016 悲鳴
本日投稿2/4
「ヒスイ様ッ!?」
予定変更からのさらなる予定変更。
逃げる予定が交渉に代わり、無難に話をつけるつもりが踏み込んだ。
エルエルヴィは思っただろう。
マジカルナックル行き当たりばったりだなと。
勢いで森を危険にさらすなと。
「我々は轟炎竜閣下をも利用する悪意に脅威を覚えております。轟炎竜閣下がこの地へいらしたのは偶然か、それとも」
『矮小なる異界の者よ』
轟炎竜がぎろりとにらみ、マジカルナックルの言葉を遮った。
しかしながら。
『余は勘違いするなと言ったぞ』
「生きるのに必死なのです、轟炎竜閣下」
にらみつけているにもかかわらず、圧が変わらなかった。
マジカルナックルが鈍感なのだろうか?
にらみつける轟炎竜と見上げるマジカルナックル。
しばしの膠着状態となった両者だったが、状況を変えたのは思わぬ変化だった。
周囲を這っていたつる草が急激に伸びてマジカルナックルに絡みついたのだ。
異常成長と言っていい。
「え、なに?」
「ああッ! 過剰反応ッ! 駄目ですッ!」
エルエルヴィが慌てているが、マジカルナックルはそれどころではない。
飛びのいてもそちらにさらに伸びてきて、着地した先からも伸びてくる。
『健気なものだな精霊よ。余が食ってやろうか』
「ヒスイ様、新緑の精霊ですッ。ヒスイ様を守ろうとしているッ!」
轟炎竜が牙をむき、エルエルヴィが焦っている。
マジカルナックルは逃げるのをやめた。
エルエルヴィの言葉を信じたのだ。
その結果つる草によってぐるぐる巻きにされてだるまのようになってしまった。顔の前だけ隙間があって向こうが見える。
「動けない……あれ動ける?」
みずみずしいつる草の匂いに包まれたダルマジカルナックルだが、動けないことはなかった。
体を動かすとそれに合わせてつる草も動くのだ。早い動きには着いて来れないが歩くくらいなら。
「どうしてこうなった?」
「昨晩、長老が精霊の加護を祈ったから。新緑の精霊がヒスイ様を見守っているらしい。エルフ以外には滅多に力を貸さないのに」
『余が異世界のものを攻撃すると見たのであろう。若い精霊ごときが余の前に出るなどと』
相互に意思疎通出来ないエルエルヴィと轟炎竜が同時にしゃべるのでマジカルナックルは聞き取りに苦労するが、何とか言いたいことは理解した。
精霊という第三者が介入してきたこと。
そして、轟炎竜より格下であること。
それでも、マジカルナックルを守ろうとしてくれていること。
「ありがとう、新緑の精霊様の愛と勇気を受け取った」
勝てない相手に立ち向かうのは蛮勇だ。
だが、誰かのためならば、それは愛と勇気。
立ち上がる誰かがいることの心強さを、知っている。
マジカルナックルの胸元が光る。
そこにあるのはマジカルジュエルだ。
光はマジカルナックルを、そしてマジカルナックルを包むツタのだるまを呑み込んだ。
「調光の魔法……効果がない?」
『ほう?』
エルエルヴィが反射的に使った魔法は効果を顕さず、轟炎竜は思わず顎を浮かせて様子を観察する。
光が収束していき、マジカルナックルの体の線と一致して。
胸元のマジカルジュエルから葉っぱが広がりマジカルナックルを包んでいく。
ボディスーツ。スパッツ。フレアスカート。グローブ。ブーツ。頭飾りに胸のブローチとなったマジカルジュエル。
「萌え上がる、愛と勇気をこの胸に。魔法少女マジカルナックル!」
魔法少女への変身と同様の現象がマジカルナックルに起きた。
だが、変身後の姿が変わっている。
ツタと葉っぱの意匠が、魔法少女衣装の随所に加えられていたのだ。
何がそうさせたのかは言うまでもないがあえて説明しよう。
新緑の精霊の力と心を受け取って、マジカルナックルが新たな姿となったのだ!
「ありがとう」
マジカルナックルは、感謝のあまり涙を浮かべる。
心の奥から温かい力が萌え上がる。
それは生まれ、成長する生命の力。包み込む愛情。伸びゆく勇気。
ほんの少しあった「今?」という思いと、現役時代に強化フォームが得られなかったコンプレックスが押し流されていく。
頬を伝って落ちた涙の場所から、芽が出て花が咲き、広がってゆく。
マジカルナックルの周囲三メートルほどが花畑となった。古びてツタが這うだけの石畳だったにもかかわらず。
「あ、私の都合で話を遮っちゃってごめんなさいね。話を続けましょう」
「え、ヒスイ様、その、なにかないんですか」
「なにかって?」
「自身のことじゃないですかッ!」
「今はそれどころじゃないでしょう?」
「自分のことをもっと気にしてくださいよッ!」
エルエルヴィがマジカルナックルに詰め寄るが、それはそれ、これはこれだ。
「ありがとう、エルエルヴィちゃん。大丈夫よ、悪いことが起きたわけじゃないのだもの。だけど目の前の現実は依然としてあるんだから」
エルエルヴィの肩に手を置いてそっと回転させると、その方向には轟炎竜。
再び顎を地に付けて二人を、どちらかというとマジカルナックルを見ていた。
『珍しいものを見た。精霊を身に宿す者もかつてはいたものよ。いささか様子は違うようだが。どちらにせよ余には及ばぬ』
改めて対話の態勢をとったものと、マジカルナックルは受け取った。
あまりに巨大な轟炎竜が、あえて地に顎をつけて、その上で言葉を紡ぐのはそういうことなのだろうと。
ならば今はチャンスなのだ。
気まぐれだろうと、それ以外の何かだろうと。話をしてくれるならしなければならない。
「その轟炎竜閣下に影響を与えた黒い魔力。あれはいったいどういったものなのですか?」
それがわからなければ新緑の森が再び何者かに襲われる可能性を捨てられない。
エルエルヴィたちにとっては余計なお世話となりかねないが、これまでの轟炎竜の反応から、そうはならないだろうと感じていた。
『見物の褒美として無礼な問いを許そう。そして答えだが』
ごくり。
言葉を切った轟炎竜。
そして言葉が再開する。
『余はなーんも覚えておらぬ』
「はい?」
『余の宮殿で眠っていたのだが、気づいたら手の中になんかキモいのがおったのだ。キモいから投げ捨ててその場を離れたのだが。何やら節々が痛かったのもあり、ここで様子を見ることとしたのだ。ここを選んだことに他意はないぞ』
「キモいのですか?」
『うむ。世にも珍奇なキモさであった。虚無の底かと思ったわ。どうやらすでにいなくなっているようだが』
マジカルナックルは既視感を覚え、同時に湧き上がるあまりよろしくない感情を制御しようとした。
その結果出力された行動がこれだった。
「そのキモいのというのはこういうものでしょうか」
マジカルナックルは変身を解いた。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!???」
聞いたことがある者はほとんど居ないだろう、轟炎竜の悲鳴が響いた。
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