015 決意
本日投稿1/4
「こうやって開けます」
『なんと……!』
マジカルナックルがトラックの箱型の荷台を開くと、轟炎竜が興味深そうな声を漏らしながら中を覗いたり、指を突っ込んでみたりしている。
現在、エルエルヴィにトラックに感じた魔力を調べてもらっている。
その間、轟炎竜が心変わりしないよう、気をそらそうと接待をしているわけだ。
荷台の開き方?
説明書を読んだのだ。
ダッシュボード下の収納に入っていた。
説明書は人類の英知そのものである。
時間も場所も違う相手に正しい情報を与えることができるのだ。
「これが燃料タンク」
コンコンと叩くが乾いた金属音だけが返ってくる。
やはり燃料は無いようだ。
トラック自体を輸送中にしても、燃料がない状態はそうそうないと思うのだが、無いものは無いのでマジカルナックルの認識が間違っていたのだろう。
『美しい構造であるがそこだけは醜く膨れておるな』
「そうですか? この丸みとかよくないですか? ここに燃料を入れなければ動かない重要な場所ですよ。お腹みたいで」
『腹か。腹であれば膨れるか。腹が膨れておるなら動けよう』
「ああいえ、これは空っぽです。ちょうどいい感じに精製した油が必要です」
『なんだと?』
トラックといえば軽油だったはずだ。
軽油は軽のための燃料ではなく、ディーゼルエンジンの車両のための燃料なのである。騙されるところだった。どちらに取り違えてもいけないのだとこっぴどく叱られた。
マジカルナックルはその差がなにかよく知らないし精製の方法も知らないので燃料を用意するのは絶望的だ。蒸留でもすればいいのだろうか。触媒とか必要だったらお手上げだ。
食用油でも動くとかいう話を聞いたことがある気がするが、間違っていたら壊れるし直せないからマジカルナックルの手に余る。
魔法が使えるなら可能性はあるが。
『適当なことを言っているのではあるまいな』
「まさか。そんなことはしません。轟炎竜閣下。そういえば高いところから落ちたようだったのにどれも新車同様なことが気になっていたのですが、運んだ時なにか気づきませんでしたか?」
「GURURURURU」
意味のない唸りが轟炎竜から発せられる。
「それについては見当がついた。ヒスイ様、話してもいい?」
「エルエルヴィちゃん、お願い」
『訳せ』
「わかりました」
轟炎竜の機嫌が悪くなってきたところで、エルエルヴィが役目を終えて駆けよってきた。
轟炎竜がそちらを睨むので、マジカルナックルの背中に隠れる。
エルエルヴィが言うには。
トラックが帯びている魔力は強力な負の想念であり、それがトラックにある概念を付与していたという。
負の想念といえば、マジカルナックルが転移直前まで受けていた闇の光線が思い浮かぶ。
しかし概念というのはなんだろうか。
「強い魔力を帯びると、それに込められた概念が具現化することがある。そうして魔法の力を得た道具が、魔導具」
気安く喋るように言ったからかエルエルヴィの喋り方が変わっている。
「込められた概念?」
トラックに込められた概念とは何だろうか。
物を運ぶ以外にあるのか。
「輸送、移動。そして死と異世界と出会いというものが読み取れた」
「……トラックが原因で死ぬと異世界に転移するということ?」
そんな馬鹿な。物語じゃあるまいし。
マジカルナックルはそう思った後、魔法ならば何でもありだと思い直した。
異世界は存在している。
例えば魔法の国は魔法少女の間では知られている異世界だ。
そしてもちろん、今まさにマジカルナックルが経験している。
魔法は様々にあり、魔法少女たちもバリエーション豊かな魔法を身につけていた。
マジカルナックルが使えないだけで、魔法の汎用性と可能性は無限大だと感じている。
であれば、そういうこともあるかもしれない。
「おそらく、帯びた魔力との相性によるもので、その魔力もほとんど失われていますねッ!」
「魔力を再現してこのトラックで死なないと戻れないということかしら」
『これで命を落とすなど。余は異世界に渡ることはできぬか?』
物騒な話になってきた。
そもそもあのときマジカルナックルは死んだのだろうか。
ダメージは蓄積していたが。マジカルナックルには自覚がなかった。
「異世界に転移できるとしても、元の世界に転移するかわからない。転移先を指定するような要素はわからなかった」
「あー……」
「そしてもう一つ。トラックも同じ理由で転移してきたと考えられる。壊れていないのは転移時に再構成されたことが原因ではないかと思いますッ」
エルエルヴィの口調が安定しないのはさておき。
「トラックがトラックで異世界転移? フグが自分の毒で死ぬようなことが起きてるのかしら」
『毒魚などどうでもよい。余の宝はこれですべてということか』
すっかりトラックは轟炎竜の宝ということになっているようだが、それはまあ構わない。
問題は帰る手段が、少なくとも当座はないことが判明したことだろう。
あの闇の光線の魔力の再現、トラックによる死、転移先の指定と、現段階の仮説には少なくとも三つの難題があることがわかった。
あるいはまったく別の手段を見つけるか。
どれにしても簡単なことではない。トラックで死ぬことは可能だろうがそれだけでは意味がない。
マジカルナックルはどこかほっとしている自分を自覚していた。
仮にすぐに戻れていたとしても、おそらく心の残りを感じていただろう。
すぐに帰れないのであれば、そちらに意識を向けられる。
この世界に来て二、三日ほどのことだが、自分の体質のことも知ったし、放置するには不穏な情報もある。
帰れるなら帰っていただろうが、だからこそ、すぐ帰れないことはマジカルナックルの気持ちのためによかったのかもしれない。
で、あるならば。
やるべきことが一本化したので切り替える。
「閣下、轟炎竜閣下。私がこの世界に来て最初に出会ったのは轟炎竜閣下とこのエルエルヴィなのですが、覚えていますか?」
踏み込んだ。
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