかりません」
『役に立たぬな。まあよい。余もここがどこかわからぬ。あちらにあることはわかるが、なかなか遠いな。ずいぶん飛んできたとみえる』
「轟炎竜閣下の棲み処であれば、はるか南の燃える山と伝わっている」
それなら今、轟炎竜が向いた先が南なのだろうか。太陽の方角からすると違うように見えるが。まあ真南ではないか、そもそも方角の常識が地球とは違うのかもしれない。
異世界の地理なんて、地球の感覚を持ち込んではいけない筆頭だろう。
「私はその存在を調べ、対策したいと望んでいます。閣下はどう思いますか」
轟炎竜を支配した何者か。その目的はさっぱりだが、支配された轟炎竜が新緑の森を襲ったという事実がある。
意図的であれ、偶然であれ、放置すれば新緑の森は危険なままだし、それ以外の地域だってそうだ。
この問題に対処しなければ仮に地球に戻れたとしても心残りとなるだろう。
花車ヒスイは魔法少女マジカルナックルである。
世界には悲しみも喜びもあふれている。
世界中の悲しみに手を伸ばし救うなんてことは人一人の力を越えていて、その現実が魔法少女を打ちのめす。
だが、元凶がいて、その存在をどうにかすれば解決することであれば、それは戦う力を得た自分の役目だと思うのだ。
異世界の事情があるのかもしれない。
だからまずはそれを調べて、知って。友を、人々を、悲しみから守れるのなら。
花車ヒスイは魔法少女になる。
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