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鉄血の武田信玄 ― 科学で天下を取る男  作者: やしゅまる


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33/50

第33話 『鉄の舟、海へ ― 初航行試験と“船の科学”』

富士川河口――

朝霧の向こうで、巨大な船体が影を落としていた。


赤備え衆は胸を張って叫ぶ。


「殿!! “海城一号”、ついに完成であります!!」


全長十五間。

鉄骨の肋材を木装甲で包み、さらに内部に空気室を張り巡らせた――

世界でも類例のない“半鉄船”だった。


山県昌景は、もう涙声である。


「鉄が……海に浮く日が来るとは……!

 殿!! これはもはや海の城!!」


ドミンゴは震えながら、船体を撫でた。


「いや……こんな速度で船を形にするのは、南蛮でも不可能……

 武田は……職人たちまでも“理”を会得している……」


信玄は静かに言う。


「理が通れば――手は迷わぬ。技も迷わぬ。」


その言葉に、南蛮一行は改めて背筋を正した。


────────────────────


出航の前、信玄は海城一号をわざと揺らすよう命じた。


赤備え衆が左右に縄を引き、船体をゆっさゆっさと揺らす。


赤備え

「殿! 船があばれております!!

 これ、沈む前触れでは!?」


昌景

「殴るな! 揺らすな! なぜ殿は毎度心臓に悪いことを!!」


信玄は淡々と木札に記録する。


「沈まぬ。これは“復元力”の試験だ。

 揺れた後、船がどれほど元の姿勢へ戻ろうとするか――それが魂だ。」


真田昌幸の目がぎらぎらと輝いた。


「くぅぅ~~ッ!! これが……“動的安定”ッ!!

 海の上でも“数値”が働くのか!!」


ドミンゴは思わず膝をつく。


「船の……魂まで測るつもりか、この男は……」


そのとき、信玄は乾いた声で告げた。


「揺れの戻りは十分だ。行くぞ――出航だ。」


赤備え衆

「応ッ!!」


────────────────────


海城一号は、静かに河口を抜け、外洋へ。


赤備え衆がオールを漕ぎ始めるが――

すぐ悲鳴があがった。


「う、動かん……!

 お、重い!! これは鉄のせいか!?」


「殿!! やはり鉄は海に――」


信玄

「違う。」


信玄は舷側に手を触れ、波の乱れを見つめる。


「これは“水の抵抗”だ。

 船底の角度が“抵抗を増やす線”になっている。」


ドミンゴ

「水に……抵抗の“線”が……ある……?」


昌幸

「殿!! 船底を……もっと丸くすれば……

 流れが、撫でるように……!」


信玄

「その通りだ。海の形に合わせて削る。

 船とは――“海流の線”である。」


ドミンゴは頭を抱えて叫ぶ。


「海の形を読む!?

 あなたは……海までも地図のように扱うのか!!」


信玄は静かに笑う。


「読めぬものなど――ない。」


────────────────────


すると、沖合から突然、横波が襲った。


海城一号が大きく傾き、赤備え衆が転げまわる。


「ぎゃああああ!!」

「今度こそ沈む!!」


昌景

「殿!! “理の技”を!!」


信玄は冷静に、舵を握るドミンゴへ指示した。


「“波の押し角”を消せ。

 風上へ三度――

 波の向きへ四度――


 “七度の修正”で船は安定する。」


ドミンゴが舵を切ると――

船体がスッと波に乗り、一直線に走り出した。


赤備え衆

「まっすぐになった!!」

「波が……言うこと聞いた……!!」


ドミンゴは震えながら呟く。


「タケダ殿……

 波の角度まで……読んでいる……?」


信玄

「波は敵ではない。

 ただ、“向き”があるだけだ。」


その静かな言葉に、全員が息を呑んだ。


────────────────────


初航行は、ついに成功した。


船は波に揺られながらも戻り、進む。

鉄であっても、理を通せば海を渡れる。


だが信玄は、満足した様子はなかった。


義元

「殿……十分に見事な船でござる……

 なにゆえ、そのご不満そうな顔は……?」


信玄

「鉄骨が強すぎる。

 重さに対し、強度が余っている。

 これでは“海城”に届かぬ。」


昌幸

「では……何を目指すのですか?」


信玄は海面に目を落とし、はっきり言った。


はがねだ。

 鉄より軽く、鉄より強い金属。

 ――武田で作る。」


ドミンゴは震えきった声で言った。


「武田は……海軍ではなく……

 “海の科学文明”を作ろうとしている……

 タケダ殿……あなたは海を支配する気か……?」


信玄は首を振る。


「支配ではない。

 “理解”だ。」


潮が夕日に照らされ、黄金に輝いた。


赤備え衆

「殿の理に、我らついて参る!!」


信玄は潮の流れを眺めながら呟いた。


「次は、“海流の利用”だ。

 海そのものを、動力へ。」


その瞬間――沖合に巨大な渦が巻いた。


まるで未来を呼ぶかのように。



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