013 探索
塔の入り口は金属で補強された両扉で、片方だけ開いた状態で朽ちていた。
「蝶番の角度斜めじゃない?」
「開け閉め大変そうですねッ」
「……」
「……? どうしましたッ?」
「いや、暗いなって」
塔の内部は暗い。
石造りで窓が見当たらないのだから当然だ。
ツタに侵食された廃墟。
今にも何か出てきそうだ。
マジカルナックルは愛と勇気の魔法少女である。
しかしなんかおばけとか出そうで怖い。
争いの末滅んだ都市なんて、ホラーにはぴったりのシチュエーションである。
「人間は暗いと見えないのでしたっけッ。不便ですねッ。見えないと危ないですがそこの大きいののほうが遥かに危ないのでッ。灯火……は止めておいて調光の魔法」
すぐそこのドラゴンの方がよほど怖いというのはその通りだ。
エルエルヴィが魔法を唱えると、エルエルヴィを中心に少しずつ明るくなっていった。
エルエルヴィの用途としてはまぶしい時に使う魔法らしいが、暗い時にも明るくなるそうだ。
「目に優しい明るさになるってこと?」
「そうですよッ。少し面倒ですが」
少し面倒らしい手間をかけてくれたので、マジカルナックルも勇気を出すことにした。
塔の中に踏み込むと学校の教室より少し狭い程度の広さで、柱が四本あり、そのほかには何も置かれていなかった。
奥に階段が見える。
「何もないですね」
「持ち出されたのでしょうッ」
声が響く。それ以上に轟炎竜のいびきが響いているのだが。
「うるさいね」
「寝るなら静かに寝てもらいたいものですねッ」
なんとなく。
見張り塔であれば内部に滑り降りるための棒とかあるのかなと思っていた。消防署にあるような。
しかし、それらしい穴も棒もなかった。見張り塔ではなかったのかもしれない。あるいはそういう発想がなかったか、それとも高すぎて棒があっても危ないとか。
階段が出口から遠いので緊急の連絡に向いていないこともあるのでやはり見張り塔ではないかも。
そうすると隔離用だろうか。ラプンツェルのような。
特別な地位の罪人用の牢屋だとか。
なんだかもっと怖いイメージになってきたので切り替えて。
石は記録媒体としては粘土と並んで保存性の高い媒体だと聞いたことがある。
それとは関係ないが床も天井も階段も、ぐらついたりはしなかった。
石それ自体の重量によって支え合う構造を作るのが石造建築らしいので、何事もなければ残りやすいのだろう。
「このあたり地震はないの?」
「地の振動ッ? 世界の終わりですかッ?」
隙間に植物が入りこんだり、地震が起きないのであれば長く残るのだろう。
ヨーロッパのお城なども残っているのだから、それと同じことだ。
耐震性に血道を開けるのはマジカルナックルの母国特有の事情なのだろう。
階段をのぼりながらそんなことを考える。
階段を上った先は一階と変わらない様子だった。
何も置かれておらず、反対側の壁に階段がある。
扉があけっぱなしだった一階よりも、こころなしか埃っぽさがマシかなという程度の差である。
「何もなさそうですねッ」
びっくりするほど何もない。おばけもいないのでマジカルナックルはいびきがうるさい以外は気にならなくなってきた。
そしてどんどん登っていくと、行き止まりになった。階段が崩れていたのだ。
崩れた壁から空が見える。
「この上かな」
最初にヒスイが目覚めた場所は床が少し崩れていた。登ってきた高さを考えてもこのあたりのような気がする。
「エルエルヴィちゃん、ちょっと失礼」
「ぐぇ?」
マジカルナックルはエルエルヴィをお米様抱っこ。若い女の子の姿であるマジカルナックルの肩はエルエルヴィのお腹に食い込んだ。
「痛いですッ!?」
「あ、ごめん、こっちにしようか」
改めてお姫様抱っこ。
「角度が難しいかな」
マジカルナックルは天井の穴を抜けて上の階に跳び上がった。
顔を出してそのまま降りた。
崩れかけているので下手に着地したり手をかけると危ないかなと思ったのだ。
「この上だったけど崩れそうだね」
「魔法で上がりましょうッ」
エルエルヴィが浮遊の魔法をかけてくれると、ふわふわと浮いていく。足元が安定しないのでちょっと不安。
床より上に全体が出ると、床をつま先でひっかくようにするとわずかなベクトルが生まれて奥に進むことが出来た。
ヒスイがこの世界で最初に目覚めた場所である。
他の階と違って、一応物が残っている。ボロボロにはなっているが。
「どう? 何かわかる?」
「待ってくださいッ。過去視の魔法」
抱っこを解除されたエルエルヴィが魔法をかけると、エルエルヴィの目の焦点がわからなくなった。
過去視というからには過去に焦点を向けているということだろうか。
「確かに。ここにヒスイ様が出現しています。はじめは今の姿で。すぐに大きな姿に変化しました」
マジカルナックルの姿でこの世界に来ていたようだ。
やはり戦闘中に転移したものと思ってよさそうだが。
「原因とか、戻る方法とかわかる?」
「うーん。魔法儀式の痕跡はあります。ですが、一日二日の間に機能した様子はありません。もっと古いですね。あまり昔までは見えないので断言はできませんが」
「ほうほう」
推理ものとか成立しないだろうな、と思いながらマジカルナックルは状況を咀嚼する。
マジカルナックルの異世界転移はこの場所とは関係ない可能性が高いということだろう。
もしかしたら、エルフのエルエルヴィが古いというほど昔の魔法儀式とやらが関係している?
いや、それはさすがにないんじゃないか。
ここが滅んだのは六百年前である。
「ということはわからない?」
「痕跡を写し取って戻って分析します。出現時の変化をよく調べれば遡れるかもしれません。魔力記録の魔法」
「至れり尽くせりだ」
エルエルヴィが優秀すぎる。
地球に連れて帰ってお仕事手伝ってもらいたいほどだ。
「終わりましたッ。あとはそのあたりに落ちている道具をどれか一つ持って戻りましょうッ」
「ひとつでいいの?」
「いいですッ」
マジカルナックルは薄汚れた金色の燭台らしきものを拾うことにした。持ちやすそうだったので。
それじゃあ帰ろうか、と振り向きながら声をかけようとした瞬間、目が合った。
巨大な顔。
轟炎竜であった。
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